星崎梢

人生で初めて『書く』を実行しようと思って始めた短編小説用アカウント 基本的に小説と詩らしきものを投稿していきます

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最近の記事

ダブルエスプレッソ 【前編】【短編】【カフェシリーズ】

 イタリアンローストのダブルエスプレッソカフェラテ。  それを頼んだだけで、今日の気分の分かる女だった。  如何にも起きない心に鞭を入れて叩き起こした顔をしている。  化粧は雑で、マナーとしてしたまでという印象を否定できず、アイライナーは左右のバランスが取れていない。せっかくの美人がもったいなかった。  それでも、私は彼女が必死で起きてここまでやってきたことを褒めてやりたい。  彼女が唯一持っているお安めのブランドもののキャメルのバッグを右肩に抱えている。きっとぐちゃぐちゃな

    • 非日常とカフェ 【日記風創作物】

      感じる暇なく忙しく目の前を現実が過ぎ去っていく。 右に左に人が行き交い、列をなし、小さい画面を見て鞄を提げ、それぞれの場所に向かう。 観光で来ている人もいれば、仕事中の人もいれば、学生もいる。 「本日お伺いにすることになっております西山と申しますがー」 "We need to catch the bus that goes to the temple. It comes inー" 「今日、数学の小西面白かったよ。なんか昨日変な夢見たとか言い始めてー」 言葉も交錯する。 私は忙

      • 服を着るとは

        服を着るのが恥ずかしい 恥ずかしいと言って 服を着ないのは当然の論外だ でも服を着るのが恥ずかしい 流行りも好めず なんとなくこなれた服もろくに着れず 可愛いと思った派手な服を着るのは 人からの目が気になり 結局 人の目につかないであろう 茶色や白の気に入らぬ服を 着ては捨てる ファッションは自己表現だと誰が言った ファッションは自己表現だと思うから 好きな服を着るのが恥ずかしいのだ だって 誰が私を知っている 言葉が通じず 心が伝えられず もがいていた私を 好

        • バベル

          右も左もうだる熱が迫り来る 避けられない 逃げられない ここにいてもあそこにいても 避けられない 逃げられない 隣を走りゆく車 照り返すコンクリート 熱波の中列になり歩き行く学生 汗にまみれて 逃げられない 避けられない 木陰の涼しさに神の手を見る 土のかすかな照り返し たかだか何千枚の緑の葉のカーテン そのたかだか数千枚の葉ごときが オアシスを作る 熱波とオアシス 私が足を踏み出した この通りにはオアシスはない ここはバベルかもしれない 知識と技術で自然を大いに凌駕

          私は女ではなかった 〜ミルクレープの巻

          私は齡三十も七 でも女ではなかったように思う かすかに私の淵に触れる友といる時 かすかに男に抱かれる時 人生の微かなタイミングでこそ その片鱗はあっても 幼い頃から 見知らぬ言葉の中 強がり 求められるものを与えるのに 強がり 自分に泣くことを禁じて 七歳 強く生きよと 女の子の私は鍵をかけた箱の奥へ 女の私は呪われたものに 三十年 一昔 呪いも溶ける頃 ケーキ嫌いの私が 無性にミルクレープを食べたくなる その自分らしからぬ姿に 私は女ではない何かの 単なる具有だった

          私は女ではなかった 〜ミルクレープの巻

          ラムネ 【シロクマ文芸部】

          ラムネの音がなる。 からり、 からり、 からりん、 しゅわり。 ラムネの瓶を傾けて中のビー玉をころり、ころりとまわす。 まだ半分しか飲んでいない青い液体から小さな泡が粒のようになにもないところから発生し、表面にたどり着いてまた消える。 納涼のために来た川の上に立った店で、僕は鮎を頬張りながら、ラムネの瓶をまわす。 からり、からり、くるり、ころり。 木造の床と流れ行く風が心地いい。 平日に休みをとってきたから、客も少ない。 外に拓けて見える景色は大きな川とその向こうに広がる

          ラムネ 【シロクマ文芸部】

          たんたんたん 【詩小説】

          淡々タン…と 語るあなたの目は何処を見る ここを見ずに 過去を見て 夢を見ずに 闇を見る 淡々たん…と 語るあなたの目の前の カフェラテが冷めゆくことにも あなたは気付かないまま きっと何かを負った人はそうなのだろう 私の母もそうだった 目の前の人間が見えず 娘が見えず 慰めが見えず 自分の痛みしか見えない あなたもそうだった 私もそうだった 君の優しさに触れて私は気付く 私は苦しみをなかなか語らない でも私は学んだ 苦しみを 淡々とではなく 支離滅裂と 没入し めちゃ

          たんたんたん 【詩小説】

          化学反応 【超短編】

          私は浮遊する小さな小さな物体。 きっと、誰も私の存在に気付かない。 私は双子と共に、あちらこちらへと飛び回って、悠々自適に暮らしていた。 空が青い日も自由に飛び回り、風が吹けば吹き飛ばされたりしながら。 道端に咲く小さな花の葉から、街路樹のプラタナスの葉から、様々な植物の葉から仲間が生まれてきては、手を繋いで一緒に遊ぶの。 私たちはきっとずっと友達だよねなんて言って。 でも、急に人間に吸い込まれている仲間を見たりもして、センチメンタルになる。 私もそのうちどこかに吸収され、

          化学反応 【超短編】

          マリッジブルーズ 【2】

          祖母の芳江には孫寧々は姫に見えた。 姫にしか見えなかった。 なんて贅沢なんだろう、と今の若い子達を見ていて思う。 サクサクサクと、築四十年にもなろうかという自宅のキッチンで、きゅうりを刻みながら思う。 服はファッションの流行りが変われば捨て、綺麗な家に住んで、ときめくような機械を手に持って。 どこにでも行けて。何者にでもなれて。 本当はそんなに煌めいたものでもないと、違うというかもしれないけれど、自分の小さい頃と比べるとそう見える。 なんて贅沢なんだろう。 なんて便利なん

          マリッジブルーズ 【2】

          アートの受信機 【短編】

          「何あれ、気持ち悪っ」 茉耶は木製の駅舎の前に飾ってあるオブジェを見ながら、つい口に出して言ってしまっていた。 ー あ、こんなこと言っちゃいけない。『表現』なんだから。 茉耶がそんなことを思うのには、親友の理佐の存在が大きかった。芸術高校を出、自分にはアートは追求できないと思って、茉耶と同じ一般的な文系学部で大学に入った後も、それでも彼女なりのアートを作り続ける彼女の作品がよぎったからだ。 念の為いうと、理佐の作品に対して、茉耶は嫌悪感を感じるほどのことはあまりない。あ

          アートの受信機 【短編】

          マリッジブルーズ 【1】

          「なんでそうなるのよ!」 そう言って寧々は婚約者のユウタに結婚情報誌を投げつけた。 ぶぁっさと音を立てながら、分厚い雑誌はユウタの膝のあたりをかすめてフローリングに落ちる。 候補の結婚式場にふせんがされた雑誌はゴミのように床にぐしゃりと広がった。その広がりように、寧々はぐしゃりと潰された自分の夢のようだと思った。 「落ち着けよ…」 寧々が潰されたと感じるその夢を気怠げに持ち上げながらユウタは言う。正直疲弊していた。 結婚の話になってから、もともとわがままだった寧々は一層

          マリッジブルーズ 【1】

          リプレイ【1250文字】

          ずん、 と落ち込んだ気分をしたまま、私は何日分もの未整理を抱えたキャメルのカバンを提げて、扉を出ようとする。 あっ、待って、 マスクがいるかもしれない。 まだ感染症下の影響がうっすらと名残を残す社会には、『どこにでも入れるフリーパス』として、マスクは手に持っておいた方がいい。 私はもう一度廊下から玄関にたどり着き、 あ、待って、と再度止まる。 ガス、全部止まってるよね、とそそくさとキッチンに戻り、いち、に、さん、全部縦向き、大丈夫、 とまた廊下から玄関に戻ろうとする。

          リプレイ【1250文字】

          運動会なんて嫌いだ 【ショート】

          僕は運動会が大嫌いだ。 走るのが遅いとか、集団行動が嫌いとか、そんなことじゃないんだ。 僕はわからない。 なんで僕に「死ね」とかいう佐々木や、 僕のものをとって面白がる金井や、 一度だけだけども僕をトイレに閉じ込めて楽しんでた横井なんかと同じチームで『仲良く』『協力』しなきゃいけないのか。 僕にとって有利なゲームで、僕が選ぶ仲間たちで、チームを組んであいつらを倒すならいい。 なんで、僕はあんな鬱陶しいやつらと一緒に『優勝めざそー!』とかいった綺麗事をやらなきゃいけないんだ

          運動会なんて嫌いだ 【ショート】

          赤い傘 【シロクマ文芸部】

          赤い傘を差していたあの人。 時代遅れの赤い蛇の目を差し、場末のスナックのような赤い紅を差し、頬にヒステリックな頬紅を差していたあの人。 赤いサテンのドレスを異様に愛し、愛する男に会いに行っていたあの人。 私の目に赤く、醜く、どす黒く変色した血のように、 恐ろしいものを抱えて見えたあの人。 何か言葉にできぬものを抱えて、幼い私にそれを隠そうともせず、 精神のヤミを教えてくれたあの人。 逃げられないほどに目の前で、私を母親にした私の母親。 「すごい傘もってるね」 というあなたの

          赤い傘 【シロクマ文芸部】

          奇岩シューズ【毎週ショートショートnote】

          「俺、奇岩って嫌いなんっすよね」 「はあ」 「だって意味わかんなくないっすか。 岩って、なんでも不思議な形してると思うんっすよ」 「ふん」 「そんならなんだって奇岩じゃないっすか」 「へえ」 山頂への途中の休憩地。 登山客たちの中から、何故か話しかけられた僕は、絡まれてしまったと後悔していた。 この山の頂からはいわゆる「奇岩」が見えるらしい。そんな山をこれから登るのに、何を奇岩について文句言ってんだ、この人は、と僕は思う。まあ、ついさっきまでの道は急だったから、

          奇岩シューズ【毎週ショートショートnote】

          祈願上手【毎週ショートショートnote】

          「ああ、神様………   ………   ………わかりません」 キヨカは一人、学校の教会の会衆席の最前列に座って、頭を下げ、目を閉じ、祈っていた。 朝のミサでも真面目に祈ったことなんかほとんどなかったのに。 でも、今は祈ってた。 いや、祈りたかった。 何もかもがうまくいかなくて、どうしようもなくて、 誰もいもしない放課後の教会堂に立ち寄って、 誰かが、いや、神様が、助けてくれないかと、 祈ろうとしたのに、 祈れなかった。 嫌だった。 あれもこれも全て。 でも、いざ何かが変

          祈願上手【毎週ショートショートnote】