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【経営者向け】採用活動の黒字化(7000字)
本記事では、採用活動の黒字化における重要な指標とその活用方法について解説します。
こんな方におすすめ
・なんとなくリソースもコストも投下しているが、効果的な活動になっているのかの判断方法がわからない
・採用活動を本格化させたいが、見るべきポイントがわからない
・KPIをなんとなく設定しているが、セオリーがわからない
・入社から活躍までが採用範囲だと思うが、考え方がわからない
Spry(スプライ)はこれまで、当社コンサルタントの事業会社の実務経験をベースに、様々な企業様の採用支援をしてきました。
お客様の課題として多いのが、
「なんとなくわかりやすい採用手法を取り入れている」
「KGIは設定できるが、適切なKPIがわからない」
「採用できたが、定着率が低い」
という声です。
これらの原因の多くは、ゴール、プロセス、コスト、リソースが紐付けて考えられていないことにあります。
活躍も見据えた採用活動を成功させるためには、入社数、入社後の定着、活躍までを見込んだKGIとそこに向かう明確な指標を設け、それを基に現状を分析、改善を繰り返すことが重要です。
なんとなく採用をスタートさせる前に、適切なKGIとKPIを設定し、採用における責任範囲を明確にした上で、採用戦略に基づいたアクションをスタートしていきましょう。
活躍まで見据えた採用活動を本格化し、黒字化していきたいと考えている方は、ぜひご一読ください。
■監修・編集:渡場 一成
1. 採用指標の全体像
採用活動を効果的に進めるためには、適切な指標を設定し、それに基づいて現状を分析し、改善を繰り返すことが重要です。
本セクションでは、採用活動における指標の基本的な概念と、その重要性について解説します。
1.1 KPIとKGIの定義
基本的には、KGI(Key Goal Indicator)とKPI(Key Performance Indicator)の2つの指標の考え方を用いて、採用活動を評価します。
KGI(重要目標達成指標):採用活動の最終的な成果
・最終的な目標の達成度を測る指標
・採用人数、内定承諾率、入社後の定着率などが該当
KPI(重要業績評価指標):採用活動の各段階での進捗や効率性
・目標達成のためのプロセスを測定する指標
・応募者数、面接実施数、選考通過率などが該当
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1.2 採用活動における指標の重要性
採用活動において適切な指標を設定し、評価することの重要性は以下の点にあります。
i.目標の明確化
具体的な数値目標を設定することで、採用チーム全体の方向性が明確になり、フォーカスすべきポイントが定まります。
例)
「今年度中にエンジニア20名採用」
「キーマン離職ゼロ」
ii.進捗の可視化:
KPIを定期的に評価することで、採用活動の進捗状況をリアルタイムで把握できます。
これにより、計画からの乖離を早期に発見し、迅速な対応が可能になります。
例)週1回の採用チーム定例:
KGI、KPIそれぞれの目標と実績を確認
iii.課題と要因の特定:
各プロセスを分析することで、採用活動のどの段階に課題があるかを特定できます。
例❶)応募者数は増加しているが、1次面接通過率が低下:
→書類選考要件の見直し、面接内での合否判定基準の見直し
例❷)1次面接通過率は上昇しているが、最終面接通過率が低下:
→1次面接、最終面接それぞれの合否判定基準の見直し
iv.リソース配分の最適化:
KPIの分析結果に基づいて、人員や予算などのリソースを効果的に配分することができます。
例)応募者数が目標に達していない場合:
広告予算の増額、新たな採用チャネルの開拓検討、採用ブランディングの見直し
v.経営層への報告:
具体的な数値を用いることで、採用活動の成果や課題を経営層に明確に伝えることができます。
また、事業計画や中期経営計画に紐づく採用計画、組織の在り方などのマテリアリティの認識合わせから実施することにより、採用活動への理解と支援を得やすくなります。
例)月1回の経営会議:
・マテリアリティの確認
・KGI、KPIの現状/課題と要因/打ち手
適切なKPIを設定し評価することで、採用活動の効率と質を向上させ、企業の成長を支える人材の獲得につながります。
次のセクションでは、採用経済の観点から、より具体的な指標の活用方法について解説します。
2. 黒字化に向けた採用経済の理解
採用活動は単なる人材確保のプロセスではなく、重要な経営戦略の一つです。
本セクションでは、採用における経済的側面を分析し、赤字にならないような効率的な人材獲得と価値最大化の方法を解説します。
2.1 パーソナルエコノミクスについて
パーソナルエコノミクスとは、1人の従業員を採用・育成し、その価値を最大化するまでのコストと生み出される価値のバランスを分析する経済的アプローチです。
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2.2 具体的な計算方法と事例
重要なのは、自社の採用の現在地を定量的に把握することです。
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その後、EACとELTVを継続的に分析し、最適化することで、効率的かつ持続可能な採用活動を実現できます。
次のセクションでは、具体的な採用プロセスにおける指標分析について詳しく解説します。
3. 採用プロセスの指標分析
採用活動は複数のフェーズから成り立っており、各フェーズでのパフォーマンスを測定するための指標(KPI)を設定することが重要です。
このセクションでは、各フェーズにおける重要な指標を分析し、ボトルネックを発見して改善する方法を解説します。
3.1 各フェーズにおける重要指標
採用プロセスは通常、以下の4つのフェーズに分かれます。
それぞれのフェーズで測定すべき主要な指標を見ていきましょう。
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応募フェーズ
応募者数:転職支援エージェント、スカウト媒体、求人広告、リファラルなど、各チャネルからの応募者数。カジュアル面談を応募の定義とするか否か、企業によって異なる。
応募者の質:応募者の履歴書や職務経歴書から質を評価します。例えば、必要なスキルや経験がどれだけ満たされているかを数値化します。
選考フェーズ
面接通過率:一次面接から最終面接まで、各段階で通過した応募者の割合。この指標は、各選考の基準の確からしさを判断する材料となります。
選考期間:応募から内定までにかかる平均日数。選考が長引くと優秀な候補者を逃すリスクが高まります。
内定フェーズ
内定承諾率:内定者のうち、実際に入社を承諾した人数の割合。この指標は、内定時に提示する条件や企業文化、キャリアパスが候補者にとってどれだけ魅力的かを示します。
内定辞退率:内定を辞退した候補者の割合。この指標が高い場合、早急に要因を特定し、改善を進める必要があります。
入社フェーズ
入社率:内定承諾後、実際に入社した人数の割合。企業がどれだけ効果的に新入社員を受け入れているかを示します。
初期定着率:入社後3ヶ月や6ヶ月でどれだけの従業員が残っているかを測ります。採用活動の質と新入社員へのフォローアップ体制が適切かどうかを示します。
3.2 ボトルネック発見と改善方法
採用プロセス全体を通じてKPIを測定することで、ボトルネックや改善点を特定できます。
以下に具体的な改善方法の例を示します。
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3.3 テクノロジー活用によるプロセス最適化
採用活動においてテクノロジーを活用することで、プロセス全体の効率化と精度向上が可能です。
以下は具体的なテクノロジー活用例です。
ATS(Applicant Tracking System):
応募者情報の一元管理。
スクリーニング機能による書類選考の一部自動化。
AIによるスクリーニング:
履歴書解析ツールによる自動選考。
候補者データベースから適切な人材を迅速に抽出。
動画面接ツール:
リモート環境での面接実施。
録画機能による後日の評価・フィードバック。
データ分析ツール:
KPIダッシュボードによるリアルタイム分析。
ボトルネック発見と迅速な対応策立案。
採用プロセス全体でKPIを設定し、それぞれのフェーズでボトルネックを特定して改善することは、効率的な採用活動には欠かせません。
また、テクノロジーを活用することで、プロセス全体の最適化が図れるため、今後ますます重要性が増していくと考えられます。
4. 定着率と離職分析の深堀り
採用活動の最終的な成功は、単に人材を獲得することだけでなく、優秀な人材を長期的に組織内に定着してもらい、成長、活躍をしてもらうことにあります。
本セクションでは、定着率の重要性と、定着率を高めるための戦略的アプローチについて詳しく解説します。
4.1 定着率向上のための具体的施策
定着率の定義と測定方法
定着率は、一定期間内に組織に留まる従業員の割合を示す指標です。
通常、以下のタイミングで測定します:
・入社後3ヶ月
・入社後6ヶ月
・入社後1年
・入社後3年
定着率向上のための具体的施策
オンボーディングプログラムの充実
入社前オリエンテーション
メンター制度の導入
初期段階での定期的なフィードバック面談
キャリア開発支援
明確なキャリアパスの提示
スキルアップ支援制度
社内外での教育機会の提供
職場環境の改善
フレックスタイム制度
リモートワークの柔軟な運用
心理的安全性の確保
報酬と福利厚生の最適化
競争力のある給与水準
業績連動型報酬
非金銭的インセンティブの導入
4.2 世代別・業界別の離職傾向
i.世代別離職傾向
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ii.業界別離職傾向
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4.3 心理学的アプローチの導入
定着、活躍を促すための選択肢を複数持っておくことは重要です。
代表的な理論を3つご紹介いたします。
1.自己決定理論
1985年にエドワード・デシとリチャード・ライアンによって提唱された動機づけに関する理論で、人間の行動が「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」によって駆動されることを説明しているのが特徴です。
3つの基本的欲求:
自律性(Autonomy): 自分の行動を自分で選択したい欲求。
有能感(Competence): 自分の能力を証明し、成長を感じたい欲求。
関係性(Relatedness): 他者とのつながりや関係を築きたい欲求。
動機づけの段階:
外的調整:外部からの報酬や罰則によって行動が調整される段階
ご褒美のための勉強、怒られないよう手伝いをしたりする状態
取り入れ的調整: 羞恥心や罪悪感、義務感から行動する段階
遅刻すると恥ずかしいので時間通りに行動するような状況
同一化的調整: 行動に価値を見出し、目標達成のために行動する段階
試験に合格するために勉強に励むような状況
統合的調整: 自分らしさのために行動する段階
将来の夢を叶えるために受験勉強をするような状況
内発的動機づけ: やりがいや楽しさ、好奇心から自発的に行動する段階
この段階では高い成果が得られ、行動が継続されやすくなる
これらの段階を通じて、外的な要因から内的な要因へと動機づけの源が移行していきます。同一化的調整、統合的調整、内発的動機づけの3つの段階は、まとめて「自律的動機づけ」と呼ばれ、より持続的で効果的な行動につながります
2.期待理論
1964年にヴィクター・H・ヴルーム氏によって提唱されたモチベーション理論です。
この理論は、人々がどのように動機づけられるかを説明しています。
主要な要素は以下の3つで、本理論ではこれらの掛け合わせをモチベーションとしています。:
期待感:行動が成果につながるという自身に対する信じる度合い
道具性: 達成した際に得られる報酬の確実性
誘意性: 報酬の価値や重要性
モチベーション = 期待感 × 道具性 × 誘意性
この理論は、"人は自分の努力が望ましい結果をもたらすと信じ、その結果に価値を見出すときに最も動機づけられるという考え方で、従業員のモチベーション向上や組織のパフォーマンス改善に役立ちます。
ただし、この理論は人間の合理性のみを前提としているため、感情的な要因や非合理的な行動を説明する際には限界があるという側面もあります。
3.X理論・Y理論
X理論・Y理論は、1950年代後半にダグラス・マクレガーによって提唱された人間観に基づく管理理論です。
X理論
考え方:性悪説
前提:
人は仕事が嫌いで、できれば避けたい。
自分で責任を取るよりも、指示に従う方を好む。
監視されなければ怠ける可能性が高い。
マネジメントスタイル:
厳しい規則や監視を通じて従業員をコントロールする。
強制力や罰を動機付けとして利用する。
適用シーン:
単純作業や明確な指示が必要な場面。
労働者の自主性が期待できないと考えられる環境。
Y理論
考え方:性善説
前提:
人は本来、働くことを自然な活動の一部と捉える。
自ら責任を引き受け、目標達成に向けて努力する意欲を持っている。
自己実現や成長が大きな動機となる。
マネジメントスタイル:
従業員に自主性や裁量を与え、信頼関係を重視する。
モチベーションを引き出す環境作りをする(例: 承認や達成感)。
適用シーン:
知識労働やクリエイティブな業務。
従業員の自主性が成果に直結する環境。
ここまで理論をいくつか見てきましたが、あくまでも視点を増やすためのものであることを忘れてはいけません。
原則は、下記のとおりです。
❶入社時の期待と現実のギャップを最小化
❷定期的な対話と相互理解
❸組織としての約束の遵守
定着率の向上は、単なる数値目標ではなく、従業員の成長と組織の持続的な発展を支える重要な戦略です。
世代や業界の特性を理解し、心理学的アプローチを取り入れることで、より効果的な人材定着を促し、活躍フェーズに進めていくことが可能です。
5. 採用活動効果の最大化戦略(ELTVとEAC)
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上記の計算式を踏まえ、取り組むべき方向性は3つに集約されます。
❶月次利益/人の増加
❷勤続月数/人の増加
❸採用コスト/人の低下
あくまでも、それぞれは遅行指標のため、それぞれの先行指標例を下記に挙げます。
5.1 月次利益/人の増加
【1.1】人材育成に投資する
【1.2】集中力に投資する
【1.3】システムに投資する
【1.4】無駄な業務を減らす
状況に応じて、取り組むべき優先度は異なります。
5.2 勤続月数/人の増加
企業が従業員に提供する価値の総量(EVP:従業員価値提案)の考え方をベースに取り組むことで、勤続月数の向上に寄与する可能性を高めることが可能です。
EVPの考え方はいくつかありますが、本記事ではTalentLyft社の定義取り扱っています。
【2.1】報酬:安心感と満足度
・給与や報酬制度が公平であること
・昇給や昇進が適切に評価されていること
・期日通りの支払いが行われていること
・評価システムがオープンになっていること
【2.2】手当:家族や将来への安心感
・休暇や保険、退職金といったサポートがあること
・教育支援が受けられ、柔軟な働き方が可能であること
【2.3】キャリア:長期的な定着
・安定した職場であること
・研修や教育を通じてスキルを高められること
・キャリア開発を支援してもらえること
・定期的な評価やフィードバックを通じて成長を実感できること
・将来への希望を持てる環境であること
【2.4】職場環境:日々の働きやすさ
・認識や自主性が尊重され、個人の達成を評価されること
・ワークライフバランスが実現できること
・挑戦する機会があること
・役割や責任が明確であること
【2.5】文化:組織の一体感や信頼関係
・会社の目標や方針を理解し、同僚やリーダーからサポートを受けること
・社会的責任を果たす活動に関与できること
・信頼関係を重視していること
5.3 採用コスト/人の低下
【3.1】よく整理された選考プロセス
【3.2】自社採用サイトの強化
【3.3】コンテンツマーケティングの活用
【3.4】リファラル採用の促進
【3.5】ダイレクトリクルーティングの促進
採用活動は相対的なものであるため、状況に応じて、3つの方向性の重心を経営者がうまくコントロールできるかが鍵となります。
6. まとめ:持続的な採用戦略の構築
6.1 KPI設定のベストプラクティス
具体性の確保
曖昧な目標ではなく、明確で測定可能な指標を設定
例:「優秀な人材を採用する」→「技術系職種において、上位10%の大学からの内定率を70%に引き上げる」
バランスの取れた指標設定
量的指標と質的指標のバランス
短期的指標と長期的指標の組み合わせ
継続的な見直しと改善
四半期または半期ごとのKPI評価
外部環境の変化に応じた柔軟な指標調整
組織全体での共有
採用部門だけでなく、経営層や各部門との指標共有
全社的な採用への意識醸成
テクノロジーの活用
データ可視化ツールの導入
リアルタイムでのKPI管理
6.2 継続的な改善のためのアプローチ
PDCAサイクルの実践
Plan(計画)
採用目標の明確化
採用戦略の立案
KPIの設定
Do(実行)
採用プロセスの実施
データ収集
候補者との接点管理
Check(評価)
KPIの分析
ギャップ分析
課題の特定
Action(改善)
改善施策の立案
プロセスの最適化
次期戦略への反映
継続的改善のための具体的な取り組み
クロスファンクショナルな採用チームの組成
HR
各部門の管理職
データアナリスト
採用エクスペリエンスの継続的な改善
候補者へのフィードバック収集
選考プロセスの UX 改善
外部環境の継続的なモニタリング
労働市場の変化
業界トレンド
競合他社の採用戦略
将来の採用戦略に向けて
予測される採用トレンド
AI/機械学習の更なる活用
より高度な候補者マッチング
予測分析の精度向上
柔軟な働き方への対応
リモートワーク
ギグエコノミー
多様な雇用形態
エンプロイーエクスペリエンスの重視
従業員のエンゲージメント
企業文化の可視化
パーパス(存在意義)の明確化
採用活動は単なる人材獲得プロセスではなく、企業の持続的な成長を支える戦略的な取り組みです。
現状に即したKPIを設定し、データに基づいた科学的アプローチと、人間的な要素のバランスを保ちながら、継続的に改善を重ねることが重要です。
また、どのような変遷を今後描いていくのか?という未来も想像しながら、日々の採用活動をアップデートしていきましょう。
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