100日怪談 96日目

あの日、僕は侘助と約束した。「憎悪と悪意は募らせてはいけない」と、それと引き換えに、僕は新たな学園生活で友人を得た。それは近所に住む神崎 藤花 ちなみに僕と隣の席である。
「よぉ黒墨、おはよう」
僕の肩を軽く叩き、手を上げて挨拶する。
「おはよう、神崎くん」
「あれだけ言ったじゃんか、藤花で良いって」
笑いながら僕の方を向いて歩いている、一見してヤンチャしている様な人だが性格はかなり真面目で頭のよく回るヤツだ
「なぁ航太、この噂聞いたことある?ハイカイムクロの話」
「ハイカイムクロ?」
神崎はふふっと鼻で笑いながら僕に話してきた。
「この町の噂とか妖怪みたいな者だよ」
「なにそれ?」
この町に来てからそういった話は聞いたことないが、殆どは僕が見てきたことだ。襖の件も、心中橋の件もそうだ、この間の学校の件は…あれは、神崎が見た奴だもんな……
それと同時に妙な不安さえも覚えてしまった。
「航太どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない」
「だってよく見たら不安な顔してんだも」
「え?そうかい?」
神崎がそう言うなら、おそらくそういう顔をしていたのだろう。
「そのさ、ハイカイムクロって何?」
「あぁその話ね、昔、この土地に住んでいた『ムクロ』って人がいたんだけど、その人はこの土地の地主であって、この土地に住んでいた人達から慕われていた。ある日、その地に怪物が出てきたんだけど、その人が取り押さえて、処刑したの。でもその処刑された怪物が動物の骨を持ってガラガラ徘徊しながら、一軒一軒家を回ってたんだけど、それを今度は神主さんと地主さんがその怪物の霊を封印したって話」
「そんな事あったんだ……」
僕はどうしても「地主」と聞くと襖の一件を思い出してしまう、例の件以来、どうしても僕には恐怖しか無い。
「おい、そろそろヤバいって、学校に遅れる!」
神崎が叫ぶと僕らは学校まで走って向かった。
その日の昼休み、僕と神崎は校庭でサッカーをしていた。
「いくぞー」
神崎は勢いよく校庭の近くにある林の方向へサッカーボールを蹴り飛ばしてしまったのだ。
「航太ごめん!ボール一緒に探してくんね?」
「藤花、お前が飛ばしたボールだろ?わかったよ一緒に探すから」
そう、ここからが僕らにとっては恐怖の一歩となってしまったのだ。
「僕、林の方探してみる。」
「航太、林の奥へ行き過ぎるなよ。」
神崎は忠告してくれた。
「何これ?」
石が積まれた石碑の様なものが近くにあったのだが、どうやらボールに当たって石碑の一部がバラバラになっていたのだ。
「航太、あった……?!」
神崎は顔を真っ青にしてその石碑に向かって謝っていたのだ
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「藤花、どうしたの?」
「いいから出るぞ!」
「え?」
その直後、学校の予備始業のチャイムが鳴った。
学校は石碑を壊した事は何も知らない、そしてこの日は地獄を見ることとなってしまった。
終礼のチャイムが鳴る。
問題はその帰りだったのだ。
「藤花、帰ろう。」
「おう、今日どっか寄る?」
僕は以外にも喜んでしまったのだが、こんなぬか喜びをしてしまってもいいのか?
「うん、商店街のパン屋気になってたんだけど…行ってもいい?」
「え、マジであの店のパンめっちゃ美味いよ。」
心無しか神崎はとても喜んでいた。
「行こ!」
「行く!」
学校に来てから少しの時間でここまで意気投合して仕舞うとは思わなかったのだ。
校門から出てくる時、妙な視線と「ガラガラ」と何かを引き摺る不気味な音が聞こえた。
「航太行こうぜ」
ニヤリと笑う神崎とともに、僕は商店街へ行ったのだ。
「ねぇ藤花、さっきからガラガラ引き摺る音聞こえない?」
「あぁ、聞こえるけど気の所為だ。それと、絶対後ろは振り向くな。」
「はい?」
僕は驚いてしまった、まさか今朝話したあの事が頭の中をよぎる。
僕は神崎と話しながら今朝の話をかき消すように、話しながら後ろは振り向かないようにしていた。
しかし、商店街のショーウィンドウで不覚にも見てしまったのだ。
怪物の目玉はギョロリとして肌は薄い緑色、片手に握って居るのは袋に詰まった動物の骨と人の骨が入り交じったような物が入っている、その袋からは「ガラガラ」と音をたてながら引き摺る姿が見えてしまったのだ。
その刹那、僕は固まってしまった。
「航太、どうした?もしかして、見ちゃった?」
僕は声は出ないこそ、頷くことはできた。それと神崎はとても気まずい顔をしていた
「航太駄目だ、神社行こう。パン屋は何時でも行けるから」
神崎は僕の手を引き、森林公園近くの神社へと駆け込んだ、ここまでの道のりは以前僕は行った事があったからだ。
「神主さん、ごめんなさい。今日俺が石碑を壊した。黒墨は何にも悪くないの、商店街のショーウィンドウ越しでガラガラ様見ちゃったみたいなんだよね。」その間、神崎は泣きながら神主へ話してくれたのだ、その話を聞いた神主は複雑な顔をしていた。
「分かりました、今日は無事でいられるかは分からない。いや、今後先、生きていられないかもしれない。」
神主さんに告げられたのは漠然とした告知と、僕は不安と悲しみが一気に押し寄せてきた。
「侘助にも会えなくなるのかな」
僕はぽつりと呟いた。
「航太、侘助って誰?」
「あ、いや、飼い猫の名前」
「そうなんだ…今度あってみたいな。」
すぐに神主さんは着替えてきて紙垂を持ち、神社の中へ入るよう促したのだ。
「今週だけでも持つよう、いや、君達が亡くなるまで持つよう、一生懸命祈祷するから頑張って」
「「はい」」
2人の声は被りながらも大粒の涙を流し、祈祷を受けた。
「これでしばらく持つとは思う、今晩だけは気をつけて、これを持っていきなさい。」
神主さんから渡されたのは白い袋に小さな小石が入ったお守りを持たされたのだ。
「これって?」
僕と神崎は神主さんに聞いてしまったのだ。
「この町で知らん者は居ないはずなのだがな、今の若い者は知らないのかもしれん、ガラガラ様を見たらそれを置いて逃げなさい。」
僕と神崎は神社で別れ、帰路に着いた。
「ただいま」
「おい坊主、これまたでかいの連れてきたな。」
侘助は僕を見て呆れていたのだ。
「お守り貰ってきた」
僕は侘助にお守りを見せた
「それなら大丈夫だな、黄泉ヶ鬼神社の強者守りだしな」
「そうだね。」
そんな会話とは裏腹にその夜、恐ろしい事が起きてしまったのだ。
時刻は12時、中間テストを迎える僕にとっては眠いけど、そろそろ寝ようとしていた時だった。
「ドンドンドンドンドン」
真夜中だと言うのに、誰が鳴らしているのか気になり、僕は玄関へ向かう。
「どちら様?」
手をドアノブに掛けようとした時だった。
「おい、待たんか坊主」
侘助は怒り狂った声で僕を静止した。
「お守り、玄関の所置いとけ」
侘助はかなり威嚇していた。
「下がるぞ。」
僕と侘助は一気に寝室に上がり、布団に包まって1人と1匹で寝た。
ジリジリと鳴る目覚ましが鳴る前に、目が冴えてしまった。
時計に目をやると時刻は午前5時、僕は急いで玄関に向かう。
昨夜置いたお守りは粉々に砕け散り、白い袋だけが残っていた。
どうやら、僕は「ガラガラ様」から逃れられたようだ。
僕は着の身着のまま神崎の家へ向かう。
「藤花、無事でいてくれ」
今思えば、朝の5時だというのに失礼な事をしてしまったと思いながらもインターホンを連打した。
出てきたのは目を擦って出てきた寝惚け姿の神崎だった。
「藤花、無事だったのか?」
「あぁ、ガラガラ様の事、お守りなら砕けてたよ。」
お守りは僕と同じような砕け方をしており、2人して白い袋だけを持っていた。
朝日が昇り、僕らの命を守ってくれたお守りに感謝し、神社へと2人して向かったのだ。

100日怪談 96日目終了

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