石のアイデンティティ
プロローグ:石の競演
毎年、全国から集まる高校生たちが競い合う「石コンテスト全国高校選手権」。その大会は、学校の名誉をかけた戦いであり、同時に石に対する深い愛情と理解を競う場でもある。参加者たちが一堂に会する会場では、山から海まで、川や岩場まで、全国各地で採れた天然石が一堂に並べられる。それぞれの石には、その土地の歴史や自然が息づいており、一つ一つに物語がある。審査基準は三つ。石の「美しさ」「希少性」、そして何よりも「オリジナリティ」。同じような石でも、その一つ一つに込められた個性や背後にある自然の力が評価される。
だが、この名誉ある大会には、どうしても裏の顔が存在していた。目立たないようにしていても、決して消えることはない。それは、参加者たちの中には不正を働く者が必ずいるからだ。人工的に作られた石、加工された石、または他の誰かが発見した石をあたかも自分のもののように持ち込む者たちだ。そのような石は見た目こそ美しいかもしれないが、自然が生み出したものではない。純粋な天然の石にはない、冷徹で計算された「美」がそこにはある。しかし、周囲の参加者たちがそれに気づき、どれだけの不正が明るみに出ても、参加者たちの欲望は尽きることがなかった。
そんな大会に挑戦することを決意したのが、主人公・真一たち石部のメンバーだった。石部は、毎年この大会に参加しているものの、ここ数年は予選でさえも突破できずにいた。彼らが扱っていた石は、どれも地元で拾ってきたもの。もちろん、それらは美しくないわけではないが、他校が持ち込む石に比べると見劣りする部分が多かった。石部の部員たちは、決して悪い石を拾っているわけではない。むしろ、地元で採れる石は、自然の力が作り上げたそのままの美しさを持っており、深い物語を感じさせる。しかし、その美しさが他校の華やかな石たちに埋もれてしまうのではないか、という不安が彼らの心をよぎっていた。
部長の三咲だけが、その情熱と確信に満ちた眼差しで、部員たちを引っ張っていた。三咲は、石をただの物としてではなく、自然の息吹が込められた「命を持つもの」として扱っていた。彼女はいつも石を手に取り、そこから何かしらの物語を読み取ることができる。どんな石でも、どんなに小さな石でも、そこには深い意味があると彼女は信じていた。それが故に、他の部員たちは三咲の情熱に引き寄せられ、どんな困難にも立ち向かおうとする気持ちを持っていた。
「最高の石を見つける旅に出よう!」
三咲の言葉は、まるで雷のように響いた。その瞬間、部員たちはその提案に心を奪われた。地元で拾った石を持ち寄っても、どうしても全国大会に勝てる自信が持てなかった。地元の石は、どれも普通の石だと感じていたが、三咲はそうではないと言い切った。彼女にとって、石の価値は見た目だけではない。むしろ、時間をかけて自然が生み出したものが本当の美しさだと信じていた。
「私たちも、もっと多くの“本物”を見たい。全国を巡って、最も美しい天然石を探し求める旅をしよう。」
三咲の提案に、部員たちは胸を高鳴らせた。彼らは、全国から集められた数々の石と戦うためには、ただ地元の石を持ち寄るだけでは足りないと感じていた。もっと、心を打たれるような、もっと「本物」の石を見つけなければならない。それはただの大会のためではなく、石部の誇りをかけた挑戦だった。
その瞬間から、石部は「石の旅」に出る準備を始めた。どこに行けば最も美しい石が手に入るのか? どんな場所で、どんな石が待っているのか? 彼らはその答えを求め、全国の山、川、海岸線を目指すことに決めた。石部のメンバーは、自分たちのアイデンティティを確立し、オリジナリティを証明するために、どんな困難にも立ち向かう覚悟を決めたのだった。
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