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引退後に悩んだセカンドキャリア。元マラソン選手・加納さんの人生を変えた出会い

SNSの普及により、自らの活動を積極的に発信する人が増えたこの頃。発信を武器にチャンスをつかむ人もいる一方で、「自己開示が苦手だ」と感じる人も多いのではないでしょうか。
第一線で活躍していたマラソン選手を引退して、セカンドキャリアに悩んでいたという加納由理さん。彼女の人生は、選手時代の先輩である西田隆維さんへ不安を打ち明けたことから大きく変わることになりました。

3名の紹介

加納さん紹介

加納由理(かのう ゆり)さん
立命館大学を卒業後、資生堂ランニングクラブに所属。自身初マラソンとなる大阪国際女子マラソンでは3位に入賞。2007大阪世界選手権女子マラソン補欠に選出された後、2009年ベルリン世界選手権7位入賞と国際大会でも活躍を納める。
2014年に競技を引退。現在は「生涯ランナー」をモットーに、ランニングを通して、「運動することの喜び」や「続けることの大切さ」を伝えている。ランニングイベントやスクールの主催に加え、学校やビジネス団体に向けた講演を行うなど、教育活動にも力を注いでいる。ランナーとして、2017年サロマ湖100kmウルトラマラソン優勝。ビジネスとして、2018年新潟県十日町市で「星峠雲海マラソン」を企画。

西田さん紹介

西田隆維(にしだ たかゆき)さん
駒沢大学在学時に箱根駅伝4年連続出場。4年時には9区区間新記録(当時)を出し、往路復路ともに優勝する完全優勝に貢献。2001年にはカナダエドモント世界陸上競技選手権大会マラソンで日本代表9位という成績を納める。現在は、走る楽しさを伝えるイベントを企画運営をしている。

成瀬さん紹介

成瀬拓也(なるせ たくや)さん
筑波大学体育専門学群出身。学生時代は箱根駅伝を目指して、競技者としてだけではなく、チームの運営やリクルーターとしても活動。
2011年8月に株式会社ウィルフォワードを設立。既存の管理型組織運営とは大きく異なり、クリエイティビティを最大化させるためにルールや規則をとっぱらい、自由でありながらも家族的な強い絆で結ばれた組織づくりを行っている。プロデューサーとして様々なプロジェクトや事業を立ち上げつつ、学生教育や起業家支援も行っている。

こぼした不安が生んだ、偶然の出会い

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──選手を引退後、「これから何をするか」悩んだという加納さん。スポーツ選手は指導者や所属するチームのスタッフになるイメージがありますが、セカンドキャリアについてどのように考えていたのでしょうか。

加納さん:
確かに、「教える側」にまわる人は多いですね。けれど、私よりも教えることに長けた人達がたくさんいる中で、「自分は人に教えるなんてできない」と思っていたので選択肢にはありませんでした。自分にしかできないことや、私だからこそ提供できる価値があることをやりたいと感じていたのです。

とはいえ、競技漬けの人生だったため「自分にしかできないこと」が何なのかはまったくわからず…。現役時代の知り合いであった元マラソン選手の西田さんとイベントで再会し、彼がユニークなセカンドキャリアを歩まれているのを知っていたので、不安を話してみようと思いました。

第1段落中間

西田さん:
彼女は当時、とにかく「次にやるべきことが何もない」と大変そうにしていました。競技一筋で生きてきたからこそ、競技を離れたときに「自分の居場所がない」と。「さあどうしよう」と思った時にポンと思い浮かんだのが、マラソン選手を引退後ウィルフォワードを立ち上げた、なるちゃん(成瀬さん)だったんです。なるちゃんとは前々から交流があって、人の「やりたい」という思いや熱意を引き出すのが上手だなと感じていました。どこかの企業に入ると組織の枠組みの中に押し込められたりもしますが、なるちゃんはそういう方じゃないのを知っていたので、「相談してもらったたらいいかもな」と。

加納さん:
西田さんに相談したときに、「元マラソン選手としてイベントに出ることだけではなく、自分の気持ちを掘り下げて、自分だけの価値をきちんと作っていったほうがいいよ」と言われて成瀬さんを紹介されたことは覚えています。

ビジネスの世界に飛び込み、出会えた「私にしかできない」仕事

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──西田さんから突然の相談を受けた成瀬さん。加納さんの、当時の印象はどのようなものでしたか?

成瀬さん:
初めて会ったときは、噂に聞いていたより寡黙な方だなと感じました。

コミュニケーションも得意な方ではなかったし、ビジネスについてもさっぱりだった加納さんと仕事をしようとは普通思わなかったと思うんです。でも、何か運命めいたものと可能性を感じたからなのかもしれないです。

僕自身も大学で陸上競技に打ち込んでいたので、スポーツ選手のセカンドキャリアについては問題意識がありました。孤独に戦う選手が、明るくコミュニケーションをとったり人前で話したりするのが苦手になってしまうのは、選手時代の「ヘラヘラしてんじゃねえ」という価値観で育った環境のせいでもあると思います。

僕や西田さんは、現役時代から話すのが得意だったんです。だから僕たちがビジネスの世界で上手くやれたとしても、引退した選手が「だったら自分にもできるかも!」とはならない。でも、寡黙で有名だった加納さんが人前で話をするようになったら、「スポーツ選手引退後のセカンドキャリア」問題に一石を投じられるのではないかと考えました。

──この出会いがあり、加納さんは講演活動やマラソンイベントの参加、記事執筆による発信を始めることになったのですね。ビジネスの世界に飛び込み、ぶつかる壁も多かったのでは?

加納さん:
ウィルフォワードに加わった頃は、毎日がチャレンジの連続でした。会議に出ても分からない単語が飛び交うような状況で、はじめは意見をひとつ発信するのも緊張していました。でも、ウィルフォワードのメンバーは絶対に人の失敗を笑わないんです。その環境もあって、「失敗しても安心だな」とチャレンジができるようになりました。

今では考えられないですが、入社直後はたった5分のプレゼンを何日も練習していたことを覚えています。

成瀬さん:
「人と話すこと」はどんな仕事においても必要になります。避けては通れないと思って、あえて負荷をかけていましたね。トレーニングさえすれば伸びると思った根拠もありました。加納さんの小学生時代の話を聞いたことがありましたが、彼女はもともと、話すことや人と違うことをするのは嫌いではなさそうだったんです。彼女は話すトレーニングを今までしてこなかっただけなんだと思っていました。

──現在行っている活動のなかで、やりがいを感じるのはどんな瞬間でしょうか?

加納さん:
現在スポーツ選手へのインタビューと記事の執筆を行っているのですが、本気で競技と向き合った私の経験を活かして深い話ができたり、「今までインタビューされた中で1番好きな記事です」とインタビュー相手に言ってもらえたりと、とてもやりがいを感じています。
セカンドキャリアに悩んでいた頃は、「もっと早く引退していれば、社会に戻るのも楽だったかも」と思ったこともありました。しかし、現在は元スポーツ選手ならではの視点を活かした仕事も広がり、選手としての経験は無駄ではなかったと感じています。

人とのつながりが生み出す価値

──成瀬さんに出会い、第二の人生を歩みはじめた加納さん。選手時代や、キャリアに悩んでいた頃の自分に伝えるなら、どんな言葉をかけますか?

加納さん:
何かあったときに相談できる相手をはやく見つけておけばよかったと思っています。現役時代に出会った人と現在の活動で再会することも多いのですが、当時は受け身のつながりが多かったんです。例えば、取材をする人(相手)と取材される人(私)のような。自分の価値を一番見てもらえる選手時代に、今後のセカンドキャリアにつながる出会いの種をまいておけばよかったと思います。

成瀬さん:
でも今みたいにSNSもない時代に、先輩選手が引退後の今どうなってるかなんて知る方法がなかったですよね。そもそも「とにかく今が大事で必死」な現役時に将来のことなんて考えないですよね。

西田さん:
引退の有無に関わらず、人生のなかで「どんな人に出会って、どんな言葉をもらえるか」って、今後を大きく左右しますよね。

新しいことを始めるときに、1人で感覚を掴んでうまくやっていける人もいますが、そうでなくても継続する力があれば誰でも上達はできます。加納さんも努力する力と継続力があったから、今活動が続けられている。でも、そこで誰かに教えてもらったりアドバイスをもらったりできると、たとえ遠回りをしたりやり方が間違ったりしても軌道修正出来るので、成長速度も上がりますよね。そう考えると、加納さんはいいタイミングでいい人に出会えたんだと思います。

──日本トップクラスの選手として活躍されていた加納さんの、「もっと早く引退していれば…と思うこともあった」という言葉がとても印象的でした。
第二の人生を歩み始めた加納さんのように、柔軟なキャリアチェンジや新たな挑戦が可能な、そして歓迎されるような世界を作っていきたいと感じるインタビューでした。


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