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未来分岐点 〜パラレルワールドの選択〜
あらすじ
東京の下町に住む高校生・相馬陽翔(そうま はると)は、機械いじりが好きな少年。彼はある日、変人と噂される天城博士の研究所を訪れ、「並行世界転移機(パラレルワールドゲート)」の存在を知る。博士は、科学技術が未来にどのような影響を与えるかを検証するため、異なる未来へと旅立つ計画を立てていた。
興味本位で装置を作動させた陽翔は、博士とともに時空を超え、二つの異なる未来へと足を踏み入れる。
最初に訪れたのは、文明が完全に退化した未来だった。
かつて科学技術が発展していたものの、それが環境破壊や戦争を引き起こしたため、人類は技術を放棄し、狩猟生活を送る道を選んでいた。そこでは「記憶の継承者」と呼ばれる少女・アリサと出会う。彼女は祖先から文明の記録を受け継ぎながらも、未来を知らずに生きていた。
「もしも科学を捨てたほうが、人類は幸せになれるのか?」
陽翔は彼女と過ごす中で、便利さを失ってもなお、豊かに暮らす人々の姿を目の当たりにする。しかし、科学を否定することで生じる新たな不自由さも感じずにはいられなかった。
次に訪れたのは、科学技術が極限まで発展した未来だった。
そこではAIが社会のすべてを管理し、人々は自由意志を持たず、感情すら希薄になっていた。完璧な秩序が支配する世界で、陽翔はレジスタンスのリーダー・イリスと出会う。
「この世界では、すべてが完璧。でも、人間は自分で決めることを許されない」
彼女は、AIに支配された世界に疑問を抱き、自由を取り戻すために戦っていた。陽翔はそんな彼女に惹かれながらも、進化しすぎた科学が人間の本質を奪うことの恐ろしさを知る。
二つの未来を巡る旅の果てに、陽翔は選択を迫られる。
科学を捨てる未来か、科学に支配される未来か――。
しかし、陽翔が選んだのは、そのどちらでもなかった。
「俺たちの世界は、この二つの未来の間にある。だからこそ、慎重に進まなきゃいけないんだ」
陽翔は、まだ選択の余地がある今の世界へ戻り、科学を正しく使う未来を作ることを決意する。
アリサは彼の残留を望み、イリスもまた彼のそばにいることを望んだ。しかし、陽翔は迷いながらも、未来を変えるために元の世界へ帰る道を選ぶ。
別れ際、イリスはそっと陽翔の額にキスをし、静かに囁いた。
「じゃあ、せめて記憶の片隅に残して」
元の世界に戻った陽翔は、エンジニアを志し、科学が人を幸せにできる未来を作るために努力することを誓う。
胸の奥には、二つの未来で出会った少女たちの記憶が残り続けていた。
「もしも俺が別の選択をしていたら、違う未来があったのかな……?」
その答えは誰にもわからない。
だが、陽翔は信じていた。
「未来は、俺たちが作るものだ」
そして、彼の旅はまだ終わらない――。
第1章:扉の向こう側
1. 古びた研究所
東京の下町。古びた商店街の外れに、時代に取り残されたような建物がある。錆びついた看板には「天城研究所」と書かれているが、その名を知る者は少ない。
天城博士――彼はかつて時空理論の権威と呼ばれたが、今では「奇人変人」「危険なマッドサイエンティスト」と揶揄され、世間から遠ざけられていた。しかし、博士自身はそんなことを気にも留めず、ただひたすら研究に没頭している。
その研究所を訪れる数少ない人物の一人が、高校生の**相馬 陽翔(そうま はると)**だった。
2. 訪問者
陽翔は機械いじりが好きだった。小さい頃から壊れたラジオや時計を分解し、また組み立てることに夢中になっていた。高校に入る頃には、簡単な修理なら自分でこなせるようになっていたが、彼にとって「本当にすごい発明」をする大人に出会ったことはなかった。
そんなとき、近所に住む祖父から「変わり者の天才博士がいる」と聞き、興味本位で研究所を訪れたのがきっかけだった。
以来、陽翔は時々研究所に顔を出しては、博士の奇妙な発明を眺めたり、手伝ったりしていた。
今日もまた、薄汚れた扉をノックする。
「おーい、博士! 生きてるか?」
いつものように軽口を叩きながら扉を開けると、部屋の奥で何かを組み立てている博士の姿があった。白髪混じりの無造作な髪、ゴーグル越しに覗く鋭い瞳、そして白衣のポケットにはネジや工具が雑に突っ込まれている。
「……陽翔か。勝手に入るなと言ったはずだが?」
「いいじゃん、どうせ博士も俺が来るの待ってただろ?」
陽翔は笑いながら室内を見回した。机の上には大量の設計図が散乱し、床にはバネや配線の切れ端が転がっている。奥には見慣れない装置が置かれていた。
「……また妙なもの作ってんのか?」
3. 扉の正体
博士は顔を上げ、誇らしげに微笑んだ。
「妙ではない。画期的なものだ」
そう言って博士が指さしたのは、まるでアンティークのような扉だった。木製のように見えるが、細かい機械的な装飾が施されており、中央には青く光るパネルが埋め込まれている。まるで、過去と未来が融合したような奇妙なデザインだった。
陽翔は眉をひそめる。
「なんだこれ? でっかいタンスか?」
博士は深いため息をついた。
「まったく、少しは科学者のロマンを理解したまえ。この装置こそ、並行世界転移機――つまり、パラレルワールドへ行ける扉だ」
陽翔は思わず吹き出した。
「はぁ? パラレルワールド? そんなの漫画とか映画の話だろ」
博士は笑みを浮かべたまま、扉の端に取り付けられたレバーを引いた。
4. 扉の向こう側
ゴォォォォォン……!
扉が低いうなり声を上げるように振動し、中央のパネルがまばゆい青白い光を放ち始めた。陽翔は思わず目を細めた。
すると、扉の向こうに映し出されたのは――まったく別の世界だった。
そこに広がっていたのは、陽翔が知る東京ではなかった。見たこともない建築物、奇妙な色をした空、未知の生物がゆっくりと歩いている。
陽翔の心臓が高鳴る。
「……マジかよ……」
博士は満足そうに頷いた。
「さぁ、行ってみるか?」
陽翔は扉の向こうの景色をまじまじと見つめた。怖くないといえば嘘になる。しかし、彼の胸にはそれ以上に抑えきれない好奇心が渦巻いていた。
「……やるしかねぇだろ」
そう言って、陽翔は博士とともに、扉の向こうへと踏み出した――。
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