どんな花もやがては散って
学校も楽しいとは言い難いうえに、家庭は不和が続く。そして高2になると転校生がやってきた。彼女もアイドル好きだという事で、一瞬明るい兆しもあったのだが、色々あり、うまく関係を築けなかった。そんな反省点も多い惨憺たる高校生活も終わりが見えてきた。高2の最終面談で、担任から薦められた学校が思いの外良いレベルで、良いフィナーレが迎えられそうだと思っていた。ところが自分の成績を随分良いように履き違えていたらしく、その時薦められた指定校推薦が、高3の前期で相当巻き返さないと取れないらしいことになった。不真面目で勉強嫌いなまりなは、頑張るのはしんどいから、と即座に今の成績に見合ったプランを練り直す。母親に付け焼き刃を呆れられつつ、今の成績と見合う、とある大学にオープンキャンパスに行った。すると「この大学は、あまり人数が多くありません。その分学生同士の距離が近く、1人の喜びはみんなの喜びなんです!」と学長が言うではないか。ここでなら、うまく行くかも???と根は楽観的で、その上怠惰なまりなは直ぐに飛びつく。母も父も特に反対意見はなさそうだ。
結局、学長の言葉を信じ高3の最初に決めた大学を受験することになった。一番試験日が早いと言う理由でAO入試にチャレンジする。人間関係づくりはとにかく初手が大事、ということをこの5年間で嫌と言うほど身につけたまりなは、グループワークでは何とか頑張って周囲に積極的に声をかけた。今回はみんな初めましてだから、転校生として輪に入っていくのとはわけが違う。安心だ。まりなは小学生の頃も転校が多く、いつも自分はいわば異分子だったことに気づく。そういえば、転校して1週間ぐらい経った頃、他のクラスの子が休み時間に「転校生どれ??」と見に来るのが、本当に調子が悪かった。そう言う時に「これ、山野まりな!!」と答えながらまりなを引っ張っていく子のことも、まだあまり知らない。それで余計に萎縮してしまう。特にその相手が男子だと、相手は興味本位で深く考えずに来ただけなのに、なんかガサツそう・・・と思って警戒したものだ。そう言う経験を経て、人間関係づくりがとことん下手になっていったのである。全員で初めまして!の環境に安心して試験に集中しつつ、しっかり合格をもらえた。のちに発足したLINEグループにも早い段階で入る事ができた。仲良くなった子とは、高3のうちから遊びに行く約束もできて、やればできるじゃん!これで大学生活は安泰ね!と未来に珍しく希望も湧いてきた。
高校の職員室でも山野が落ち着くべきところへ落ちついた、と話題になっていたらしい。合格直後、珍しく数学のイケダが「山野さん、ホンットによかったね〜」と穏やかに声をかけてきた。11月の末まで、体育を休もうとして、保健室の前田先生に「まりなさん、後何回か数えてみよう。ほら、もう後3回!」とハッパをかけられる本当に情けない有様だったが何とか無事にピリオドが打てた。卒業式のあと、謝恩会がやっと終わり母に「はー5年間長かった。とっとと帰ろ、ママ」と言い放った。無遠慮で声の大きいまりなが、普通の音量で言ってしまったため、聞いていた同級生のママさんに苦笑されてしまった。最後の最後まで、自分で自分の居場所を狭くしてしまうような学園生活だったと思いつつ、母の車に乗り込む。前々から、卒業式の後に車で帰る時は大好きなAKB48の『GIVE ME FIVE!』と決めてわざわざブックオフで中古のCDを買った。歌詞がその時の心境や状況にぴったりマッチしたからだ。そんなことは知らない母はなぜこれ?と訝しがっている。次に流したのはサザンの『夕陽に別れを告げて』だ。これも桑田さんの高校時代のことを歌った曲で、桑田さんの出た鎌学は男子校だし、何となく合う気がした。そして次の日、過去を振り切るべく髪を明るい茶髪に染めた。大学生活のスタートだ。まりなはずいぶん歳を重ねてからも、あの中学高校の日々に引き戻される夢を定期的に見る。目が覚めた瞬間に決まって「ヨカッタ、10年前に終わってるよ・・・もう・・・」と安心する。いつか、その夢からも解放される時が来るだろうか。