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ぶんじゃじっかく

 結婚して30年を過ぎた。
   夫は定年退職をして、新たな職に就いた。
中肉中背、ごましお頭(毛量多し)、眼鏡、見るからに真面目そう。
 そして笑わない。あまりしゃべらない。他人から見たら、寡黙でとっつきにくいかもしれない。

 だが、付き合い30年、私は知っている。
笑わないのは、以前、むやみに笑ったら、喘息が起きたからだ。
一時、お笑い番組を見て「俺を殺すのか」と言っていた。
宝塚を見に行ったときも、ラストの大階段の、羽根を見て泣いていたし。

 あまりしゃべらないのは、滑舌が悪すぎて、伝わりにくくて、かっこ悪いいからだ。
 案外、ええかっこしいの面もあるのだ。

 そんな夫だが、家事を普通にこなす。当然、息子のお弁当も作った。
が、ある日、息子が吐露した。
「あのさ~お父さんがお弁当作ってくれるのはいいんだけどさ~、
あれだけは食えね~んだけど…」

 ゆでたまごのおにぎり。

 どひゃ~! しかも塩もなしで。
確かに、どこかしら、すっとぼけた人だと思うよ、息子もすっとぼけているしね、だけど…いくらなんでも。

  そんな夫が、定年前のある日、ぼそっと言った。
「定年したら、ぶんじゃじっかくを歩き回りたいなあ」

 どこに行くんじゃ~~~!

 

 



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