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No.28 前頭側頭型認知症ではアルツハイマー型認知症よりも睡眠の状態が悪い

今回の論文はこちら:

"Nocturnal sleep dynamics alterations in the early stages of behavioral variant frontotemporal dementia"

https://doi.org/10.1093/sleep/zsae201

前頭側頭型認知症(以下、frontotemporal dementiaの略でFTDと書きます)の初期において夜間睡眠がどう変化しているかということを検証した研究です。
なぜこれが面白そうと思ったかというと、睡眠不足など睡眠の状態が悪い時って、前頭葉機能に影響が出やすいと言われているんですよね。とすると、逆に前頭葉の働きが悪くなっている状態だと、睡眠はどのような変化を示すのか…そこを知っておくと、睡眠と脳の働きの関連について、より理解を深められるのではないかと思ったわけです。

ではさっそく見ていきましょう。

方法

対象者は、行動障害型前頭側頭型認知症 (behavioral variant frontotemporal dementia, bvFTD)が疑われる18人(男性が9名、平均年齢70.1歳)と、アルツハイマー型認知症の疑われる18人(男性が6名、平均年齢69.3歳)で、全員がイタリアのトリカーゼにある専門医療機関の患者さんです。

睡眠を評価するために、かなり多項目にわたる質問票による評価をうけています。
また、全員が自宅での終夜睡眠ポリグラフを受けています。脳波電極はF3, F4, C3, C4, O1, O2と,睡眠検査として標準的な配置です。

結果

アルツハイマー型認知症の患者と比較してbvFTDの患者は朝型夜型質問票の点数が有意に低く(すなわち夜型が強く)、不眠重症度質問票の点数が有意に高く、ピッツバーグ睡眠筆問表の点数が有意に高いという結果でした。要するに睡眠の状況がより悪かったのです。
終夜睡眠ポリグラフでも、bvFTDの患者の方がステージN1(浅睡眠)が多く、ステージN3 (深睡眠)が少ないという違いが有意に認められました。また、bvFTD患者の方が睡眠-覚醒間の移行回数と、ステージN1-覚醒間の移行回数がアルツハイマー病患者と比べて有意に多い、すなわち睡眠の不安定性がより高いという結果でした。
睡眠脳波のスペクトル解析では、シグマ波を中心とする速い波形で、どの睡眠段階においても、bvFTD群の方がスペクトルパワーの強いことがわかりました。

感想

前頭側頭型認知症の人では、初期の状態であっても、少なくともアルツハイマー病の人と比べてすでに色々と睡眠の状態が悪いのだと知ることができました。例えばピッツバーグ睡眠票の点数が、アルツハイマー病の群だと平均5点と正常範囲なのに、bvFTD群では8.5点と、「けっこう高いな?」という印象を持たされる点数です。
また、アルツハイマー病の人は、初期の状態にあってはどうやらそこまで睡眠の状態が悪くないのかもしれないということも興味深く感じました(健常な人の対照群がこの研究ではいないので、今ひとつはっきりしたことはわかりませんが)。認知症全体の中では、FTDよりもアルツハイマー型認知症の方が圧倒的に多いので、bvFTDの人で今回得られた睡眠に対する影響の話が、認知症の人の一般に当てはまるわけではないということは気をつけた方がよさそうです。

参考文献

  1. Gnoni V, Tamburrino L, Baldazzi G, Urso D, Zoccolella S, Giugno A, et al. Nocturnal sleep dynamics alterations in the early stages of behavioral variant frontotemporal dementia. SLEEP. 2025 Jan 13;48(1):zsae201.

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