いつでも願いは届かない2

★前回からの続き★

まりなは、母の言い出したMyojoというワードを手がかりに本屋に走る。そういえば、中1は同じクラスだった親友のアキの部屋での仁亀がどうとかいう雑誌をみたっけ、などと思いだしているとMyojoやWink upがあった。

まりなは、初めて世の中にアイドルが載る雑誌が複数種類ある事を知る。手にとってみると自分とそう年の変わらぬ男の子たちが微笑んでいる。ジャニーズってこんなに居るのか…。
そして、小学校のときクラスメイトのサユリに
教えられた亀梨くんと赤西くんの姿も発見する。彼らは、微笑んでいる少年たちよりも少しお兄さん。カッコいい。
それよりまりなの目を引いたのは
「好きな人が出来たら?緊張するけど、男らしく自分から告白するよ。」という自分と年の近いジュニアのインタビューだった。お、おぅ…このイケメンに告られるってどんな確率?
その次に目を引いたのは
「定期試験が終わったよ!数学と英語はバッチリ!」という別のジュニアの子の近況。
生年月日を見ると彼は私と同じ学年。
そうか、スターだけど私と同じ中学生なんだなぁ。芸能活動もして勉強もしてって、どんな感じなんだろう。頑張れ!
そんな考えに耽っていると、いつの間にか
レジに持って行っていた。

家で隅々までMyojoを読むと、慣れない環境で日々疲れていたまりなの心は不思議と和らぐ。
同い年の子が、学業との両立を頑張っていることが分かったからだろうか。それともアイドルと呼ばれる人たちが潜在的に持つ、人を元気にする力そのものだろうか。すると、部屋にMyojoを置いていた親友のアキからメールが来る。アキとは転校後もちょくちょく連絡を取り合っていた。彼女はいつも突然だ。彼女の家はまりなの家から徒歩30秒。すぐにピンポンを押すと中学のジャージ姿で迎えてくれた。
「まりな、新しい学校で友達はできたの?」
「それが、みんなギャルっぽくて、
山田涼介とか知念侑李とか
言ってて、なんかよくわからない…
趣味が合う子がいない。
黙ってるし、目つき悪いから、何あのチビ!キモいんですけどって言われてるw」
「そりゃ、あんたは正直すぎるし、ギャルとは上手く行かないよねぇ。そうじゃない子と早く仲良くなれると良いね。」
そう言いつつ、アキは手慣れた様子で
KAT-TUNのReal FaceのCDをかける。
彼女が部屋に行く度、聞かせてくれたおかげで
亀梨くんと赤西くんと田中聖しか顔と名前は一致しなくても、このシングルはカップリングのGLORIAとWill be Alrightまで大好きだった。
締めに、アキが、ついに念願叶って小学生の頃から憧れだったサッカー部の佐藤と付き合い始めた、という話を聞いてまりなはアキの家を辞去した。

まりなは、ようやく気づいてひとりごちる。待って、、わたし女子校に来ちゃったから誰かと付き合うとか無いわけよね??と。
去年大好きだったコウジ先輩は、共通の知り合いのユカリ先輩に相談したら、女癖が悪いから絶対止めときな!って一蹴されたばっかりだ。いや、それ以前にコウジ先輩は自分の友達のカナと付き合っていたではないか。その時点で告白するとか、付き合いたい!という選択肢はない。そんなことを思うほど、大胆でも図々しくもない。付き合いたいとは毛頭思ってないが「いつでも話聞くから」と言ってくれるコウジ先輩は、やっぱりまりなの癒やしではあった。
そしてコウジ先輩と同じクラスだったユカリ先輩に聞くところによると、女癖はたしかによくなさそうだ。って、そんな人を好きになったなんて、やはり男を見る目がなさすぎる…。ってか、コウジ先輩、何でもない私にもあんなに優しかったのはやっぱり…そして女癖が悪い中3男子ってどういう事?大人の男の人で、女癖が悪い人ならドラマで見たことあるけど…
深く考えれば考えるほど、「おぼこい」自分にまりなは絶望的な気分になる。ちょっと優しくされただけで好きになるなんて、やっぱりチョロすぎるよね…と。何もわかっていない自分に焦りを感じつつ「好きな人ができたら、男らしく自分から告白するよ。」というさっきのアイドルの記事を思い浮かべる。どうやらそういうことは、当分自分の身に起こらなそうだ。そう思うと、あの雑誌は、よりエンタメ性を帯びる。現実にはいないカッコいい男の子の、現実には起きるはずのない、恋愛のことが書いてある雑誌。なんという、ワクワクだろうか。思い切って一緒にお弁当を食べるグループの大竹さんにもメールで報告する。
「気になって、ジャニーズの雑誌買っちゃった!」
「お!誰か、カッコいい子いたー?」
「KAT-TUNの亀梨くんと赤西くんかな」
「いいねぇ〜」
アイドルに支えられたまりなの学園生活はこうして始まった。