虫の知らせ「自転車のざわつき」
大学二年の夏、ある日の夜7時過ぎ。
当時住んでたアパートの自転車置き場が無性に気になりました。
通学に使っていた自分の自転車を見に行かなきゃどうにかなりそうな程の強迫観念に襲われたのです。
「見に行かなきゃ!」と読んでいた本を乱暴に床に落として玄関に向かい、サンダルに足を押し込んでドアノブに手をかけたところで、はたと冷静になりました。
なんでこんなに自転車が気になるの?
脈絡もないし、なんか、おかしくない?
と、自転車を見に行く事への切迫感を感じている自分の感覚のほうが恐ろしくなり、ドアノブから手を離して部屋にとどまることにしました。
床に置かれた本を取って続きを読もうとしましたが、胸のざわつきは収まらず、見に行くべきか、それとも大人しくやり過ごすか、しばらく葛藤していました。
部屋に戻って10分ほど経ったころか、急に胸のざわつきがおさまり、嘘のように心が静かになりました。
あれは何だったんだろう…と不思議に思いながら次の日。
大学に行くため自転車置き場に行くと、定位置に置いてた私の自転車が盗まれていました。
自転車は前日の夕方に定位置に置いたので、無くなったのはそれ以降から朝までの間。きっと胸がざわついていた時間帯ぐらいに盗まれたのでしょう。
自転車にそこまで思い入れはありませんでしたが、毎日使用していたため愛着があり、本当にショックでした。
なぜあの時、外に出て自転車を確認しなかったのか。
無意識の自分があんなにも自転車の危機を知らせていたのに。
外に出ることを思いとどまった自分に対して、10年以上たった今でも悔しく思います。
当時、どうして「自転車が気になってしょうがない」という状態になったのか、自分なりに検証しました。
自分の住んでいたアパートは敷地内に複数の棟があり、自転車置き場と私の部屋がある棟は結構離れていました。
また、車通りが多く、線路がアパートの駐車場のすぐ脇を通っており、5分に1回は電車が通っていましたので、自転車置き場での様子を音などから探る事は出来ない状況です。
当時、自転車泥棒が出ているような話も周りから聞いていなかったため、無意識にも自転車を気にするような状況ではありませんでした。
また、胸がざわついた時間前後に自転車を思い出していたわけでもないし、読んでいた本に自転車が登場してわけでもありませんでした。
どうして「自転車が気になってしょうがない」という状態になったのか。
私が出した結論は『虫の知らせ』でした。
私の脳みそがあらゆる諸々の情報を無意識に処理したのか、または超越した存在が危機を察知したのか分かりませんが、「自転車見に行ったほうがいいよ!」と胸をざわつかせてお知らせしてくれた事に感謝しました。
また、それに対して疑念を持ち無視してしまった事は本当に自分に対して申し訳なく思うと同時に、「次は絶対逆らわないからね!」と固く決意したのでした。
最後まで読んでくださってありがとうございます! ありがたく頂戴いたします!