入社日に年次有給休暇を前倒し付与する際の注意点
入社日に年次有給休暇を付与するルールにしたい
年次有給休暇について、労働基準法では、入社して6ヶ月が経過した時点で初回の付与がなされるルールになっています。そのため、入社から半年以内の従業員が怪我や病気、急な私用を理由に会社を休むときには、有給休暇がないので原則「欠勤」として扱うこととなります。
そういった事象を防ぐために、入社日(▶︎もしくは、3ヶ月の試用期間が終わって本採用となったタイミング、などとしている例もあります)の時点で一定日数の有給休暇を付与する、というルールを就業規則で定めている会社も少なくありません。
いわゆる前倒し付与ですが、いくつか注意が必要なため、整理したいと思います。
そもそも法律上の付与日数は
労働基準法上、年次有給休暇については次の通り、付与日数が定められています。これを下回る日数を付与することは労働基準法違反になるので注意が必要です。
▶︎所定労働日数(=雇用契約書で定めた勤務日数)に応じて日数が異なりますが、ここでは(1)通常の労働者の付与日数を前提として整理します。
入社日付与の注意点 〜単純に入社日5日、半年後に残りの5日付与、に変えるだけでは不十分?
と考えそうになりますが、これは実はNGです。⚠️
この例のように、初年度の年次有給休暇について、入社6ヶ月という「基準日」より前に、法律で定められた付与日数のうちの一部を前倒しして付与し、本来の「基準日」に残りの日数を付与することを、年次有給休暇の分割付与と言います。
「基準日」とは、年次有給休暇を付与する日のことです。
分割付与を行うに当たっては、下記の行政通達で示されている2つの要件を満たさなければならないとされています。
長くて難しいのでまとめると・・・
イは、年次有給休暇の発生に必要な↓の要件のうち、短縮した期間の出勤要件は満たしているものとして扱うこと、という内容です。
ロは、初回の基準日を繰り上げた(前倒しした)のであれば、2回目以降の基準日についても同じ期間分前倒しすること、という内容です。
つまり、入社6ヶ月後に付与される10日のうち、5日分を入社日に前倒しして付与する場合(=分割付与する場合)には、「基準日」が入社日に6ヶ月間前倒しされます。そこで、次年度以降(入社1年6ヶ月、入社2年6ヶ月…)の基準日についても、同じように6ヶ月間前倒しし、(入社1年、入社2年…)とする必要があります。
全体的に6ヶ月前倒しする形になるので、年次有給休暇が付与されるまでの期間についてカバーしてあげたい、という趣旨のみから考えると、次年度分以降にも影響が及ぶのは避けたい、という判断も想定されます。
分割付与の制限がネックとなる場合は、年次有給休暇とは独立した入社時特別休暇の検討を
そうした取り扱いを回避したい場合には、年次有給休暇は法律通りのルールとした上で、入社時特別休暇を別途設けるというルールにするのが最も簡便です。労働基準法における年次有給休暇のルールの適用を受けない会社独自の休暇なので、基準日や付与日の制限も受けません。
休暇年度を定めた斉一的取扱いも可能です
そのほか、入社日にかかわらず、全ての従業員について、年次有給休暇の付与日を毎年4月1日に統一する、というような定め方も可能です。(斉一的取扱い)
こうした場合も同様に、「法定の付与日数を下回らない」ようなルール設定が必要です。
✔︎余談・・・年次有給休暇はなぜ6ヶ月で10日付与されるのか
労働基準法の年次有給休暇制度は、労働者の健康で文化的な生活の実現に資するために、労働者に対し、休日のほかに毎年一定日数の休暇を有給で保証する制度、とされています。
戦後、ILO52号条約を参考に、1年間勤務した労働者に対し、6日を与えること、というルールが労働基準法で定められました。これがスタートです。その後、1987年の法改正で最低付与日数が6日から10日に増加、さらに、1993年改正で国際基準を考慮し、継続勤務要件が1年間から6ヶ月間に短縮され、現在に至ります。
つまり、1年で6日→1年で10日→半年で10日、という経過をたどってきたわけですね。
そのほか、付与日数だけではなく、取得したことを理由とする不利益取り扱いの禁止や取得義務日数の設定など、年次有給休暇に関してはさまざまな改正がなされて現在に至ります。
数多くの論点がありますが、会社側にとっても、従業員側にとっても、労働生産性やワークライフバランスを保った働き方ができるよう、年次有給休暇の適切な運用は労務管理の鍵と言えそうです。
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