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ブラック社労士事務所からの退職録。

こんにちは、採用定着士&社会保険労務士として広島で活動しているReiwa社会保険労務士事務所の久米でございます。今回は人生で1番大変な目に遭ったブラック社労士事務所のことを書きます!!

労働基準法違反の数々を紹介しています。もしここに書いてあることに当てはまっていたら、お近くの労働基準監督署か総合労働相談コーナーに問い合わせてみるのが良いかもしれません。

【この記事でわかること】

◇残業時間の集計
◇労働条件通知書とは何ぞや?
◇サービス残業(未払い残業代)
◇有期労働契約って何?

「30分未満の残業切り捨てってあり?」「入社したのにまだ労働条件通知書もらってない…」という人は最後まで読んでみてくださいね。


ブラック社労士事務所との出会い

社労士を目指し、都会の事務所で経験を積みながら立派な社労士になるんだ!と、やる気&根性だけで他県に引っ越しました。未経験やる気だけのピヨっ子を採用してくれたのが某社労士法人。このとき残念ながら、私の耳に【地獄】が幕開けする音は聞こえていませんでした。

ブラック事務所のブラック三昧な日常

ブラックがブラックたるゆえんはもちろん「ブラックな所業」にあります。ではどうブラックだったか?悪の所業を見ていきましょう。

①残業時間の集計:端数切り捨て

このブラック事務所は定時が18時でして、たとえば18時29分に仕事が終わったときは、手書きのタイムカードに18時退勤と書かせていました。

残業時間の集計方法は、法で厳密にルールが決められています。たとえばこの事務所は1日単位で、30分未満の時間を切り捨てており、これはNG。※労働基準法24条通達

1か月単位で時間を合計し、その時に30分未満の端数があれば切り捨ててよいのですが、1日の勤務時間で30分未満の端数が生じた場合、その端数を切り捨処理してはいけません。福井県の労働局委員会のサイトがとてもわかりやすいので気になる方はコチラ

▼職場のトラブルQ&A ~時間外労働の端数処理~ | 福井県ホームページ
福井県公式サイト。

②労働条件通知書をいつまでも渡さない

勤務時間はいつからいつまで、勤務場所や雇用形態など、会社と従業員の契約内容を書いた書面は入社時に渡さなくてはならないもの。しかしこのブラックときたら、いつまで経っても急かしても、書面を渡してくれません。

「労働条件」は、①必ず書面で労働者に伝えなければならない(明示しなければならない)ものと、②口頭で伝えてよいものの2通りです。書面を渡すタイミングは、遅くとも入社時。入社前に渡すところもあります。

このブラック、入社日に私がもらおうとしても「まだ作ってない」と言い、何度も何度も急かして1週間近く経ってからようやく渡してくれました(遅)どんなことを書面にして渡すのか、書面の渡し方(労働者が希望した場合は紙でなくてもOKになりました)はコチラをご覧下さい!

③固定残業時間を超える残業は「存在しない」

固定残業25時間を超える場合はタイムカード(手書き…)に記入してはならないという暗黙のルールが存在。

このブラック事務所にはリーダーと呼ばれる人たちがいました。タイムカードはリーダーの印鑑が必要です。25時間を超え残業をした時などは明らかに嘘の退勤時間を書かなければ、印鑑を押してくれないという状態。(先輩からはハッキリと嘘を書け言われました)

ブラックと私

私は入社時の1月に有期労働契約(期間の定めあり、つまりいつからいつまでと雇われる期間が決められている契約)を交わし、期間は半年だったので7月で契約が切れそこから正社員になる予定でした。※キャリアアップ助成金正社員化コースを申請するため

まさかまさか、この有期労働契約が「未来の私」を救ってくれることになります。

後悔の日々。ブラックにも程がある。

やったことのないイレギュラー業務(算定、年度更新)を調べ、通常のボリューミーな業務をこなし、1時間当たりの給与は800円台。※当時の最低賃金。

「教える」という概念はなく、先輩や前任がやっていたファイル・資料の山を自ら掘り起こして、形跡を探し真似ろという方針でした。こんなん、ものすご~~~~く時間がかかりますからね。

全力でやってはいましたが、ろくに引き継ぎもなく先輩から私に業務が移り、先輩の前にも担当者が変わっていたこともありお客さまの不信感は拭えず、お客さまから罵倒されたり嫌味を言われることもしばしば。

入社して3ヶ月、担当する顧客は約20社に。全くの未経験で社労士の受験勉強だけしている私にマニュアルもなくまるっと丸投げ。

給与計算などしたことがなく、テキストの上っ面な文面しか知らず手続きもしたことがなかったのですが、業務は待ったなし。もちろん書籍を買ったりマニュアルも自作しましたが、スピードと正確さはすぐ習得できません。給与計算だけでなく、手続きもあります。(1か月に1社だけで200人の雇用保険手続きをすることもありました……思い出すと泣きそう)。

先輩たちも忙しく、手を貸してほしいと頼んでも「これが終わったらね」と言われるため、自分でこなすしかない状況。※この部分は労働基準法違反ではありません

残業は60時間を超えてゆき、休日出勤しても追いつかなくなりました。しかも記録上は仕事をしていないことになっています。(帰宅は12時前がザラ。※時給800円台)

入社4ヶ月目にして体調不良の坂道を転がっていきます。

夜9時まで布団の中で過ごす

たまの休日。朝、目を覚ましてから夜まで、ほとんど布団から出られず着替えられず、最低限トイレとなにか胃に入れる時だけ這いずり起きる、という状態に。仕事終わりも悶々としなかなか寝付けず、朝は気怠く、石のような体と重い心で満員電車に乗り、ただやり過ごすような毎日になりました。

頭の回転が鈍くなり、簡単な受け答えすらできなくなりました。例えば、会話がなかなか成立しない、言ってる言葉を理解するのに時間がかかる、頭では言葉(文字)が浮かんでいるのに発音できない、言葉を文章に組み立てて喋れない。などです。

作業効率はただでさえ時間がかかっていたのにもっとガタ落ちし、残業が増えるという悪循環が始まりました。毎日クレームのような電話を入れてくるお客さまもおり、心身共に極限を迎えます。

退職の意思表示

入社5ヶ月目、私は役に立たない人間でここにいたらみなさんに迷惑をかけてしまうと思い込み、体調不良を理由に辞めようと決めました。このときは「こんなブラック辞めて当然!」とは考えていませんでした。

ただ迷惑をかけたくない、恩に報いたいという気持ちが先行しており、体調不良で退職をしたいとだけ上司に伝えました。

そもそも人手不足でろくに育成すらしてないこの事務所から得た回答は、「退職するなら3ヶ月は引き継ぎのために残れ!」でした。

それから…

上司の態度がかなり冷たくなりました。分からなくもない反応ではありますが、そもそも論、「仕事の割り振りやサービス残業がはびこっている組織の体制に問題があると言う事実は黙殺しておいて人が定着する訳ない」んですよ。(私が入社する前にベテラン3人が同時退職)

引き継ぎをしようにも、担当顧客のリストを作成して上司に渡したのに引き継ぎさせてくれません。仕事の割り振りを決められない状態にされ、時間だけが過ぎていきます。

超ホラー:契約書を渡される

7月に入り、有期雇用契約期間の終了日が近づいてきました。入社当初、契約終了後は正社員になる予定だったので、契約終了して引き継ぎが終わるまでの間は正社員として契約を締結すると想像していました。がー。

7月上旬、事務所は

正社員にはしない、7月の契約期間が満了しても辞めさせない。引き継ぎまでの期間は契約社員として残れ。

という主旨の有期労働契約の書類を突きつけてきました。

ホラーかよ。

補足:有期労働契約とは?

ざっくり簡単に言うと「○月○日から□月□日まで働く」という約束を会社と従業員が交わす契約のこと。原則、途中での解約はできません(途中で辞められない•辞めさせられない)。とはいえ、例外的に退職することは可能です。

ただ今までの上司や所長の言動から、「どんな理由があろうと社会人なら期間満了まで働け」と騒ぎ立ててくるのは明らか。契約期間満了まで辞められないという恐怖に襲われます。

命の恩人あらわる

契約満了後に新たな契約を交わして数ヶ月、働けるのだろうか?と言う不安で押しつぶされそうでした。しかしこの時の私は「辞めて迷惑をかけるのだからせめて引き継ぎだけはなんとかしてやらなくては」という無駄な使命感でいっぱいだったのです。

そんな時。

地元の友人が旅行で遊びに来ており、私の家に泊まることになりました。

その日、私の現状を説明し、聞き終えた友人はすぐに「新しい契約は結ぶな」と言ったのです。体調不良で全く仕事も手についていないのに、続けられる訳がない、と。

自分自身は階段を降りるようにゆっくりと体調が悪くなり、自分の状態をわかっていませんでしたが、友人には異常にうつったのでしょうね。

マジそれな。

友達に進言され「こんなブラックな事務所に謎の義理立てをする筋合いは全くない」と気づきます。

そこから、サクサクと撤退準備を進めました。

契約満了日は7月の土曜日。上司が新しい契約書を渡して来たのはありがたいことに前日の金曜日。(その書面の給与額が最初に聞いていたものより激安になってて笑うしかない)

上司に「印鑑は家にあるので今は押印できません」と伝え、目の前で押印はしませんでした。そして終業時に私物をかき集めて持って帰り、翌日の契約満了日に職場へ行って、上司の机に退職届を置いて去りました。

退職届には、「契約期間満了」なので途中で解約した訳ではなく、新しい契約書の給与額に納得ができなかったため、契約に合意できませんと書きました。

逃げることも、戦い。

いま思い返しても、どうすればブラック社労士事務所を円満に退職できたのかわかりません。でも、私はバックれて良かったと思っています。心の底から逃げた自分を褒めていますし、この経験は自分の血肉になっています。後悔していることと言えば、「もっと早くに辞めておけば良かった」という1点ですかね。

この時はまだ気づいていませんでしたが、ブラック社労士事務所を辞めて半年経っても体調が回復しなかったため心療内科に行ったところ、うつ病と診断されました。

今思えばうつ病の症状がずっと出現していたのにそれを症状と自覚していなかったから恐ろしいものです。これでも心理学科卒なんだけど、自分のことは案外分からないなあ、としみじみしますわ。

ホワイト社労士事務所へ

私は某ブラック社労士事務所を辞めてすぐ、就職活動をスタートしました。しんど過ぎて梅田駅で1時間うずくまって歩けなくなりながらも、ある事務所へ就職が決まったのです。辞めてから半月経っていませんでした(多分、記憶あいまい

あのブラックを辞めてから、本気で社労士の夢を捨てようと思っていました。でも捨て切れなくて、一縷の希望をかけて唯一、面接を受けた社労士事務所が私を拾ってくれました。

私はその事務所に3年近くいました。資格の学校にも通わせてもらい、社労士試験に受かり、今は独立しています。社労士試験に受かったのは、前の事務所を見返したる、ていう執念があったからだと思います。ちょっと語りつくせないので、端折ります!

夢をあきらめなくて本当に良かったです。

これから

ブラック社労士事務所で心を砕かれ、病みましたが今はこうして開業することができました。社労士を目指してからあっという間に7年経ち、ようやくスタートラインに立ったのです。

まだまだ始まったばかりであり、すでに凹むことも多々ありますが、今の私みたいに振り返った時に「がんばって良かった」と10年後に思えるよう、前に進んでいくのみです。


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