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vol.005 『もようがえ』

深夜にひっそり、なるべく音を立てないように、クイーンベッドを解体して、隣の部屋へひとりで移動する。

音が立たないわけない行為だが、快感を得るためには時や状況は選ばない。

隣に運ばれたベッドを再び組み立て、作業で酷使された体を、見事に設えられたベッドに委ねた時の僕の気持ちになっていただきたい。

模様替えの話である。

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模様替えが好きだ。

一口に模様替えが好きと言っても、最終的にそれによって何を得たいのかで意味合いが変わってくるが、何れにせよ、突き動かしているものは、快感を得たいという欲求であろう。

例えば、音痴な僕は、未だ、自分の歌によって、客観的な快感を得られていないわけだが、模様替えでは、自分が創造したもので、大きな快感を得ることができる。

机が窓側に移動された光景に想いを馳せて、その光景を実際に目の前にした時、夢が現実となり、最高の気分になる。

こんなことを、子供の時に覚えたもんだから、その時から今まで、飽きることなくずっとやり続けている。

子供の頃、模様替えの仕事があればいいのに、としみじみ思った。中学に入る頃、インテリアコーディネーターという仕事があることを知る。

新築の実家で与えられた自分の部屋の壁紙を、初日に剥がし捨て、赤と青で壁を塗り、買い物から帰ってきた母を卒倒させた。

高校卒業後、インテリアの専門学校に進み、模様替えの仕事なんてないと思い知らせられ、建築を学ぶ。

実家の部屋の模様替えでは、完全にキャパが足りず、全てを模様替えできる環境を作るために、一人暮らしを始める。

設計事務所に就職するも、建築と模様替えは似て非なるものと知る。

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カフェで働き、これはもしかしたら、と可能性を感じる。

そして、今、カフェを始めて12年、これは紛れもなく「一生模様替業」であると確信した。

完全に僕のライフワークとなった。

カフェなので、料理や珈琲在りきではあるが、重要さでいえば「居心地」は同じぐらいのウェイトを占める。

店に入り、気持ち良さそうな席を見つけて、なんだか居心地がいいなと感じる場所には、その店の想いが確実に存在する。

目に入るものはもちろん、ひかりや風、音の聴こえ方にも拘った席を見つけると、ついニヤけてしまう。

そして、プラウマンズでも、一息ついてニヤケてる人を見かけると、

「あなたもお好きですねぇ。」

と、心の中でつぶやいてしまう。

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言葉にせずとも、そんな多幸感とでもいうべき感覚を共有できる場所として、カフェは人に豊かさをもたらす。

カタチの無いこれからの時代、カフェがもたらす豊かさはさらに大きな意味合いを持つだろう。

その背景には「模様替え」という、一見、気ままな趣味にも見える、本気で情熱をぶつけた行為が一石を投じてることも忘れないでほしい。

こんなことを書きながら、目の前にあるアップライトピアノが、「隣の部屋にあったら素敵だよ」、と僕に語りかける。

事務所に台車があるので、今夜が不安でしょうがない。


《LITTLE CACTUS》
計算されたことなのか、偶然なのか。なにひとつわからないが、とにかく欲を満たしてくれる。よくわからないまま、ベーグルをかじると、細かいことは忘れて、とにかくウマイ。テイクアウトして、家で食べても、なぜか店の心地よさは続く。


【屋部龍馬 / ベーカリーカフェ・和菓子屋オーナー】
1979年東京生まれ。2001年にルーツである沖縄に移住。建築から飲食の道へ転向し、2009年沖縄にベーカリーカフェ「プラウマンズランチベーカリー」開業。2014年ベトナム・ホーチミンにカフェ 「ploughman’s GARDEN」開業(現在閉店)。2018年に沖縄に和菓子屋「羊羊」を友人と開業。自 ら厨房に立ち、何かしら作り続けて20年余り。


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