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実体化する幽霊②

第5章:過去のピース

拓海と志之の調査が進む中、大仙館の奥深くで、一冊の埃をかぶった古文書が発見された。それは重厚な装丁で、時代の経過とともに茶色く変色していた。拓海がその表紙を拭い、慎重にページを開くと、古びた文字がびっしりと書き込まれていた。

「これ、何かの記録みたいだな……。」
拓海は小声で呟きながら、文字を読み解こうと試みた。書かれているのは文久年間(1860年代)の出来事のようで、館の元所有者である一家に関する記述が散見された。

一方で、志之はその文字に見覚えがあるような感覚を覚えた。「これは……私が生前、読みふけっていたものだ。私自身が記したわけではないが、確かにこの本には何か重要なことが記されている。」

志之の言葉に触発され、拓海はさらに集中して内容を読み進めた。すると、ある箇所に注目すべき名前が登場した。「……これは、お前のことじゃないのか?」拓海が指差したその部分には、「志之」という名前と、彼が仕えていた主人とのエピソードが綴られていた。

志之と「付き人」の記録
古文書によれば、志之はある名家の使用人として勤めていた。志之は信頼の厚い人物であり、主人の重要な書物や宝物を管理する役割を担っていたことが記されていた。その記述には、志之が忠実でありながらも、どこか孤独を抱えていた様子がほのめかされていた。

さらに、古文書を読み進める中で、一つの興味深い記述が見つかった。それは志之と、一人の「付き人」の関係について書かれた部分だった。その付き人は、「桐子」という名の女性で、志之の主人の侍女として館に仕えていた。記録によれば、桐子は志之に対して特別な感情を抱いていたようで、文中には彼女が志之のために花を摘んで差し出す描写や、陰ながら彼を気遣う様子が描かれていた。

「桐子……その名前、聞いたことがあるか?」拓海が問いかけると、志之は目を閉じ、遠い記憶を手繰るように沈黙した。
「桐子……確かに、そんな名を呼んだ覚えがある。だが、それがどんな感情に結びついていたのか、思い出せない。」志之の声には焦りが滲んでいた。

拓海の分析と新たな発見
拓海はその場で考え込んだ。「志之がこの館に縛られている理由が、桐子との関係に何か関係しているのかもしれない。古文書に彼女の記述が残っているということは、彼女もこの館で何らかの役割を果たしていたんだろう。」

さらに古文書を読み進めると、桐子の運命について衝撃的な記述が記されていた。ある嵐の夜、桐子は何者かによって館の外へ連れ出され、その後行方不明になったという。記録はここで途切れており、彼女がどうなったのかは不明だった。

志之はその記述をじっと見つめながら言葉を失った。「私は……桐子を探しに行ったのかもしれない。だが、その結果として……。」
彼の言葉は途切れたが、思い出せない記憶の断片が胸を締め付けるようだった。

過去のピースがつながり始める
志之と桐子の関係、そして嵐の夜の失踪事件――これらの情報が新たな謎を浮かび上がらせる。拓海は、志之がその夜に何をしていたのか、桐子との関係がどう影響したのかを突き止めることが、大仙館の真実に迫る鍵だと考えた。

「次は、この桐子の足跡を追う必要があるな。」拓海は決意を固めた。「地元の記録や、館の中の隠された部屋を調べれば、さらに何かが出てくるかもしれない。」

志之もその提案に同意した。「桐子が何を伝えようとしていたのか、そして彼女が私をどう思っていたのか……それを知ることが、私自身を知る手がかりになるはずだ。」

こうして、二人はさらに深く大仙館とその歴史を掘り下げていく。幽霊の変化と過去のピース――そのつながりが、少しずつ全貌を明らかにし始めるのだった。

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