武勇伝を自分自身で客観的に評価できない人間は組織に害をもたらす。
会社内である程度経験を積んでくると、やたらと武勇伝を語りたがる人が出てきます。おそらくその話をされて迷惑に感じた経験がある人は多いかと思います。一方で、人間には承認欲求がありますので、武勇伝を完全に排除することは困難でしょう。
「あなた自身は武勇伝を語ったことがないか?」と問われると自信はないですが、極力くだらない自慢はしないように心がけてはいます。ただ、なぜかマウンティングしてくる人もいますので、一応、自分自身にもそれ相応の経験があることはお伝えすることはあります。
これは、相手の説明を簡素化させるためです。素人相手だと思われると、一から説明が入るので時間的にお互いメリットはありません。
他方で、私は武勇伝は使いようによってはかなり価値のあるものだと思っています。ところが、単純に承認欲求を満たすための話があまりにも多いのが残念です。
例えば、以下のようなものがあります。
「私は、海外駐在をしていた。がむしゃらに顧客開拓しモノになった。お前たちも、修羅場を経験して初めてわかるものがある。」
これは素晴らしい経験であり、その通りだと思います。しかし、実際の行動の裏を取ってみるとあまり積極的なものではないケースが多々あるのです。
1)海外転勤は、上司から急に言われた
2)かなり拒否していたが、結局、強制的に行かされた
3)顧客開拓は、現地採用の人が当てがわれ、現地採用の人が中心にテレアポしていた
4)現地採用の人間とのコミュニケーションがうまくいかず、トラブル続きだった
5)さらに悪いことに現地採用の職員がトラブルメーカーであり、営業訪問先とトラブル続き。修羅場を迎えた。
6)なんとか支援を仰ぎ、事なきを得た。現在も、細々と事業を続けている。
もちろん、消極的な初動であったとしても、結果としては行動したのは素晴らしいことです。社内評論家よりも、すばらしい、と言いたいところですが、客観的に分析すると以下の点から「すばらしい」とは言い難いかもしれません。
1)海外進出のための投資が全く回収できていない。
2)投資回収のための戦略が描けていないにも関わらず、細々と事業をつづけており、さらに財務体質悪化を継続している。
3)現地採用の人とのコミュニケーション改善策が立てられてない(自身の語学力不足を克服せず他人任せにしている。)
4)なぜトラブルが生じたのか、本質的な原因の仮説を立てられていない。
新しい試みに対して、すぐに成果を出すのは非常に難しいことです。失敗を重ねながら、その失敗の原因を仮説であっても特定し、打ち手を施すことで少しずつ前進していくものですが、承認欲求を得る目的の武勇伝の場合はその原因が分析できていません。
このような客観的分析ができていない武勇伝は、聞き手にとって何のメリットもありませんし、気分が悪くなるだけです。分析ができていませんので、事業を継続するにしても、結局、一からのやり直しであり、組織にとって害になるのです。
また、投資という観点からも本当に成功している武勇伝もあります。しかし、これも客観的な分析がなければ害になるでしょう。成功のケースは千差万別であり、失敗には共通点があるといわれています。新規事業家で有名な守屋さんの言葉を借りると以下の通りです。
上記のような内容を理解していない成功者は、何の根拠もない「ラッキーな成功事例」をモデルとして相手の事業などを評価し始めますので、きわめて厄介になります。
飲み会の席などで武勇伝が語られた場合、ただうなずいているだけではつまらないでしょうから、いろいろ質問してみるとよいでしょう。ただ、記憶は美化されますので、相手の言うことを100%鵜呑みにしないほうが良いです。ましてや飲み会の席では、ほとんど信ぴょう性はありませんが、なにかヒントがつかめるかもしれません。
一番気を付けたいのは
その人の口から、「根性が大事」などの根性関連ワードが出てきた時です。根性は結構人によって出る場面が異なるのですが、根性論が好きな上司はそれすらも理解していません。
例えば、いくら営業訪問に対して根性がだせても、ダイエットは3日坊主で全く根性がない人がいるかと思います。反対に、ダイエットは継続できるけど、営業訪問は苦手という人もいるでしょう。このように人には得手不得手があるのです。
結局、根性で片づける人は客観的評価ができませんので、的確な問題解決案が出せません。画一的な価値観しか認められない視野の狭い人と言えるのです。(ちなみに、本質的課題を特定せずして、やたらとMBAなどで習うフレームワークを使って整理し、無理やり結論を出す人がいるのですが、これもまた危険です。)
それでも、いやいや、俺は根性で成功した。という人もいるでしょう。ただ、残念なことに単純な根性で動いた場合、やるべきことが精査されていないため、大量の仕事が発生することが世の常です。それをこなすには体力も必要となります。
この状況に対応できるのは、生まれながら「その仕事に対して根性が出せる素質と、体力の両方を併せ持った幸運な人間」しか残りません。
このような人間をあなたの会社は集め続けることができるのでしょうか?可能であれば問題ないですが、おそらく多くの会社は難しいでしょう。
武勇伝を語るのは悪くはないですが、建設的な武勇伝にする、という意識が必要だと改めて思います。