アイスコーヒー
コーヒーが好きです。
いつから好きなのかもおぼえてないのだけれど、毎日飲みます。
高級なのはごくたまに。
普段はドリップパック(ブルックスの正月に出る福袋ファン)とか。
インスタント(ネスカフェゴールドがあれば機嫌良し、現在はマキシム)も問題なし。
朝、大きいカップに並々といれ、豪快にごくごく飲む。
仕事の合間にゆっくりとかみしめて飲む。
風呂上り、冷たいのも楽しみに風呂に入る。
コーヒーを飲んだら眠れないということがないので。
夏の間はアイスコーヒーが私の親友になる。
濃いか薄いかといったら濃く、苦いか酸っぱいかといったら苦いのが好み。
アイスコーヒーについて、忘れられない思い出がある。
高校二年の私は友達に誘われて喫茶店に行った。
薄暗い店で、階段を上がっていった記憶あり。
誘った友達、Hちゃんは都会に住んでいた(※都会=23区)
部活の帰り、Hちゃんと一緒に私は上りの電車に乗った。
気に入っている喫茶店があるという。
アイスコーヒーは銅でできたマグカップに入っていた。
濁りのない透明が美しい氷の中、コーヒーはとてつもなく冷たかった。
ジャズが流れる暗い店の中、おしゃべりもせず、黙ってアイスコーヒーを飲んだ。
濃くて苦くて冷たくて香りがあった。
汗が引いていく。
流れるジャズは私を一気に大人の世界に引き寄せた。
この店には支店があるのを知る。
そこは当時住んでいたところから近くて、本店よりも行きやすい。
複合施設の中にあったのだけど、周辺の店とはかけ離れた浮世離れしている空間だった。
バーチャルなんじゃないだろか、行く時だけ現れる、私が作った仮想空間ではないか…と毎回疑いながら店に入っていた。
運ばれてきたアイスコーヒー、銅のマグを見て、触って確かめてやっと仮想空間ではないことを認識する、それくらい不思議な感じがした。
濃く、苦く、冷たい飲みものは、初めて本店で飲んだのとほとんど変わっていなかった。
大学生になり、社会人となり、仕事をやめて主婦となり、再就職し、会社が廃業して無職となったどんな時でも店はあった。
疲れた時、足が向いた。
ただそこに行ってアイスコーヒー飲んで(冬はさすがにホットコーヒー)、おやつの時間ならケーキを食べて、おなかがすいていたらスパゲティを頼んだ。
店を出ると現実の私に戻る。
友達を連れて行くとたいてい気に入ってくれた。
今、その店は移転した。
閉店から再オープンまで約1年。
再開を約束しての閉店だったのだけど、この1年が長かった。
自宅で再現できないかと思ったけど、お湯わかしている時に気づいた。
薄暗く、ジャズが低く流れているあの空間で飲む、あの味に恋しているんだって。
あの雰囲気に癒され、元気もらっていたんだって。
初夏に再開した時には感動した。
調度品がほとんどそのままの店でアイスコーヒーを飲んだ。
もう数えるのもめんどくさくなるほどの昔、高校生の私が飲んだ銅製のマグに入った濃くて苦くて、震える程冷たかったアイスコーヒーが、今また私の目の前にあり、のどを通って胃に落ちる。
また君にあえてうれしい。