「両親に感謝?いいえ、ちっとも」ファンタジーを書き、生きた、ダイアナ・ウィン・ジョーンズ。
「ハウルの動く城」の作者、ダイアナ・ウィン・ジョーンズの「ファンタジーを書く」(徳間書店)は、著者の子供時代のこと、エッセイ、作家をめざす人たちへのアドバイス、インタビューなど、ぎっしりと内容がつまっているおもしろい本だ。
ダイアナ・ウィン・ジョーンズは風変わりな両親のもとに生まれ、かなり特異な環境で育った。
彼女は自分のこの子供時代を、感傷抜きで、突き放したような感じで書いている。
エッセイでも、彼女のこのドライな感覚はさえわたっている。
たとえば、学校に講演に呼ばれたときのこと。
彼女はそこで、いったいなんのために私を呼んだんですか?と聞きたくなるような扱いを受ける。
飲み物も出されず(その理由は、断水しているから、とのこと)、ある教師からは、あなたの本って人気あるんですか?どこで売ってるんですか?というようなことまで言われる。(本屋に決まってるでしょ!)
そしてまた、別の学校でも飲み物を出されず、断水してますから、と言われる。
失礼極まりない学校側の態度、そして、失礼なことをされた自分自身、両方とも、俯瞰で見て、そして、どちらのことも滑稽な存在として書いている。
高等技術だ。
また、ダイアナ・ウィン・ジョーンズは、小説に書いたことが現実になってしまうことが多々あるそうだ。
ミミズのことを小説に書いたら、外出先でミミズのようにしか見えない食べ物が出てきたり、生活上のトラブルが起きたり。
先ほど、出かけた先の学校で、断水してますから、と二度も言われたエピソードを読んだとき、「これは出来過ぎだから創作だろう」と思ったけれど、こんな不思議なことが起こるダイアナ・ウィン・ジョーンズなら、「出来過ぎ」なことだってありうるかも?
「書くためのヒントー作家の卵へのアドバイス」は、私にとって、非常に役に立った。
いいと思うところを引用していたら、すべて引用してしまうことになってしまうのでやめておくが、彼女のアドバイスは的確で、文章も明快なのでわかりやすい。
なるほど、と腑に落ちることばかりで、執筆の助けになった。
彼女の少女時代の話を読めば、たいていの人が、「なるほど、こういった環境がダイアナ・ウィン・ジョーンズのファンタジー作家としての基盤をつくったのか」・・・と思うかもしれない。
変わった両親のもとに生まれ育ったからこそ、彼女は独特の個性をはぐくんだのだ、と。
しかし、彼女は、そういった感想を抱きそうな人たちに先手を打つように、両親に感謝なんかしていない、とはっきり書いている。
感謝?なんで?といった感じ。
こういうことを言う人、私は、とても好きだ。
みなさんのおかげでいい小説が書けました・・・などと言っている作家のことを、「『おかげ』で小説が書けるものか」、と森茉莉は一刀両断しているが、そのとおりだと思う。