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灯台のある町に|散文

貴方は眠る

灯台は沈み込むような黒い波を
ぼんやりした光で照らすだろう

朝霧の中 たくさんの船が渡り
昼の吹き上げる風に目を細め
また来る夕方を楽しみに眠る

少しだけある砂浜を
危なげな足で駆ける少女を
微笑んで眺めるだろう

「もしかして、そばにいましたか?」
「いつも、そばにいましたか?」
「ずっと、そこにいたのではないですか?」

何も答えは無い
空はただ少し黙って 小雨を降らす

手のひらに霧を握るようで何も掴めず
それでも前を向くしかなく
不思議とそのことは悲しみではないのだ

今年も青い夏をたくさん吸い込み
ハマユウの花が咲き 揺れる

願いはあったのだろうか
残したいものがあっただろうか
(私の身勝手なエゴと想像)

ただ浜に打ち寄せる波は
白くまた群青であり

土地を訪ね 呼吸する際
吸い込む 生温い空気
鳴り止まない蝉の声
鬱蒼としげるカズラの蔦
寂れた小さな郵便局
灯台のある町に

たしかに ひっそりと
貴方は眠る


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