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【桑】私が「高校演劇」を好きな4つの理由

初投稿です。桑原佑大といいます。

SQ-SALON1期生で、臨床部屋に所属しています。現在、田舎にて実家の経営するグループホームを手伝う傍ら、施設をはじめとして地域に鍼灸を取り入れようと只今準備しております。

さて今回、サロンのワークで好きなものについて語れという課題が出ました。どれにしようか迷いましたが、数多くある趣味の中からひとつ選ぶことにしました。

私は「演劇」、それも「高校演劇」について語ろうと思います。

実は私、短い間でしたが高校時代に演劇部に所属していたことがあるんです。入部のきっかけは友人の誘いでした。当時、映像作品に興味を示していまして、声や身体を使った演技にも高い関心があったのです。

部活動に所属してからは演じることや台本を書くことなどを魅力に感じていましたが、その反面演技の難しさなどについて葛藤し苦しんでいた時期がありました。持病の気管支喘息が悪化していたこともあり、挫折し退部した過去もあります。

ですが、高校演劇で得たモノは確かに私の人生を豊かにしてくれましたし、私もまた高校演劇に出会えてよかったと思っています。

一言であらわすならば、今の私を形作る構成要素としてなくてはならないもの。そんな高校演劇の魅力をもっと周りの人に知ってほしい。
そうすることで私という人間を少しでも知っていただけたら嬉しいのです。

というわけで今回は私が思う高校演劇の魅力について語っていきます。

・そもそも高校演劇とは?

読んで字のごとく、高校生の演劇です。

とはいっても、クラス劇のようなものではありません。全国の高校には演劇部という名の部活動が存在しています。その部活動において行われる演劇活動、また大会において上演される演劇作品のことを総称して高校演劇と呼びます。

部活動に所属する高校生が行えばそれは高校演劇となりますので、部活動で使用する台本に特に決まりはありません。ただ、大会における上映時間は60分までとの規則があるため出場の際は順守せねばなりません。

「大会…えっ演劇部って大会あったの?」

そう思われる方がいらっしゃるかもしれません。

そうなんです、あるんです。

正しくは全国高等学校演劇大会という名の大会で、年に一度、夏に開催されています。

ちなみにこの大会、予選はなんと本選の約1年前から行われているんです。だいたい秋~冬あたりからそれぞれ地域ごとに地区大会が開催され、都道府県大会、ブロック大会を経て全国大会への切符を手にする形になります。(悲しいことに全国大会は次年度に開催されるので…3年生でブロック大会まで勝ち上がっても、全国大会には必然的に出場ができないという特徴もあります。)

全体での出場校数は、近年でおよそ2000校に及びます。その中から全国大会に上がれるのはたった12校。12校のうち、最優秀賞が1校、優秀賞は3校にのみ送られます。

優良賞をはじめとしてほかにも創作脚本賞などがありますが、最優秀賞と優秀賞に選ばれた4校は、

なんと国立劇場での公演に出演できるんです!

これだけでも光栄なことですが…

最優秀賞を受賞した作品は、
NHKの番組『青春舞台』において放送されるんです!

これってすごいことだと思いませんか? 高校生の青春を懸けた作品が全国ネットで流れるんですよ?

ただでさえ高校演劇って会場に足を運ばないと観られる機会が少ないのに、全国から選りすぐりの作品を、しかもノーカットで放送してくれる。最高の機会だと思いませんか。少なくとも私はめちゃくちゃ憧れでしたし、今でも毎年わくわくしながら視聴しています。

高校演劇に携わる高校生たちは、実はとてつもない目標に向かって努力してるんですよ。

と、そんな訳で、ほぼ大会の話になってしまいました。 

ですがどうでしょう。

高校演劇のイメージ、少し変わった気がしませんか?

実はめちゃくちゃアツい部活なんです。

ここからは、改めてその魅力について深堀していきます。

魅力① 「高校生が手掛ける演劇」

魅力といえばまずこちらではないでしょうか。
舞台に立つ役者だけが高校生なのではありません。大道具、小道具、演出や衣装、メイク、照明や音響に至るまで全て高校生が行います。舞台においてこれらを活用する方法は多種多様に存在しています。

例えば舞台装置に目を向けてみましょう。大掛かりなセットを使用して具体的に表現する演目もあれば、道具を最低限に抑えて抽象化し記号的に表現するものもあったり。台本に関して言えば高校生が中心となって手掛けるところもあったりします。

どのような手法でどのように演劇を作り上げていくのか、それを実現していくのは他でもない高校生自身であること、それそのものが魅力ですね。

舞台の端から端、最初から最後まで、そのすべてに至るまで高校生たちの汗や涙、苦難や笑顔までもがぎゅっと詰まっているような、そんな空間。青春の1ページと言うとクサい表現ですが、それを目の当たりにしているようで、私自身胸がときめきます。

また、入部するまで演劇の経験が少ないか皆無である子たちが高校演劇という世界に携わっていく。最初は未熟でありながらも、それが3年生にもなれば段々と成長していく。この過程がみられるというのも、高校演劇の醍醐味のひとつです。

実際私も演劇部に所属してから、人前に立つことからくる羞恥心の克服や、演劇の知識が定着するなど、確かな成長を感じました。

役割は違えど、高校3年間という限られた時間の中で、同じ目的に向かって成長しながら演劇を作り上げ、上演すること。私はここに魅力を感じます。


魅力② 「高校生だからこそ出来る表現」

高校生は大人であると同時に子どもでもある。そんなような年頃です。ちょうど思春期の混乱からの脱出を試み、大人の社会でどのように生きるか模索する時期が高校生にあたります。
それゆえに多感であり、非常に繊細な子が多い。

私はこの高校生という多感な時期にしか表現できないものがあると考えています。

これは単に等身大の高校生、そのありのままを表現するということだけではありません。演劇を通して高校生らは自分とは全く異なる性質を持つ人物を演じます。演じるにあたってその人物の考え方であるとか、身分や背景に至るまでインプットし、噛み砕いて自分自身に落とし込みます。

その際、彼らにとってはどうにも理解のしがたいものとも向き合わなければなりません。

若さゆえ、未熟であるがゆえに生まれる疑念や葛藤。器が小さいがために受容しがたいものもあるはず。

例えそれらが真に理解できなくとも、彼らなりに理解しようと精いっぱいに向き合い、時に葛藤し、迷いながらもじっくり噛み砕いて自分の中に落とし込んでいく。そうして得たものをアウトプットし、舞台上で表現する。

この過程にこそ、高校生の時期にしか表現できないものが存在しているのではないでしょうか。

それは演技であったり、表情であったり、声であったり、空気であったりと、それはもう様々な場所にあらわれます。若い彼らなりに向き合って出された答えそのものが舞台上で表現され、それが見て感じ取れることに、私は魅了されるし心を動かされるのだと思っています。

さらに付け加えるならば、高校生活はたった3年間。この時期を過ぎてしまえば「高校生」として「演劇」を行うことのできる機会は永遠に失われてしまいます。

ひとたび大人になってしまえば、それは高校演劇ではなくなってしまう。

「高校生」として、「演劇」と、「自分自身」と向き合う期間は本当に限られているのです。

この限られた時間の中にこそ高校演劇としての価値があり、だからこそ彼・彼女らは光り輝くのです。


魅力③ 「一度の上演にかける情熱」

前述したように、高校演劇には全国大会というものがあります。当然、地区大会から勝ち上がっていけばその都度上演ができるわけですが…逆に言うと敗退した時点でその年の大会において、再演することはありません。

普通の演劇を思い浮かべてみてください。1つの作品を何日も上演していることって結構あると思うんです。勿論、個人的に企画して上演することは自由なので可能ですが、高校演劇、こと大会においては敗退すれば披露の場はそこで途絶えてしまう。地区大会で敗退した場合、1年に1回きりの上演となるわけです。

つまりですね。

1度きりになるかもしれない大会の場だけに、込められる思いや熱量が半端じゃないんです。

顧問の先生にとっても、やはりそこには特別な思い入れがあるのではないでしょうか。一生懸命作り上げたものを、青春懸けて演じる。地区大会から全国大会まで、その一部始終を見ているとビシバシとその情熱が伝わってくる気がします。

余談ですがこの大会、基本的には無料で入場・観劇が可能です。大きな大会や注目校が出場する大会の場合は無論長蛇の列となりますが、何せ無料で高校演劇が観られる。これだけでも充分素晴らしいことだと私は思います。お金払ってでも観たいほど魅力的なコンテンツなのですから。それに新規ファンが増えるいい機会だと思ってます。

魅力のひとつである上演に対する情熱を感じるには、会場に足を運んで生で観るに越したことはないのでしょうが…

私個人としては映像で観ても充分に伝わるものがあると思っています。

そのためにも先ずは『青春舞台』、全力でオススメしておきます。

きっと何か心揺さぶられるものに出会えるはずです。


魅力④ 「なんといっても作品がイイ」

ここまでは高校演劇そのものや大会について語ってきましたが、いよいよ作品について触れていきたいと思います。

とはいえ、好きな作品を列挙しはじめるとあれもこれも、とキリがないので、今回は1つに絞ってご紹介することにしますね。

それがこちら。

『河童』。

これは2007年に劇作家・畑澤聖悟が手掛けた作品です。畑澤先生は青森中央高等学校の教諭として、また演劇部の顧問として活動されたのちに弘前中央高校に転勤されました。その後、青森中央高校のために畑澤先生が書き下ろした名作です。

以下のようなあらすじとなっています。

とある高校のクラスにて、突然あるひとりの可憐な女子高生が突然河童になってしまうお話。
彼女は河童に変身しながらも、なるべく普段通りに振る舞おうとします。
でも周囲にとって河童は臭いし気持ちの悪い存在。
最初は河童になってしまった女子高生に対してクラスメイトは気を遣い、普段通り仲間として受け容れようと奮闘します。
しかし河童がクラスにいるという現実に、徐々にクラスの雰囲気に変化がもたらされる…

私はとある友人に

「当時放送された番組の映像が残ってるよ、観る?」

と声をかけてもらったのがきっかけでこの作品を観る機会に恵まれました。

その際、あまりに鮮烈な内容に終始手で口を押さえながら、固唾を呑んで一部始終を観ていたことを覚えています。

ちなみにこの映像というのは前述した青春舞台という番組において放映されたものです。青森中央高校演劇部が当作品を上演し、2008年の全国高等学校演劇大会において最優秀賞を受賞し、当作品が放映されました。

さてこの作品ですが、ざっくりいうと差別やいじめにテーマを置いた内容となっています。

あえてそれらを直接的にではなく、河童に置き換えメタファーとして表現しています。この発想は私個人としても非常に気に入っている点です。

普通であれば人と人とのお話にしてしまうところを、女子高生を河童に変身させることで、隠喩表現であるにも関わらずテーマをより鮮明に浮かび上がらせている。

「いや有り得ないでしょ。フィクションじゃん。」

そう思っていても、河童になってしまった女子高生や周囲のクラスメイトの反応が、より人間関係の生々しさを際立たせています。この生々しさがたまらないんです。うわっ、と思わせるほどリアルなやり取りにこそこの作品の魅力がぎゅっと詰まっています。

そんな生々しさ溢れる作中において特に好きなシーン。印象的だったのは、これはもうネタバレに等しいですが、

河童になってしまった被害者を庇ったり、その立場に理解を示そうとした者に対して、まるで伝染するかのように河童化する現象が起こるという表現。

物語の幕切れでありこの作品の目玉ともいえるシーンですが、正直ゾッとしました。いじめを庇った人間が次のいじめの標的へと変わる瞬間、といったところでしょうか。現代のいじめは必ずしも被害者と加害者が集団の中で固定化されているわけではありません。集団の中で、些細な変化をきっかけにして加害者と被害者が入れ替わり、移ろっていく。取り上げたこのシーンに限らず、作品内ではそういった変化が要所で見られます。

当時この幕切れの展開には特に衝撃を受けましたし、脚本を手掛けた畑澤先生に対してなんと素晴らしいものを書き上げたのだろう、と憧れすら抱いたものです。

と、ここまでは脚本の魅力についてご紹介してきました。付け加えるとすれば、この脚本は数多の高校生によって上演されてきましたが、中でも2008年の青森中央高校演劇部における上演はやはり素晴らしいものであったと思うのです。これはやはり畑澤先生の指導の賜物ではないでしょうか。

先生は演劇部顧問として全国大会最優秀賞を3回、優秀賞を4回、さらには脚本賞を1回受賞されています。

そう、畑澤聖悟ってめちゃくちゃすごい人なんです。

そんな人の指導のもとに演劇を頑張ってきた高校生の作品。並々ならぬものを感じずにはいられません。

実際、表情や動きには注目すべき点がいくつも見られました。

例えばそう、河童役の子の演技。河童と表現するために顔を緑色に塗られており、些細な表情の変化では解りづらくなってしまうところをしっかりと顔を動かし感情を表現させていました。普段通り振る舞おうとしますが不本意ながらも河童になってしまったことへの葛藤、自分ではどうにもできないもどかしさ、苦しさ、そして生きづらさが画面越しでも伝わってきました。彼女は見事に女子高生でありながら河童という存在を演じ切っていました。

青森中央高校の上演はただ脚本に助けられているのではなく、役者の演技や演出など、すべて揃った最高の作品だと私は思っています。

高校演劇とは総合芸術である、その気付きを得られたのがこの『河童』という作品でした。

長くなりましたが、とにかく言いたいのは超お気に入りってことですね。(笑) 皆さんにもぜひご覧になっていただきたい作品です。


・終わりに。

ここまで高校演劇の魅力について私なりの考えをアウトプットさせていただきました。

いかがでしたでしょうか?

高校演劇について少しでも興味を持っていただけたなら幸いです。

ちなみに高校演劇を取り上げた作品として『幕が上がる』という映画があります。ももクロ主演で話題になりましたが、注目すべきは高校時代に演劇部だった経験のある黒木華さんが演劇部の顧問役を務めるという、なんとも感慨深い作品です。実は畑澤先生も出演されてます。高校演劇への入り口にはもってこいの作品ですので、興味ある方はぜひ一度ご覧になってください。

高校演劇は私にとっても青春の一部といっていいかもしれません。
所属していた当時も、社会人になった今も、ずっと青春の只中にいるのだと思います。
年月が経っても、こんなにも魅了されているのですから。

演劇に限った話ではありませんが、
芸術は人の心に刺激を与えてくれます。
私はたぶん、この刺激がたまらなく好きなのです。
やわらかかったり、かたかったり、
まるかったり、するどかったり、
あたたかかったり、つめたかったり。
言葉にできないようなものまで、色んな刺激を得られます。
この刺激が、おそらく今までの自分を育んできたのだと思います。
きっとこれから先もこの刺激を求めて生きていくのでしょう。
これからの私が私であるために。

気づけばこんなにも長くなってしまいました。
ここまで読んでくださった方、本当に有難うございました。

【書いた人】
桑原 佑大 (くわばら ゆうだい)
2年間名古屋の鍼灸接骨院を掛け持ちするバイト生活を経て、
現在は地元である京都・丹後に戻りグループホームにて勤務。
「認知症になっても大丈夫と言える地域社会づくり」をモットーに、日々奮闘中。
介護者と施術者の間で揺れ動く日々。
好きなものは映画・音楽・舞台・読書・etc……
只今フクロモモンガを溺愛中。

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