「山王海ダムにはダム底に沈んだ集落があり、そこで暮らした人々は木炭生産で収入を得て生活していた。」
その話を聞いたことがきっかけで岩手の木炭生産の歴史やかつての山王海集落での人々の暮らしが知りたくなり、様々な文献を探すようになりました。
岩手の木炭生産について記した本「炭焼物語」「岩手木炭 ーその近代のあゆみ」「炭焼きの二十世紀」は、中学校教員だった畠山剛氏が、赴任先の北上山地内の中学校で、製炭業をしながら貧しい暮らしをしていた生徒の家庭をいくつも見てきたことで、子どもが安心して通学できる生活実現させたいという思いから、木炭生産者の地位向上を目的に岩手の木炭生産者について記したものです。
「炭焼物語」には山村の人々の暮らしとともに、木炭生産の岩手県内での広まりと衰退が記されていました。
また「岩手木炭 ーその近代のあゆみ」「炭焼きの二十世紀」には山王海の事も記してありました。
「岩手木炭 ーその近代のあゆみ」から
「炭焼きの二十世紀」から
畠山剛氏の著書に山王海の集落の事が記されていましたが、あくまでも楢崎圭三氏による「改良製炭法の伝習の地」としての紹介が主な内容で、山王海集落での人々の暮らしについて、詳細な記述はありませんでした。しかしながら、「木炭物語」で北上山地の山村の農民の生活が困窮していたことが記されていることから、山々に囲まれた山王海集落の暮らしが同じような状況であったことが推測できます。
北上山地の山村の暮らしは「宮古市北上山地民俗資料館」の展示や、「森の生態史 北上山地の景観とその成り立ち」「山棲みの生き方 木の実食・焼畑・狩猟獣・レジリエンス」といった書籍で詳しく知ることが出来ます。厳しい環境下で山の資源を利用しながらの自給自足の生活は、森林・林業について様々な課題を抱える現代に暮らす私たちに「森林と共にどのように暮らしていくべきか」のヒントを与えてくれます。もし、山王海集落で人々が森林資源をどのように活用して暮らしていたかを知ることが出来れば、紫波町でどのように森林資源を活用し森と共存していくかを考えるヒントになったでしょう。