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敗者だから伝えたい こうして会社は倒産しました 17

~調査会社の情報網~

 前回までのあらすじ。従業員のクーデターが起こった話でした。

 そんなことが起こったりしていると、仕入れている企業も不安に思ってくるのでしょう。ある日とある大手の商社から呼び出しがありました。

中小問屋が大手メーカの商品を仕入れる方法と諸事情

 中小企業の卸問屋は、基本的に大手メーカさんと直接取引することができません。その理由として、
・大量の顧客との直接取引を行うと、会計上の事務量が膨大になる
・貸し倒れ等のリスクに備えるための管理コストが上がるから
・倒産前後の商品の出荷について、管理や処理が困難だから
といった理由があります。一部のメーカさんは、半年分とか1年分の長期間に相当する売上見込額の保証金を積めば、取引してもらえる場合もあります。普通の中小問屋では、支払いサイトよりもはるかに長い保証金を積んでまで、直接取引する必要もないと考えるのです。
 また、一部のメーカさんは、直接の販売先を増やさない方針を取っているところもあり、どこかの販売会社を通さないと仕入れること自体が不可能な場合もあります。

 こうした事情から、全ての商品をラインナップするのは基本的に難しいことです。しかし顧客の要望があれば、商品を調達しなければならないのも問屋の宿命なので、様々な手段を講じることになります。

 私の経営していた会社の場合は、
・直接仕入
・県内老舗問屋からの仕入れ
・大手商社系問屋からの仕入れ
の3パターンで商品を調達していました。県内老舗問屋も直接ではなく、どこかの販売会社や商社系企業を通していたのかもしれません。

 こうなると、直接仕入れた方が安いと考える方も多いでしょうが、現実的に直接取引しても、全国チェーンの規模からみれば大した金額でも数量でもなく、上に掲げたような管理コストも上がるので、むしろ価格が上がる可能性さえあります。細く長い日本列島で、発注から納品までのスピードを求める流通事情としては、単純に直接取引が安くなるわけではありません。

 また、直接仕入れが増えれば、仕入業務で商談や検討する問屋のコストも上がるため、中間業者が取りまとめて商談してくれる方が、全体コストは下がる場合も多いです(これは小売店も同じで、直接仕入を増やせば、小売店の管理コストは必ず上がります)。

商社系問屋からの呼び出し

 という業界事情の話でしたが、取引している大手商社系の問屋さんから呼び出しがかかります。「呼び出し」と表現していますが、基本的にこちらがお客であり、相手が納入業者という立場があるので、丁寧・慎重・礼儀正しく本部に来所することお願いされた感じです。「呼び出し」と表現しているのは、普通の商談と違い、雰囲気から察すれば時期を永遠に伸ばしたり、断ったりすることができないからです。

 ということで、鹿児島から福岡まで行くことになりました。私と当時部長をお願いしていた方と二人で行きました。

 最寄りの駅から担当者が迎えに来て頂いて、物流センターが立ち並ぶ場所の一角にある会社に訪問します。二人では広過ぎて落ち着かない応接室に案内され、先方の社長と担当役員が出迎えてくれました。

当時の会社の状態

 今までお話していませんでしたが、その時会社は銀行からの強力なプッシュもあり、再生支援協議会の援助を受けて企業再生に取り組んでいました。
 債務超過は解消しておらず、月額のキャッシュフロー上の赤字幅は、当初の1000万円から500万円ぐらいまで削減できましたが、依然として父の保険金の3億円を毎月削り取って生き延びている状態です。

 役員報酬は、私が専務時代は月30万で、父が月50万でした。私が社長就任した後も、報酬は変えていませんので、月50万円は削減できています。実は支店長や工場長の方が給料高い状態です。

 再建のために、工場に2千万円程度の設備投資もしましたし、システムの刷新によって大きなリースも新たに組んでいました。

 そうした状況の中で、再生支援協議会として採択されたことによって、金融機関の一定の協力体制を得ることができ、先の部長も地元大手銀行の支店長職を歴任された方に来て頂いたのです(給料も相当安くしてもらってました)。

そして商社系問屋の社長からの話は

 そこで話を戻します。先方からの話とは、某大手企業情報調査会社へ私の会社の調査をかけた結果の報告書を見せて頂きました。

 全部書いてありました。再生支援協議会の話も債務の話も全部。恐るべし情報網です。再生支援協議会の案件は、協議会関係者・直接取引している金融機関・当社役員と部長だけの極秘事項で、どこにも発表していませんし、当然に企業の信用に関わるため、関係者全員に緘口令が敷かれています。
 決算書も銀行と税務署しか提出していないのですが、全部ばれてます。

 その調査会社は、私も契約していたので、自分の会社情報も時々閲覧しています。安い価格で閲覧できるページにはそうした内容は書いてありません。ある程度以上の調査費用を払っての調査なのでしょう。

 その後、協議会内では誰かがリークした以外にありえないため、大きな騒ぎになったようです。商社系問屋さんに対しては、概ねの内容を認めた上で、継続取引条件の話が後から出てくることになりました。


倒産社長が伝えたい経営の教訓


情報の秘匿は完全にはできない
 
 当時は今ほど企業内情報の暴露話がネットに書かれる時代ではありませんでしたが、信頼できる機関や組織でさえ情報が漏れる状態だったのです。特定の企業に関する行政や金融機関で起こった情報漏洩について、大きな事件化として報道すれば、それ自体が次の風評被害を起こす可能性があるので、ニュース化されないのかもしれませんが、完全に防止されたかどうかは、非常に怪しいと個人的に見ています。

 むしろ企業情報がバレたとしても、問題ない経営をしなければ、どこからでも話は出てきてしまうことを自覚する必要があると思います。

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シリーズ1回目はこちらからです。

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