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貞観の治、現代の挑戦

第一章: 運命を呼ぶ巻物との邂逅

太田宗一は机に散らばる書類を片付けながら、深く息を吐いた。父親から引き継いだ中小企業「貞観ソリューションズ」。名刺の裏にある「未来を共に創る」というキャッチコピーは、今や虚しい響きでしかなかった。

「営業成績は横ばい、離職率は上昇……。」

視線を投げたデスク上には、未読の報告書や未処理の請求書が山積している。ふと手にした一枚の紙に目を落とす。先月退職した若手社員が残した「退職理由アンケート」だ。

『上司とのコミュニケーション不足』
『やりがいを感じられない』

宗一は苦々しい思いで紙をくしゃくしゃに丸めた。自分なりに努力してきたつもりだった。だが、結果が伴わない。背後から押し寄せる無力感に、宗一は頭を抱えた。

「どうしたらいいんだ……。」

そんなときだった。机の引き出しの奥に、ひときわ目を引く光が見えた。

「ん?」

引き出しを開けると、そこには古びた巻物が一つ。皮のような素材の外装は薄茶色にくすみ、長い年月を経たことが一目で分かる。まるでそれ自体が歴史を宿しているかのような佇まいだった。

「なんだこれ……?」

手に取ってみると意外に軽い。宗一は慎重に巻物を広げた。パリッとした乾いた音が響き、古代の文字がずらりと並んだ光景が目に飛び込む。独特の字体は見慣れないが、何となく厳かな雰囲気を漂わせている。

表紙の部分には、力強い筆致でこう記されていた。

『貞観政要』

「貞観政要……聞いたことあるような、ないような……。」

ふと、宗一は亡き父の顔を思い出した。会社を軌道に乗せるために奔走していた頃の父の姿は、宗一にとって遠い憧れであり、プレッシャーでもあった。

「こんなもん、父さんが置いてったのか……。」

なぜこんなものが会社の引き出しに眠っていたのかは分からない。だが、好奇心に駆られた宗一は巻物を机に広げ、スマートフォンで「貞観政要」を検索した。

画面に映し出された情報には、こう書かれていた。

『貞観政要』――唐の太宗とその臣下たちが理想の政治と国の繁栄を語り合った記録。その教訓は現代の経営学やリーダーシップ論にも通じるとされている。

「唐の太宗……?聞いたことあるな、歴史の教科書で。」

宗一はぼんやりと記憶をたどる。確か、唐の全盛期を築いた名君とされる皇帝だ。

「理想の政治、か……。」

軽い興味から、宗一は巻物の中身を読み進めてみた。

「ん?これ……思ったより面白いぞ。」

太宗が民のためにどのような施策を打ち出し、臣下たちとどう向き合ってきたか。リーダーとしての考え方が具体的に記されている。優れた臣下に率直な意見を求め、時に耳の痛い忠告も受け入れる姿勢に、宗一は自然と引き込まれていった。

『民の声を聞くことは、治世の礎なり。人を知り、信じ、導くべし。』

その言葉に目が止まった瞬間、宗一の胸の中に小さな灯がともったようだった。

「これ、会社にも応用できるんじゃないか……?」

まるで巻物が宗一に語りかけているような気がした。そして宗一は、これが単なる偶然ではなく、何かの導きではないかと感じ始めていた。

その夜、宗一は『貞観政要』を片手に家路につきながら、次の一手を考え始めていた。

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