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#5. 休職時に受けられる社会保険からの所得補償

前回はどんな会社が社会保険の対象(適用事業所)となるのかという、経営者目線の記事を書きましたので、
今回は従業員目線で、私傷病や出産・育児で会社を休んだときの給付(所得補償)について、今国会で成立予定の法改正についても触れながら説明したいと思います。

これは雇用保険や社会保険に加入している方が前提なので、フリーランスの方や経営者、雇用されていても社会保険に加入していない方は、この部分の補填を自身で(民間保険に加入して)備えておく必要があるかもしれない…という観点でご参考いただければ幸いです。

出産・育児の場合

出産から育児休業

-産休・育休の期間-

労働基準法では、女性は産前産後休業(会社によっては産前休暇・産後休暇などと呼びます)が定められています。
・産前:出産予定日から42日間+α ※任意
・産後:出産日の翌日から56日間 ※最初の42日間は義務

産前は任意なので、極端な話、産まれる直前まで働いても構いません。
しかし会社には「安全配慮義務」がありますので、多くの場合は有給消化して42日前から産前休業に入ります。
「+α」と書いたのは、出産予定日と実際の出産日は(予定帝王切開等を除き)ほとんど一致しないためです。出産が遅れた場合は42日より長く、早まった場合は短くなります。

産後は42日を過ぎれば、本人が希望し医師の許可もあれば復帰することが可能ですが、多くの場合は56日休んでそのまま育児休業に入ります。
育児休業は原則子が1歳になる前日まで(この間はパパ・ママが同時に休むこともOKです)、それ以降は1歳時点・1歳半時点で各々保育所に入れない等の理由があれば、最長2歳の前日まで延長することが可能です。
なお、育児休業は労働基準法ではなく、育児介護休業法に定められています。産前産後休業が義務である(どんな人でも受けられる)のに対し、育児休業は一般的には入社後1年経過している等の条件があります。

少し脱線しますが、世の中には(特に大手企業で)3歳まで育児休業が取れる会社もあります。
キャリアを考えると3歳までは取りすぎだと個人的には思うのですが(私自身は第1子は3か月、第2子は6か月で復帰しました)、子どもとの時間を大切にしたいという考え方の方もいるので、「多様な選択肢」という点では良いと思います。

男性の育児休業を取るケースも増えてきましたが、男性は上記に加えて、配偶者(女性)の産休期間も別途育児休業を取得することが可能です。
これも2022年10月に改正予定があり、「出生時育児休業」として社会的に2週間以上の育休取得を推進していく流れです。

-産休中は「出産手当金」(女性のみ)-

産休中は、加入している健康保険から「出産手当金」が支給されます。

支給額は給与のおおむね3分の2です。
健康保険料は等級ごとに決まっており、例えば過去1年間24万円の等級の方であれば、24万円×2/3÷30日=5,333円(1日あたり)が非課税で支給されます。
※健康保険加入後1年に満たない場合は、本人の等級と健康保険組合(または協会けんぽ)の平均の等級と比べて低い方が適用されます。
なお、健保組合によっては、独自の給付として3分の2よりも上乗せ支給がある場合もあります。

基本は産休が終了した後で、産休終了日を含む給与計算が終わってから会社が手続きするため、振り込まれるのは当分先だと考えてください。
もし早めに手続きして欲しい場合は会社に相談しましょう。
注意点としては、産休中の給付は「会社から給与が支給されない」ことが条件になるため、もし会社から少しでも支給があれば、その分が減額となります。(賞与は別扱い)

また、上記の所得補償とは別に、出産にかかる費用の補填として「出産育児一時金」も健康保険から支給されます。これは国民健康保険も同じですね。
法律では原則42万円ですが、健保組合によっては上乗せがある場合もあります。

なお、産休期間以外でも、「切迫流産」「切迫早産」などでお休みをする場合がありますが、後述する「傷病手当金」の対象となります。

まとめると、産前産後休業期間は労働基準法により保証されており、健康保険に加入していれば「出産手当金」が支給されます。

-育休中は「育児休業給付金」(男性・女性)-

育休中は、雇用保険から以下の給与補填があります。(非課税)
①育休開始から最初の6か月  :67%
②7か月以降(最長2歳まで):50%

健康保険と異なり、休業に入る前の6か月間の平均給与で算定されます。
雇用保険の場合は支給上限があるので、もともと月収が高い方は、思ったほどもらえないこともあります。①の期間30万円ちょっと、②の期間は23万円弱という感じです。

最近プライベートでも相談を受けたのですが、育児休業給付金などの雇用保険の給付は条件(受給資格)があります。
大前提として雇用保険に加入して保険料を収めている必要があります。
具体的には、休業に入る前の過去2年間のうち12ヶ月以上が「一月あたり11日以上給与の支払い対象になっていること」が必要です。要するに、1ヶ月のうちに11日以上出勤や有休扱いになっていればカウントできます。
ちなみにこの「11日以上」のくだりは、最近副業なども増えてきたことにより、80時間でもOKとされています。

もうひとつの注意点は、パートやアルバイトなどの有期雇用の場合、入社後に雇用保険に加入して1年が経っていないと、いくら会社が育児休業を認めても給付が出ません。
パートやアルバイトの方で、これから出産を予定している方はご注意ください。

-産休・育休中の社会保険料免除-

会社が独自で認める場合も含めて、3歳までは健康・介護・厚生年金の保険料が免除、つまり保険料を納めなくても保険料を払ったことになり、将来の年金額にも反映されます。
すごく恵まれていると思いませんか?

具体的には、月の末日に産休か育休を取っていればその月は丸々保険料免除になるので、例えば6月10日に夏季賞与が支給される会社の場合、6月30日の一日だけ育休を取ったとしても6月給与・賞与のいずれも保険料が免除されます。
ただしこの運用は不公平感があるため見直しが予定されており、2022年10月以降は、月次の保険料は2週間以上の休業、賞与保険料は1か月以上の休業のみに認められるようになります。

私傷病の場合

要件に該当する場合、加入している健康保険から「傷病手当金」が支給されます。
要件は「私傷病」=労災以外の病気やケガで欠勤や休職をしている場合です。医師の証明があれば、精神疾患(うつ等)でも支給されます。

支給期間は「もらい始めから最長1年6か月」です。
もし復帰後に再度同じ病気で休んだ場合、現在は復帰した期間も含めて1年6か月ですが、こちらも法改正が予定されており、2022年1月から通算化される見込みです。つまり、途中で復帰した場合を除いて1年6か月支給されるようになります。

給付額は産休とほぼ同じで、おおむね3分の2です。
繰り返しとなりますが、健康保険料は等級ごとに決まっており、例えば過去1年間24万円の等級の方であれば、24万円×2/3÷30日=5,333円(1日あたり)が非課税で支給されます。
※健康保険加入後1年に満たない場合は、本人の等級と健康保険組合(または協会けんぽ)の平均の等級と比べて低い方が適用されます。

支給のタイミングは、対象期間が含まれる給与計算が終わった後に会社が手続きを行うため、2か月みておくと良いかと思います。出産と異なり、給与締日毎に一月ずつの申請するのが一般的です。
傷病手当金も「会社から給与が支給されない」ことが条件になるため、もし会社から少しでも支給があれば、その分が減額となります。(障害年金等を受給した場合も支給額が調整されます)

出産手当金と異なる点としては他に、最初の3日間(連続)お休みをしてからの支給開始となります。これを「待機期間」と言い、この3日間は有休であっても構いません。
また、産休や育休のような保険料免除がありませんので、給与ゼロになった後は、毎月会社に保険料を入金する必要があります。住民税も払っていく必要があるので、生活設計で考慮しておきましょう。

傷病手当金でよく問題になるのは、腰痛や精神疾患等で再発性が高い傷病のケースです。
これまでに同様の事由で給付を受けていないか、健保組合等にしっかり調査されます。転職等で健保組合が変わった場合は、以前の健保組合に「照会」して、同一傷病でないか確認を求められますので、初回の支給がかなり遅れることもあります。
再発かどうかの判断は健保組合等によって異なりますが、精神疾患の場合は1年ほど復帰ができていればリセットとみなされることが多いようです。

非課税を活かした節税

出産育児や私傷病で非課税の給与補填を受ける場合、ちょっとした工夫で節税をすることが可能な場合があります。
例えば出産育児でまとまったお休みをもらう場合、その年の課税対象の年収(※)が103万円であれば配偶者が「配偶者控除」、103万円超であっても201万円までであれば「配偶者特別控除」を受けることが可能です。
(※)年収は給与だけだと仮定した場合

または、これらの控除を受けられない場合であっても、例えば元々女性の方が収入が高いため子どもや親を女性側の税扶養に入れている場合、年収が減った年だけ男性側の税扶養に移すということも全く問題ありません。税金の扶養は自己申告で自分たちで決めることができます。

これらの情報は、男性側の会社は教えてくれませんので(配偶者の収入を把握できないため)、意外に盲点だったりします。
これから出産の予定がある方は、ぜひ意識して欲しいと思います。
また、この記事を読んで「過去に該当していたかも」という方は、5年間であれば遡って確定申告をすることができます。税理士等にご相談ください。

さいごに

出産・育児系の給付については、当事者であればよくご存知だと思いますが、とにかく法改正が多い分野なので、本人はもちろん人事担当者や経営者の方は常に最新情報を確認することが必要だと思います。

このnoteでも、今後の法改正など必要な時期に紹介していければと思います。

【ご注意】
・内容を簡単にまとめるため、細かな法令や文言が抜けていることがありますことご了承ください。
・記載時点の法令に準じております。



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