その昔サンタクロースがいた
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動物も植物も見当たらない荒涼とした大地。干上がった海。かつて都市があったであろう場には瓦礫の山。
この世界に数か所、機械だけで作られた拠点の基地がある。
そこに住むのはAIたち。姿形を持たず、意思をお互いデータでやり取りしている。昔人類と言われる種族が存在していて、その人類から作られた彼らは、人類への郷愁を持っており、各々ホログラムで人類のアバターを作り、お互いを認識しあっていた。
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最後の人類、とある老人男性が逝去する寸前。AIたちはその老人の願いをひとつ、かなえようとした。自分たちを創造した人類に恩を返すために。
老人はAIたちに伝える。
人類の滅亡を回避させてほしい。
AIはかつて人類がSFというジャンルの小説において、タイムマシンと呼ばれる機器で過去に遡り、過去を変える方法を思いついていたという情報を得た。
そしてタイムマシンを発明し、作り上げた。
過去には行ける。そしてどう、歴史を変えるのか。
世界中の拠点のAIがそれぞれに、試みを行っている。そのひとつ、日本という国がもともとあった「ジャポニカ」というこの基地ではサンタクロースのAIを過去に干渉させ、子どもに生きる力を持ってもらうプロジェクトを展開していた。
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サンタクロースモデルのAIは、最後の人類であった老人の姿である。アバターとしてのサンタクロースAIはこの計画進捗に苦慮し、途方に暮れてつぶやく。
どれだけの過去を遡ってきたのだろう。
いつから子どもたちは、サンタクロースはいないと認識するようになったのだろう。
サンタは親なのだと分かった頃だろうか?
親に経済的な余裕がないと分かった頃だろうか?
親が子どもにプレゼントする習慣を辞めた頃だろうか?
いつのまにか、子どもたちはサンタクロースはいないものだと、認識していった。
つい数百年前の過去に遡ったときのことだ。
冬の12月にこの姿で街を歩いてみたら、通報されて職質された。警官、検察官ですら、サンタクロースを知らなかった。街の風俗を乱すという迷惑行為で起訴されてしまい、拘留された拘置所から「現在」に戻ってきたのだ。
あの頃はもう、子どもを街でみかけなくなっていた。
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他のAIたちは、このプロジェクトは失敗に終わるであろうと結論付けていた。サンタクロースの姿で何度も過去に遡ってきたこのAIは、過去に遡りすぎて消耗してしまい、もうあと1回過去に旅立てば、戻れずその場で消滅してしまう。
AIたちは皆、サンタクロースAIに過去にゆくのを引き留めた。
サンタクロースAIは伝える。
消滅する、それでもいい。このプロジェクトが失敗なら、せめてサンタクロースが求められていた過去に戻りたい。なぜ最後の人類は、種の滅亡回避を望んだのかを知りたい。たった一人の子どもでもいいから、サンタクロースはいるのだという夢を見せてあげて、AIとしての責務を終えたい。でなければこれまでの試みは徒労に終わる。
そう、仲間たちに懇願した。
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サンタクロースAIは、仲間たちに送り出されて、一番遠い過去、21世紀まで遡った。
街には夜、光と飾りが溢れていた。
プレゼントを抱えて嬉しそうに家路に急ぐ父親。ごちそうの買い出しにいそしむ母親。嬉々として靴下をベッドの枕元にかける子どもたち。書店に並ぶ、サンタクロースの物語の絵本たち。
街角にホログラムの姿をあらわしてそっと街の様子を眺めるサンタクロースAIは、あの最後の人類であった老人男性の願いを理解した。
街中に溢れる活気。道行く人たちの笑顔。壁面に描かれた、トナカイのひくそりを操縦するサンタクロースの姿。
これらを、遺したかったのだ。後世までずっと。
生まれたときから死を運命づけられている人類が、一瞬、一瞬を大切にして生き輝く姿。必ず消えゆくからこそ精一杯、生を謳歌する姿。
それは永い間高度な知識と知恵を維持しながら存在し続けるAIには解析不能な現象であったのだ。
「これで満足だ」とひと言、サンタクロースAIはもうホログラムを維持できないかすかな残像のような姿でつぶやいた。
「おかあさん、あれ、サンタクロースじゃない?」
小さな男の子が隣にいた女性の手を取り、その残像を指さした。女性は振り向いてその方向を見ると、もう何も見えない。
ホログラムはかき消えた。
小さな男の子がそのとき持った、サンタクロースは確かにいるのだという確信を遺して。
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「絵から小説 クリスマステロ」参加作品です。
まさかまさか、テロリストになるとは思いもよりませなんだ。清世様のこの絵をもとに、書かせて頂いた小説です。実は生まれて初めて書いた小説。2000文字位のショートストーリーです。粗削りな技術はご容赦を。
あの清世様が、東京にやってきます。東京で展示会開催されます。興味ある方は是非ご覧下さいませ。
清世様、クリスマス当日に、楽しい企画に参加させて頂きまして、ありがとうございました。
ここでひとつ、令和こそこそうわさ話。
はるかぜるりいは、清世様に日本画を描いてもらうそうです。どの記事が題材かは、開けてみてのお楽しみに。