RIDE ON TIME〜プロフェッショナルとしてのアイドル〜

社名変更となり名前が消滅したジャニーズ事務所。各メディアとの距離の近さは巷間言われているが、フジテレビにその象徴のようなドキュメンタリーがある。風間俊介がナレーションを務め、ジャニーズのタレントに密着したRIDE ON TIMEという番組だ。山下達郎のRIDE ON TIMEがテーマソングとなっている。

私はかつて、大学の講義で、ドキュメンタリーというのはリアルを描写しているようでも、作り手の意図とは不可分だと教わった記憶がある。当時、ドキュメンタリーを題材にしたレポートのネタを探していた際、この番組を偶然見て、この番組について書いた。その際にも、ジャニーズ事務所が企画制作したコンテンツであり、広報的な側面も否めないと書いた。では、当時のジャニーズ事務所が「広報」として伝えたかった事は何なのか。今回久々に見直して、それは所属タレントの卓越したプロフェッショナリズムではないかと感じた。

それが特に感じられたのはKAT-TUN編である。亀梨和也が、マネージャーとドラマ撮影の現場で翌日以降の仕事の流れを打合せしているシーンだ。マネージャーに、レコーディングを翌日に控えた楽曲が自身の元に届いていない、とクレームしていた。その後、ディレクターが彼に問いかけた時も、今はお芝居ことを話しているから、と制していた。これは、普段ファンは見ることのないプロとしての姿勢である。そのシーンの前にCM撮影で、コンテンポラリーダンスに挑み、OKテイクまで3時間を要した、という場面があった。この時は大変な撮影にも関わらず、ファンがイメージする穏やかなテンションであった。それだけに、ドラマの現場での言動には、彼のプロフェッショナリズムがより際立つ。

今夏、ジュリー藤島前社長が最初に発表した謝罪コメントには「弊社タレントは皆、それぞれが並々ならぬ努力や研鑽によってのみ輝いているものと存じます。」と記されていた。5年前に制作されたこの番組を見返し、先述の謝罪コメントの一節を思い出した。この番組が制作されたのは過去の話で、今回の問題とは何の関係もない。だが、ジャニーズ事務所のタレント達がいかに日々高い意識を持って努力し、研鑽を積んでいるかはこの番組から十分伝わってくる。今現在、性加害という文脈をなしにしてジャニーズのことを考えることは難しく、またそれが適切なのかどうかも非常に難しい。特に、ジャニーズのエンターテインメントに支えられた経験のある人は日々報道を耳にし、複雑な思いに駆られているだろう。だが、タレント達のプロフェッショナリズムは、ジャニーズ事務所に受け継がれていた貴重な財産だったのではないか。

日本のアイドルカルチャーを愛する者として、私はジャニーズ事務所の性加害問題には非常に心を痛め、持って行き場のない憤りも感じている。ファーストプライオリティは、被害者への補償であり、同時に新会社では、可能な範囲で、過去の出来事に関する具体的な究明や振り返りも行われるべきだと考える。その上で、この番組が、昨今の流れに乗って、配信停止にはならないでほしいと切に願う。彼らが自らの使命に邁進し、ファンを楽しませようと奮闘した日々の記録だからだ。V6や5人体制のKing&Princeなど、もうこの番組でしか見ることのできないグループもあり、日本のポップカルチャー史の一つの遺産だと言っても過言ではない。来月以降、まずは新会社でしっかりと補償がなされることを願いつつ、彼らの卓越したプロフェッショナリズムには、敬意を評したい。