ラムネ 【シロクマ文芸部】

ラムネの音がなる。
からり、
からり、
からりん、
しゅわり。

ラムネの瓶を傾けて中のビー玉をころり、ころりとまわす。
まだ半分しか飲んでいない青い液体から小さな泡が粒のようになにもないところから発生し、表面にたどり着いてまた消える。
納涼のために来た川の上に立った店で、僕は鮎を頬張りながら、ラムネの瓶をまわす。
からり、からり、くるり、ころり。

木造の床と流れ行く風が心地いい。
平日に休みをとってきたから、客も少ない。
外に拓けて見える景色は大きな川とその向こうに広がる田園。
まばらにある家々。

「ようっ」
急に声をかけられてびっくりする。
「よお」
さっき帰ってきてると電話したばかりなのに、もう俺と合流するとは、さてはショウタ、お前…
「暇だな」
「暇じゃねえよお。今日はこのあと農協にもいかなきゃいけないし、嫁さんの手伝いにも行かなきゃいけないし、忙しいよ」
「ほんとかよ」
間髪入れずにつっこんでやる。本当は幼馴染みの自分に会いに来る時間をきっと作ってくれたのだろうとよくわかっている。
「お前こそ暇じゃねえかよ。平日にのんびり鮎食いに帰ってきて」
ショウタはショウタで俺がそれをわかって返しているのをわかって、間髪入れずに返してくる。
「そりゃ、ここの鮎始まったって聞いたから」
地元の町から車で少し。ここの川の鮎は美味しいことでよく知られている。
「ガキみたいにラムネか」
「うるせえ」
「すんません、俺もラムネ一本」
大きな声で店員のいる方に声をかけると、奥からはーい、少々お待ちくださいと声がする。
「お前も飲むんじゃねえか」
「うるせえ」

ラムネがもう一本届いて、ショウタがガキみたいに開けると、しゅわりと音がして、
一口飲めば、ショウタはショウタで手の中で瓶を回しながら、からり、ころりと、ラムネの音をたてる。
昔から変わらない、あの商店で二人で買ったラムネの音。

「最近どうよ」
「ええ? 最近なあ…」

住む街も生活スタイルも違う幼馴染みの間に、
ラムネの音だけは変わらずなっている。

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