ここは精神病院
ドクドクと血潮が滾る。それに俺は起こされた。
嫌な脂汗が張り付いた身体で、毎朝お決まりの言葉を唱える。
あぁ、今日も一日が始まってしまった。
ふと今は何時なのか気になったので、スマホを起動した。スマホは今がとうに午後の2時であると、俺に残酷な宣告をした。
憂鬱だ。しかし、なにかけったいな事情がある訳では無い。むしろ逆で、何も無いのだ。
より正確に言うなら、何もかも無くなったのだ。
元々俺は東京にあるN大学から、新卒採用でそこそこ大きな企業に就職できた。
それ自体は幸運だったのだが、それから先は幸運ではなかった。不運だった。
そこはいわゆるブラック企業と言うやつだったのだ。
初めのうちは、まぁ社会なんてこんな感じだと想像していたよと言う心境で仕事に挑めたが、やれどもやれども減らない仕事量や、辞めるなら三年は耐えろ、じゃなきゃあ社会じゃ通用しない、と言ってくる人間などに揉まれていたら、あっという間に心は壊れてしまった。
そうして俺はここにいる。
ここは精神病院だ。
ぬるりと身体をベッドから引き剥がし、パジャマ代わりに使っている病院着から私服へと着替える。
今日は久しぶりに外出をしようかと思う。
この病院の方針として、届け出さえ出せば自由に外出出来ることになっているらしい。
まァ、病室に引きこもっているよりはマシだと言う判断なのだろう。
紺のパーカーと黒いスウェットパンツを着たはいいものの、洒落た靴は一つも持ってきてはいなかったため、泣く泣く下駄箱にある白いクロックスを履いて外へ出た。
いやまぁ、こんな羽目になったのはちゃんとした靴を持ってこなかった俺が悪いのだが。
そうして向かった場所はコンビニ……もといローソンである。
コンビニはいい。娯楽も食材も、日常生活に必要な物があらかたある。
俺はチルドラーメンとLチキ、それからいくつかのビールと少年ジャンプを買い店を出た。
買ったものを両手に持ちながら病室へと帰る。
これが一番の至福の時間だ。
ブラック企業に勤めていた時も、これに癒されたんだっけ。
そんな事を考えていたら、気づいた時には六畳程の自身の部屋でクロックスを脱いでいた。
こうして俺はラーメンを食べてから、チキンをアテにしながらビールを飲み、その後にジャンプを読んだ。
今週のチェンソーマンも面白かったな。
そう思いながら、俺は眠りにつく。
時計は午後六時。
自堕落かもしれないが、これでいいのだと思いながら。
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「先日、都内のアパートで男性の遺体が発見されました。近隣の部屋の住民が、男性の部屋から異臭がすることを不審に思い、男性の部屋を尋ねた結果、遺体を発見したとのことです。専門家曰く遺体の状況から、死後半年は経過していると見られます。男性の部屋からは精神科医による診断書が発見されており、精神的な病を抱えていた可能性が高いと推測されています」
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