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時を操る殺人鬼②

第2部: 「未来の手綱」

エピソード 2: 未来の書き換え - 「操作される瞬間」
警視庁捜査本部、映像解析室。部屋の空気は重く、張り詰めた緊張感が漂っていた。薄暗い部屋の中で、コンピュータのモニターが青白く光り、部屋の一隅でガタガタと震えるキーボードの音だけが響く。映像解析の専門家たちは、目をこらしながらモニターをじっと見つめていた。次々と映し出される映像に、何かがおかしいことに気づいていた。

「どういうことだ…?明らかにおかしい。」

担当者の言葉に、全員が固唾を呑んで画面を見つめた。そこには、堂島康介が命を奪われる瞬間を捉えたはずの防犯カメラ映像が映し出されていた。しかし、誰もが気づく異常があった。重要な場面だけが、まるで消し去られたかのように空白の時間が広がっている。犯行の瞬間が、まるで最初から存在しなかったかのように。

「この部分、完全に消えてますよ。」解析担当者が震えた声で言った。手元のマウスを動かし、再度その空白の部分を拡大する。モニターには、康介の死の直前に何が起きたのかを示すべき映像が何も映っていなかった。

「編集ソフトで操作した痕跡はないんですか?」と別の捜査員が問いかけた。

「ありません。」解析担当者が答えると、周囲の捜査員たちは再び顔を見合わせ、深い沈黙が訪れた。「むしろ、これがデジタル編集によるものだとは考えにくい。まるで完全に消去されたように見えるんです。」

「でも、どうしてこんなことが…?」別の捜査員が声を上げる。その声は、絶えず続く不安を映し出していた。

警察官たちは、疑念と混乱が入り交じった表情で画面を見つめる。みんなが感じていたのは、どこかで何かが“異常”であるという直感だった。事件の背後に潜む“何か”が、現実の流れをねじ曲げようとしているような不気味な気配が漂っていた。

その時、桐生凌が静かに立ち上がり、まるで他の誰も気づいていない何かを見つけたかのように、鋭い眼差しをモニターに向けた。普段の冷静で無表情な彼の顔が、今はまるで鋭い刃物のように、映像の一部一部を切り裂いていくように見えた。

「この消失は物理的な削除ではありません。」桐生は静かながらも確信に満ちた声で言った。その一言で、全員がその場に引き寄せられるように彼に注目した。桐生はモニターを指さし、続ける。「この映像の中で、“その瞬間”が存在しなかったことにされた。」

その言葉を聞いた捜査員たちは、一瞬息を呑んだ。桐生の言う通り、ただの編集や削除ではない、まるで時間そのものが操作されたかのように感じられた。

「これは、単なる消去や編集ではない。」桐生の言葉は、冷静でありながらもどこか不安を煽るような響きがあった。「映像の中の時間そのものが改竄された。もしかすると、未来から過去への干渉が起こっているのかもしれない。」

部屋の中に、どこかで重たい物音が響いたように感じられた。桐生の言葉に、部屋の空気が一変した。それはまさに最も恐ろしい仮説であり、もしそれが事実ならば、これまで経験したことのない事件であることは間違いない。

誰かが言葉を発しようとしたが、声が出なかった。全員がその仮説を信じるのも信じないのも、怖くて踏み込むことができなかった。それでも、桐生は静かに続けた。

「時間の流れを操作する力が、事件の背後に潜んでいる。もし本当にこれが可能だとすれば、我々はどんな方法でその力に立ち向かうべきかを考えなければならない。」桐生はその言葉を呟くように言った。まるで自分自身にも問いかけるように。

捜査本部の中に、再び沈黙が広がった。桐生の言葉が、誰もが気づかなかった深い暗闇を照らす光となり、すべての捜査員がその言葉に引き寄せられていた。時間を操る力――その存在が現実ならば、この事件はただの殺人事件では済まされない。それは、人の手を超えた、次元を超えた戦いの始まりを意味していた。

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