イスラエル人のクラスメイトが国に帰っていった
ある新年度、イスラエルから男の子が音楽院へやってきた。
最年少の天才児という触れ込みで、実際とても上手で、何よりとても素直だった。
朝から晩までずっと練習していて、みんなで、あの子は大きくなるねとライバル視しながらもあったかく見守っていた。
半年と少し過ぎて、その子は突然いなくなった。
本当に突然。誰にも言わずに。
クラスみんな集められ、先生に告げられたのは、彼は兵隊に入るために国に帰った、ということ。
本当はまだ兵役の歳じゃないけれど、志願して軍に入った、と。
音楽もやめて、立派な兵隊になります、と国に帰った彼から連絡があった、と。
世界一になると言ってめちゃくちゃ頑張っていた彼が、なんで?
クラスのみんなでびっくりした後、戦争の話になった。
イスラエルは戦時中だ、イギリスも韓国もトルコも大きく捉えれば戦いの最中だし、兵役がある国の子たちもここには居る。
彼はたぶん、楽しくここで暮らしつつ、母国のことを考えていたんだろう。
彼の選択が正しいとか正しくないとかは、私たちが決めることではない。
今はただ、彼の無事を祈って、いつかまた音楽に戻ってくれることを願おう。
先生は静かにそう言って、みんなで彼の無事を、それぞれの神さまに祈った。
10代後半の伸び盛りの数年を(あるいはその後も)軍に、国に捧げるため、好きなことをやめてしまった才能ある子は、どの分野にもたくさんいるのだろう。
平和な国に生まれ、好きなことを勉強できている私たちはとても幸運だ。
ほんとうに、戦争なんて、なくなればいい。
数年後、彼は軍服姿で演奏している写真をフェイスブックに上げていた。
とりあえず、無事で良かった。
彼もクラスメイトたちも、みんな幸せな人生でありますように。
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