いつでも願いは届かない3
★続き★
そうこうしていると、いよいよ夏休みだ。
各教科、分厚いテキストがあって長期休みの度にそれを進めるのは私立の中高ならではのやり方だ。去年の公立には、こんな分厚いテキストはなかった。それをこなしながら、また近所のアキと集う。
「KAT-TUNの新曲がかっこいいの!
聞いたほうが良い。Don't you ever stop!
特に聖がカッコいい!」
「ん、わかった。聖は好みじゃないけどね。
それよりアキちゃん、佐藤とはどうなのよぉぉぉぉ」
「嬉しすぎて、未だに話すとき照れる!
でねでね!ディズニーのお土産に、ダッフィー貰った!会えない時の俺の代わりって。ヤバくない??」
「何それ…初めて聞いたぞ、その風習!!」
「周りみんなやってるよ。どうだ、羨ましいか!」
「いいなぁ〜☺️☺️☺️」
そう言いつつ、まりなはだんだん自分が、青春の貴重な時間を棒に振っている気がしてくる。
アキが佐藤に胸を高鳴らせている間、私は女子ばっかり、しかもごきげんよう!などと挨拶をする閉鎖的な環境の住人じゃん…
男といえば、爬虫類顔の数学のイケダだけ。男子にキュンキュンする機会などない。だが次の瞬間、大して可愛くもない自分がそんなものを羨ましがるなんて図々しいよね、と即座に打ち消す。アキちゃんと佐藤は、学年ではちょっとした美男美女なのだから。
そんなことを考えていると夏休みはあっという間に終わりに近づく。気分転換がてら、まりなは夏休みが終わる数日前、髪をボブにした。これ以上髪が伸びて髪を三つ編みにして登校するのを回避するためだ。髪を結んだとき、セーラーのタイよりも長くなる時は三つ編み、と校則で決められているのだ。手先が不器用なので三つ編みは、自分でできない。前髪も随分短く切った。背が低く、年齢より幼く見られるまりなにしては多少攻めたボブだ。お、髪切ったね!と普通に言ってくるクラスメイトもいたが、まりなの耳に入ってきたのは悪口だ。
「山野、、あの髪型、火垂るの墓のせっちゃんじゃん!!」傷つくというより、頭が真っ白になる。たしかに前髪は同じぐらい短いけどせっちゃんと違て、後ろは刈ってないんよ…
これを聞きうんざりしたまりなは、翌朝学校に行かない!とゴネた。当然母は怒ったが、父は今日は損切りだな、損切りってわかるか?などと、難しいことを言い出す。元々マイナス基調だが、とりあえず更なる大損を回避する、みたいなことらしい。
こうして日々、クラスに馴染もうとしない新参者ゆえの悪意に晒されつつ、季節は秋になってゆく。母は、中2女子を学校に引きずってはいけない、と諦めたようだがゴネると怒りはする。そんなある日、まりなは『スクラップティーチャー』というドラマが始まることを知る。例の山田涼介や知念侑李が出るらしい。クラスでもこのことを話す子が増えた。もしかしてクラスの子とこれをキッカケに話ができたりする?なんて思いつつ、見てみることにする。自分と同じ中学生のドラマということもあって毎週、夢中で見た。ちなみに、まりなの目を惹いたのはJUMPの4人よりも、中島健人と菊池風磨だった。2人ともカッコいい。そして年も近い。
クラスではあまり話さないけれど、メル友の大竹さんにはうっかり主題歌の『真夜中のシャドーボーイ』のCDを買ったことをメールで話す。
「え?ちょっと聞きたいかも。貸してよ!」
「もちろん」
クラスの子と関わるきっかけ欲しさもあったが、実際にこういう展開になると誰かに何か言われるかな?という不安も頭をもたげる、まりなは生粋の「陰キャ」だ。
どこから話が伝わるのか、
案の定普段話さない派手なグループのユウミに
「ねぇ、山野。真夜中のシャドーボーイ買ったんだって?すごい意外!大竹に貸すの?」と言われる。ユウミは山田涼介が好きなようだった。
「う、うん。そうなの。スクティー見てるんだー。」仮にも向こうから話しかけてきたのに、
ヘドモドしちゃって…と、まりなは話しながら自分に呆れる。
次の瞬間「ねぇ、JUMPなら誰が好き?
山田涼介?知念侑李?岡本圭人?中島裕翔?」 と隣のミキが問う。
「う、、うーーん。誰だろう…
や、山田涼介カッコいいよねぇ〜。」
「よかった、岡本圭人じゃないんだ」
会話は向こうが去ってゆき、そこで途切れる。
よかったってなんだよ…
やっぱり、私、変な奴に思われてめちゃくちゃ嫌われてるよな…
そしてやっぱりこの学校に、私の居場所はないんだ…高校受験するか?きっと父も母も反対するだろう。高校受験は、ないな…
深く傷ついた訳ではないけれど、
クラスメイトのミキが放った一言は案外まりなに重く響いた。
みんなと仲良く普通に学校生活を送れたら、
それにこしたことはない。だが、それには自分が、かなり変わらなきゃいけないらしい。いや、それはしんどい…
まりなの懊悩をよそに時間は過ぎてゆく。