真珠星
歩いて歩いて座り込んだ先でまさかの流星を見た。
空を見ながら「あっ」と叫んだ僕の顔を見て、
すべてを察した彼女が悔しがるまで時間はかからなかった。
首を後ろに折りながら、5月って何の星座が見えるんだろうねとつぶやく僕に、
5月っておうし座だっけ?そういえば君って何座?と突然飛躍していった彼女のゆるさに思わず破顔した。
オリオン座は通年見えると主張する彼女を尻目に星座早見表のサイトを開き、スマホを空に掲げて夜空と照らし合わせると全く同じ空が拡がっていて、星の位置は何千年も変わっていないという事実が激しく僕を興奮させた。
頭上に貼りついている北斗七星を見ながら、ひしゃくのしっぽの延長線上に真珠星があるのを確認した。
本当にそれは真珠星?なんでわかるの?別の一等星じゃない?と謎の角度の野次を入れられながら、間違いないよと空を指さし大きく線を描いてふたりで真珠星を学んだ。
やはり夏の空にオリオン座は無かった。
帰り道、独特な視点の日常の発見を突然教えてくれたもんだから、
深夜の堤防沿いをふたりで爆笑しながら歩いた。
些細なことで腹を抱えながら笑う彼女を見て、
笑い上戸ってこういう人のことを言うのかと話の内容とは別のことを考えながら一緒にへろへろ笑いながら歩いた。
なんでも笑えるのが酔っ払いの特権である。
しょうもなさ過ぎて楽しかった。
一生独りな気がするよ、と本気で話す彼女に怒りを感じた。
こんな魅力的な人間を誰も放っておくわけないだろ、ただ出会っている人数が少ないだけで、出会う母数が増えれば増えるほど君は引く手数多だろと本気で思っているからだ。
それくらい魅力的な人間なのに、一切自覚がないことにも腹が立った。
日常をそんな独特な角度で見たことないよと思わず嫉妬してしまうくらい変な人だから、彼女と一緒に年を重ねられる人間のことを想像し、心底羨ましいなと思った。
どんな徳を積んだら彼女と過ごせるのだろう。
宝石みたいな感性を持っている人。そんな人である。
僕はずるいので、来世で一緒に暮らそうねと告白を一番薄めたような言葉だけを伝えた。
電車を降り、発車を待つ彼女の背中を眺めていたら、
すごい角度にも関わらずわざわざ振り向いて手を振ってくれた。
今後北斗七星を見つけたら、確かこの辺にあったはず、と真珠星もセットで思い出してくれるといいなと思った。