Haruna

勤務医として臨床に従事してます。 医学的なことから本の紹介など。

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最近の記事

【書評】はじめての統計的因果推論

はじめての統計的因果推論を読みました。 本書は因果推論の各手法に関する概念を総合的にわかりやく説明している点で大変優れていますが、なによりも『第9章 エビデンスは棍棒ではない - 「因果効果」の社会利用に向けて』が勉強になる(とともに身につまされる)内容でした。 因果効果の推定において統計学はすばらしい学問ですが、『その推定結果を実社会に応用するには、統計学の外側にある見識が大変重要になる』というのは、結論だけみれば当たり前ですが、狭い見識の中で不適切な外挿を喧伝したり、

    • 【書評】リーダーの仮面

      本屋さんなどではよく見かけるので、積読に加えていたものでしたが、すさまじい本でした。 率直にいうと、「読み手によって異なる感想になるだろう本」だと思います。 この本では対象の読者を下記のように説明しています。 しかし個人的には、このようなマネジメントが効果を発揮するのは、下記の条件がそろっている場合だと思います。 ピラミッド構造の縦割り組織である 構築済みのビジネススキームを効率的に回すことが主業務である 人材リソースの品質が安定していない(対象読者であるマネージャ

      • 【書評】科学者はなぜ神を信じるのか

        著明な物理学者である三田 一郎さんの「科学者はなぜ神を信じるのか」を読みました。物理学者でカトリック教徒である筆者の観点から科学史を俯瞰する、という面白い構成で、匠な文章と相まって勉強になる本でした。 ガリレオの宗教裁判 一般的にガリレオの宗教裁判は、地動説と天動説の正しさを巡る激しい論争がイメージされていますが、その実態は教会内部の派閥争いであり、「正しさ」は二の次であった、というのは知りませんでした。端的にいえば、ガリレオは派閥争いに巻き込まれた被害者であり、その時代

        • 【書評】運動しても痩せないのはなぜか

          ランニングマシーンやスマートフォンの歩数計をはじめとして、運動に対して「消費カロリー」なるものを提示してくれるとても便利なデバイスがたくさんありますが、この「消費カロリー」という概念は本当に正しいのでしょうか? 実際、肥満に対して運動を行っても体重減少効果はあまりないことがこれまでの研究から知られており、肥満症ガイドラインでも「運動療法は減量(体重減少)にはあまり効果的ではない」がGradeA, LevelⅠになっています。 私自身その理由がわかっていませんでしたが、その理由

        【書評】はじめての統計的因果推論

          【書評】医者に大切な4つの力

          かの有名な山下先生の人生訓的な本ですが、永嶋孝一先生の書評で興味を持ち積読していた本でした。 個人的に大変勉強になったのは、プレゼンテーションの極意に関するところです。山下先生は生まれついてのプレゼンの天才かと思っていましたが(十分その要素もあると思いますが)、それはプレゼン技術の必要性を早くから理解し、意識して努力してきた結晶である、というのが驚きであるとともに反省させられるところでした。 プレゼンの機会が増えるにつれて「間を取る」は思った以上に易く行うは難しだと痛感し

          【書評】医者に大切な4つの力

          118回医師国家試験 循環器内科医の視点から

          循環器内科医として118回の医師国家試験の循環器分野の問題を解いてみました。近年の傾向ではありますが、実臨床に即した問題が多い印象でした。 今回はそのなかで今回は2問ピックアップして臨床的な視点から解説していきたいと思います。 ※解説に関しては個人的な視点のものであり、正確な解説に関しては成書などをご参考ください。 【118D25】中年男性の急性心不全63歳の男性。呼吸困難を主訴に救急車で搬入された。3日前から労作時の息苦しさを自覚していた。本日、帰宅後から徐々に息苦しさ

          118回医師国家試験 循環器内科医の視点から

          【書評】ただしさに殺されないために

          御田寺圭さんの「ただしさに殺されないために」を読みました。 ネットでは有名な論客でもあることを後から知ったのですが、主張はさておき本の質は極めて高い良書でした。 ヘビの寓話と本のスタンス この本を読むにあたって、そもそも本のスタンスが理解できないと迷子になる可能性があります。個人的には、その説明にもってこいなのは、橘玲さんのヘビの寓話だと思います。 ここでは実例がぼかしてありますが、それもそのはずで、この手の話題がどうしても際どくて不愉快なものだからです。 この不快な実

          【書評】ただしさに殺されないために

          【書評】新版 財務3表一体理解法

          バランスシートなどの用語としては知っているものの、会計というものがいまいちわからず、特に財務3表の繋がりが理解できなかったため、購入してみました。 恐らく知っている方からすれば常識なのだと思いますが、初学者としてはそもそもの概念イメージがなかったので、導入から丁寧に説明している本書はとても貴重で分かりやすい書籍でした。 以下簡単なポイントのまとめです。 お金の流れ 基本的には全ての会社がやっていることは下記の3つに集約されます。 ① お金を集める ② 投資する ③ 利益を

          【書評】新版 財務3表一体理解法

          統計検定2級(CBT) 受験のまとめ

          統計検定の2級を受験し高得点で合格できました。今後の参考として、まとめておきます。 まとめ 基礎知識:医学部の教養課程以来、記憶ほぼなし 勉強時間:独学、正味70-80時間程度 試験結果:80点台後半で合格 統計検定の印象 率直に言って難しかったです。インターネットで調べてみると、比較的簡単に合格できるようなことが書いてあるので、取り敢えず公式問題集を買って解き始めたのですが、何を言っているのか驚くほどわかりませんでした。 ただ仮にも理系の端くれとして試験ものを合格でき

          統計検定2級(CBT) 受験のまとめ

          お金という価値変換装置

          「お金で買えないものはない」「人生はお金じゃない」など、お金に関する故事や格言、物語は古今東西尽きないものです。 " へうげもの " で有名な山田芳裕先生の望郷太郎という漫画を読み、つくづくをお金というものはいろいろな側面から考察できる特殊な存在だと思うとともに、ここでは交換というキーワードからお金についてまとめておきたいと思います。 ” 交換 ” という原始的行為 この世界は基本的に一人ではいきてはいけません。 古来より人類は共同体を形成して、他人との協力のもと生きてき

          お金という価値変換装置

          【書評】 最強の教養 不確実性超入門

          VUCAと称される現代において不確実性という単語自体はよく耳にする言葉ですが、今回の記事では田渕直也さんの「最強の教養 不確実性超入門」を用いて不確実性に関してまとめておきたいと思います。 不確実性とは不確実性とは「予測不可能な未来のことであり、未来の予測は予測可能/不可能なことの割合でできている」と説明されています。例えば家を何時にでれば職場に何時につくということは、予測可能の割合が高い未来であり、地震がいつ起こるかは、ほぼ予測不可能な未来といえます。 そしてこの不確実

          【書評】 最強の教養 不確実性超入門

          インデックス投資のまとめ

          不労所得の代表格のひとつは投資、特に株式投資です。 新NISAもあり盛り上がってきている話題のひとつですが、忘備録と自戒としてまとめておきたいと思います。 インデックス投資の優位性「ウォール街のランダムウォーカー」に紹介された ” サルのダーツ投げ ” のエピソードは、 " 未来予測は基本的に困難である " ことの象徴として多くの本に紹介されています。超有名企業や研究者、ファンドマネージャなどによる市場予測が外れてきた事例は枚挙にいとまがありませんが、それほど市場の未来予測

          インデックス投資のまとめ

          2023年度 循環器専門医試験の感想

          2023年度の循環器内科専門医試験を受験しましたので、今後受験される方の参考として、忘れないうちにまとめておきます。 追記:無事に合格していました。 試験概要日時 2023年10月15日(日) 会場:2023年9月15日発表(書類審査通過と合わせて連絡) ・仙台会場:TKPガーデンシティ ・東京会場:TKP赤坂カンファレンスセンター ・名古屋会場:TKPガーデンシティPREMIUM名古屋駅前 ・大阪会場:ツイン21MIDタワー会議室 ・福岡会場:リファレンス駅東ビル貸

          2023年度 循環器専門医試験の感想

          医師におすすめの一般書籍2

          日々臨床に忙殺されていると、インプットが専門分野の実用的内容に偏ってしまいがちですが、あえてインプットを変えてみると思いがけない発見や学びがあり、月並みですが多読の重要性に気づかされます。 前回と同様に、最近読んだ本のなかで興味深かった一般書籍を5冊ピックアップし、感想がてら紹介していきます。 経済学を知らずに医療ができるか!?医療経済に関する本です。現代の医療の経済的問題点を浅く広く網羅しており、教科書的な位置づけとして勉強になりました。おそらく医療経済というものを学ぶ

          医師におすすめの一般書籍2

          【書評】アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

          アマゾンに対して批判的な本がアマゾンで売られているのが興味深く、まとめ買いで積んでおいたのですが、最近読んだ本のなかでは断トツに面白いものでした。 この本は簡単にいえば、著者が劣悪な労働環境の労働者として潜入し、そこでのリポートを一冊の書籍にしたものです。 悲惨な状況下における労働者の描写が秀逸であり、ここが本書の素晴らしいポイントでした。 しかしその状況への考察に関しては、著者が最初に目的でないと宣言されてしまっており、一方では暗に雇用主-非雇用者論に落とし込み単純化し

          【書評】アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した

          【出産費用の保険適用】適用の意味と今後の予想

          日経新聞に出産費用の保険適用を検討しているとの記事がありました。 医療従事者側からの意見として、主に妊婦の経済的負担の増大リスクや廃院によるアクセス権の悪化を根拠に反対という論調が多かったのですが、少しずれているのではと思いました。 この記事では、この案が超えるべきハードルと検討する意味を、実際に出産が保険適用された場合を想定して考えていきたいと思います。 保険適用にするために超えるべきハードル まず前提として現在出産(正常分娩)は保険適用ではありません。 これは保険適

          【出産費用の保険適用】適用の意味と今後の予想