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vol.041 集うと憩う
Sunny Time という名前でスキンケア&香りのブランドを運営する石嶺蘭沙ちゃんとの最初の出会いは、SNSの投稿だった。そこでは、街中から見上げた空の写真と共にこんな文が書かれていた。
「そして、今日は沖縄だけの休日、慰霊の日。
戦争が終わってから75年。
昨日、一年生の息子の授業参観で平和集会に一緒に参加しました。
みんなで月桃の花を歌ってるのを聴いて、必死に涙をこらえる母。
平和以上に尊いものはないと、改めて。
恥ずかしいですが、私は移住してくるまでこの日を知りませんでした。
是非、沖縄以外の方も一緒に、黙祷しましょう。正午です。
世界平和を心より願って。」
顔も知らない「誰か」の投稿なんだけど、電信柱と電線と太陽が中央に置かれた空の写真と、素直な言葉がスッと心に入り込み、その後もずっと記憶に残っていた。
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それから月日が流れ、Sunny Timeのプロダクトのことを友人や知人からよく耳に挟むようになったころ、蘭沙ちゃんが出店するイベントのプロモーション映像の撮影で石垣にある彼女の工房を訪れ、初めて蘭沙ちゃん本人と会った。
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「笑った顔が子どもみたいで、とびきりかわいい人だな」というのが最初の印象だった。仕事で遭遇する大人の中には、けっこう計算された微笑みだったり、はりついたような作り笑いだったりを浮かべている人もいる。蘭沙ちゃんの笑顔は、どこか無防備で、屈託のない感じが魅力的だ。彼女の笑顔を見ると、こちらも大人ぶって気取ったところで何の意味もないなと即座に悟る。
そんな蘭沙ちゃんが昨年末からこども園のママ友と一緒に始めた場所、「集うと憩う」を訪ねて、お昼ご飯を一緒に食べながらおしゃべりをしてきた。
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16歳の頃から飲食店などでバイトをする事が好きだった蘭沙ちゃんは、学校生活よりも仕事先での体験が楽しかった話、13年ほど前に石垣島にいた友人から声をかけられて短期のリゾートバイトで訪れた石垣島での話、地元の人たちに出会い世界が少しずつ広がり、島で暮らしていく覚悟を決めた話、ひょんな事から出会った人物からの勧めで、実験的に作り始めたスキンケア商品の話などを、もぐもぐとお昼ご飯を食べながら話してくれた。
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「集うと憩う」は、その名前の通り人々が集い、憩う空間だ。農園の中にあるこの小さな建物は、無人のカフェでコワーキングスペースとして以前から好きで通っていた場所だった。コロナ禍で閉まっていた空間が、「集うと憩う」に生まれ変わり、量り売りでオーガニックの玄米や粉、お茶や調味料、Sunny Timeのプロダクトや地元のクリエイターが製造する身体に良い商品などが購入できる場所になった。店内にはテーブル席や座敷空間があり、ワークショップやイベント空間としてもファンクションしている。
「この場所を始めた時に、『なに屋さんです』とか、『何をやる場所です』とか決めなかったのが良かったんだと思う。ただ漠然としたイメージはあって、量り売りのお店はやりたかったし、人が集まって、憩う場所が作りたかった。最近は、最初に想い描いていた空間に近づいてきている感じ」と気負うことなく肩の力が抜けた感じに話す蘭沙ちゃん。
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「集うと憩う」のスペースは、奥にはキッチンがあり、イベント的においしいカレーが食べられるレストランになる日もあれば、持ち込みで写真のワークショップを開催する日や、中高生を対象にした音楽体験や古着販売ありの青空文庫を開催する日もある。様々なことが繰り広げられる自由なスペースだ。
蘭沙ちゃんの話を聞いていて思ったのが、無理に方向を決めないことで偶発的に起こるできごとや出会いを自然と自分のやりたい「おもしろそうな」、「楽しそうな」、「おいしそうな」ことへと繋げていっているんだなということ。それは、誰もができる訳ではなく、素直な感覚を持ち合わせている蘭沙ちゃんだからできることなんだろうなと思う。偶然の出会いやハプニングまでもを、素直に受け止め自然に流れる方へと向かっている感じ。
お昼を食べ終え、おしゃべりも終わるころ、「そろそろお迎えに行かなきゃ」と蘭沙ちゃんは言い、農園の敷地内にある「にじのわこども園」へと息子のさくま君を迎えに出かけていった。
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しばらくして扉を開けて入ってきたさくま君は、あれが飲みたいこれが食べたいなどとお母さんの蘭沙ちゃんに甘えていた。ツーッ!トットットッ!と小走りで動きまわるさまは、まるで小さなキジムナーが農園の樹から舞い降りてきたようだった。
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大きな窓の外には、梅雨の合間の晴れ間に心地よく日を浴びながら、ゆったりと葉を風に揺らす八重山の深い緑の樹々が茂っていた。
集うと憩う
sunny time
【水野暁子 プロフィール】
写真家。竹富島暮らし。千葉県で生まれ、東京の郊外で育ち、13歳の時にアメリカへ家族で渡米。School of Visual Arts (N.Y.) を卒業後フリーランスの写真家として活動をスタート。1999年に祖父の出身地沖縄を訪問。亜熱帯の自然とそこに暮らす人々に魅せられてその年の冬、ニューヨークから竹富島に移住。現在子育てをしながら撮影活動中。八重山のローカル誌「月刊やいま」にて島の人々を撮影したポートレートシリーズ「南のひと」を連載中。