『アトペス』無料のミニゲーム集?の中に隠された、深い謎解きと「哲学」
ストアページの映像を見ると、STGやアクションなどミニゲームと思えるような簡素な映像が集められている。そこに書かれているゲームのジャンルは「哲学(シューティング他)」と全く意味が分からない、そもそもタイトルの意味も分からない。
その価格は無料。そんな手軽さと、奇妙な世界に触れてみたいという気持ちに負けて足を踏み入れる。
手軽で簡素?の中に隠された、深さと哲学
起動すると、まず『ウサギクロニクル』というタイトルの縦スクロールシューティングゲーム(以下STG)が始まる。
まるで子供が描いたような映像と簡素な音で構成され、操作はマウスだけでウサギを動かす、ショットはオート連射というシンプルなもの。
また、ゲーム中に突然「穏やかな世界観のハクスラ系STG」と意味不明な文章が出てくる。
そのストーリーは「ウサギがみんなと『おともだち』になるために腕試しだ」と、仲良くなるために戦うという、やはり若干意味不明だが、確かに「穏やかな世界観のハクスラ」だ。
その戦いにより「おともだち」になったキャラ達は、次のステージで一緒になって攻撃してくれる。更にシステムとして、1ステージにつき1日という時間があって日数ごとにパワーアップして30日が過ぎると戻されて…と、この部分が妙に凝っている。
しかも敵の攻撃は、弾が扇状に放たれる、波打ちながら飛ぶなどバリエーションに富んでいて、ゲームとしてはかなり作り込まれていることが分かる。
でも進めていくと、中盤辺りから異常なくらいの弾幕攻撃が来て、何度挑戦しても勝てない。難易度が高いというより、避けるのは不可能でSTGとして完全に破綻している。
そう、「STGとしては」ゲームになっていない。
ここでクリアするためのポイントは、妙に凝っているというシステム「日数が経過するごとにパワーアップ」、実はこれを利用すればいとも簡単にクリアできてしまう。
これは、わざとゲームとして破綻させることでクリアに導く、弾幕STGのようで真の姿は「どうすればクリアできるかを考える謎解き」だった(だから若干ネタバレを書くことになったが)。
第一印象は奇妙で意味不明、その中には作り込まれたシステムと謎解きがある。そのような手法でプレイヤーを「騙す」ことが、本作が見せる姿の一片だ。
その要領さえ掴めば、次々とステージをクリアできるようになるが、あるところで突然…。
「アトペス」とは何か?
あるところで突然ゲームが止まる、終了ではなく「停止」する。そして全く別の世界が始まる。
そこには、顔が隠された少女が現れ「この『ウサギクロニクル』いまいち」と語る。これはSTGではなく「STGをプレイした少女の物語」に過ぎなかった。
そして少女は次のゲーム、1画面パズルアクション、謎解き小説、タイピングで操作するRPGなどをプレイするが、『ウサギクロニクル』同様、小規模ながら作り込まれたものばかりで楽しませてくれる。
これは、少女を介して展開されるミニゲーム集?とも思えたが、その合間にコマンド選択式で会話が進行するノベルゲームのようなものが展開され、踏切の遮断機や意味不明なキャラクターが少女に語りかける。話の内容は、人の思想や行動、生き方のようなことなど。
あまりに次々と切り替わっていく異質な世界に戸惑う、しかも話の意味は正直掴めない。でも、そこから見えるものになぜか惹かれる。
その話で、私なりに感じた趣旨は、
なぜゲームを続ける?そして何を得る?
それがゲームのジャンル「哲学」の意味らしい。
その時点で私は、言われなくてもクリアまでゲームを続けるつもりだったが、キャラクター達が言うには「それが『アトペス』だ」ということらしい。
その『アトペス』とは何か?を知るまでがゲームの前半。それを知った後、数々のゲームが更なる展開を見せる後半が始まる。
その先には何があるのか?クリアすることで得るものは何か?その哲学で何を伝えようとしているのか?それを追い求め、到達するのか本作の目的と言えるだろう。
なぜゲームを続ける?そして何を得る?
私は数時間のプレイでゲームを全て終わらせた。その上での感想を書いていくが、注意事項。
※この先は若干のネタバレを含んでいるため、クリアしてから読んでいただくことをお勧めします。
本作で展開されるゲームの中で、タイピングRPG『さんぽ2.0』は、同じくSteam上で無料配信されている『散歩するキーボード使い』のリメイク。
このゲームに限らず、恐らくミニゲームの数々は本作のため用意したものではなく、制作者が過去にリリースもしくは未発表のゲームをここで復活させたと思われる。
そして本作は、ゲームの中の物語やキャラクターがプレイヤー自身に語りかけるなど、フィクションの世界が現実に介入する、いわゆる「メタフィクション」という手法の一つが用いられている。
ゲームでこのような描き方をするものとして『Undertale』『Stories Untold』『The Stanley Parable』などがある。
中でも、本作でゲーム内のファイルを操作することで進行していくスタイルは『OneShot』と酷似していたり、制作者は影響を受けたゲームの一つとして『SCE_2』を挙げていて、これもゲーム進行に同じ点が見られる。
このような手法を用いて描いた、本作のテーマと言えるものは「ゲームの主人公は誰か?」そして「ゲームをプレイする理由を問う」ことだ。
本作『アトペス』の主人公は、縦STGのウサギか?アクションパズルのスライムか?小説に出てくる少年達か?それとも、ゲームを遊んでいた少女か?
…全て違う。だがある意味、全て正解だ。
本作の主人公は「プレイヤー自身」、ゲームを最後までプレイした「私」だ。
「私」は、1つのゲームを何時間もかけてプレイし、謎解きを考えて試行錯誤して、何度も挫折しては挑戦し、クリアまで到達する。そこまでする理由はほとんどの場合「楽しみたいから」という自己満足のためでしかない。
そして「私」は、ゲームのストーリー上に存在せず、あくまでゲームを進行および鑑賞する存在に過ぎない、それも当たり前のことではある。
だが、本作はメタフィクションという手法を用いて、ゲーム中に登場する少女を介して「私」に何度も語りかける。そしてゲームの中で最も重要な役割として位置づけ、クリアすれば「ストーリーを作り上げ、結末に導いてくれた」ことを称えてくれる。
「私」は、なぜゲームを続ける?その答えが『アトペス』だった。
そして、クリアして何を得た?それは、少しだけ誇らしくなれる感覚だった。
最初から最後まで、プレイヤーを騙し続けながら少しずつ全貌を見せていくゲームだったが、おかげで、プレイ前に受けた印象とは全く想像つかない結末、そして想像できないほどの規模で作られていることが分かる。
様々な意味で大きく騙された、それを嬉しく思えるゲームだった。
Steamレビュー
この記事は、Steamで書いたレビューを元に修正を加えたものです。
追記・公式動画に掲載
この記事は、後に作者様がアップした『アトペス』紹介動画にある「紹介記事」の部分にも掲載されています。
この記事が、作者様と繋がるきっかけにもなりました。
本作で得たものもはゲームの中だけでなく、人との繋がりと、自分の文章に対する少しの自信でした。