ティーンの頃の財産
サザンオールスターズについてのご著書を手に取ったことをきっかけに知った
音楽評論家のスージー鈴木さん。
この度発売となった新著「弱い者(もん)らが夕暮れて、さらに弱い者たたきよる」を早速手に取ったので今回はそのことを。
物語の舞台は、70年代後半〜80年代に差し掛かる辺りの大阪。ティーンの少年の目から見た当時の大阪の光景と歌謡曲が、リンクして綴られている。私は平成7年に生まれ、静岡と神奈川で子供時代を過ごした。そんな私の目には世代差もさることながら、鈴木少年の出会った人や出来事には、大阪という土地柄が大きく影響していると感じた。スージーさんと同世代の両親から、この本で出てきたようなエピソードは聞いたことがなく、新鮮な驚きとともに読み進めた。
特に印象的だったのは、中学時代のロックバンド キャロルを介した同級生とのエピソードと、小学生の普段の生活エリアからちょっと離れた地域への大冒険だ。
ストーリーのディテールは、実際に手にとって確かめて頂きたい。
この2つのエピソードは、特に鈴木少年が自己形成をしていくにあたって、大きな出来事だったのではないかと想像する。彼は感性の柔らかな時期に、自分と違う属性の他者への想像力を養う機会を多く得たのである。教育者でもあられたご両親が、その機会をどう受け止めるかの道筋を付けられた。そして、自分と異なる属性の人々への心理的なハードルは、相手のことを実はよく知らないゆえだ、ということに鈴木少年の柔らかな感性は気づかせてくれた。
ティーン頃の経験というのは、いわば今後の人生への下地作りだ。その時期にどんなものと出会い、何を感じたか。大人になって振り返ると、多少ほろ苦い経験も含めて得難い財産になっていることに気づく。そしてティーンの頃の経験が、歳を重ね「自分が社会や他者に対してどんな視座を持つ人間になったか」という答えとして返ってくるのだと、この本は教えてくれた。
自分がローティーンの頃に好きだった音楽を思い起こしながらあの頃の自分にも、これからの自分にも、恥じない生き方をしなくては!と強く思った読書体験だった。