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失われたポルノを求めて

小生はいつからか侍になりたいと思うようになった。それもただの浮浪者じみた侍ではなく、男を磨いたすえにポルノをブックマークするような、そんな立派な侍になりたかった。そしてそれは、実際の現象として小生が体感することになった。それでは小生に起きた、小生が立派なポルノブックマーク侍になるまでの物語を、話していこうと思う。

その日は雨でトタンの屋根に雨の打ち付ける音が激しく響いており、小生はあてもなく自分の住まうスラム街の裏通りをのろのろとさまよっていた。その時小生は見たのだ。雨に濡れながら路肩にポツリと落ちている一本の刀を。小生はその刀の放つ強大な魔力に強く惹き付けられ、包み込まれるような気がした。気がつくと、小生の手の中にはその刀があった。刀を手に持ったとき小生は、それがポルノ怪人をブックマークしその力を使いこなすためのポルノブックマーク刀であることを瞬時に理解した。小生はその足で賞金狩人バウンディ・ハンター協会へと向かってライセンス登録をし、ポルノ怪人専門の賞金狩人となった。全ては世にはびこるポルノ怪人をブックマークし、平和をもたらす侍になるために。

賞金狩人のライセンス登録を終えてから3日後、小生はとあるポルノ怪人を殺す任務を任せられていた。それはスーツを着、頭がPの形に変形しているポルノ怪人だった。協会はやつを怪人Pと呼んでいた。なんでもやつはアイドルをプロデュースするという名目で健全な心を持つ女性を騙し、自身の性奴隷にしているという噂だ。そんなやつは許されざる社会悪だ。今すぐこのポルノブックマーク刀でやつをブックマークし、小生を侍とする礎になって貰わねばならない。そう思い、小生は怪人Pの待つ建物へと向かった。

その建物は芸能科が併設されてある高等学校であった。なんでも怪人Pはとある大学のアイドルプロデュース科という名前からしてふざけた学科を履修しており、やつが自分のインターン先としてこの学校を選んだらしい。そしてここで、やつは大量の罪なき女性を自らの愛玩動物としてはべらせているのだ。小生はそれが許せなかった。もちろん小生の中の道徳的なあれこれでもあるが、同時に、それは小生が童貞であることから来る嫉妬であった。嫉妬などというくだらなく醜い感情をおしのけろ、今は目の前のポルノ怪人をブックマークすることに集中しろ。そう自分に言い聞かせているうちに、小生の前には頭がPの形に変形している不気味な怪人が立っていた。

それからは一瞬だった。
「死にさらせっ!」
小生の叫びとともに刀は動き、Pを不細工な形のDへと加工した。やつは死ぬとわかった瞬間、コトネと叫んでいたが、あれは恐らくやつがはべらせていた女性のうちの一人だろう。
「終わりました」
そう賞金狩人協会に電話した小生は、協会職員が来るまでの間に、こっそりと怪人Pをブックマークした。初めての任務はこれで終わった。

前回の任務からちょうど1週間後の金曜の夜、息つく暇もなく新たな任務が小生の元に舞い込んだ。なんでも今度のポルノ怪人はかなりの強敵らしく、すでに5人が殉職しているそうだ。
そんな危険なポルノ怪人と小生とをタイマンさせることは上が許さなかったのか、小生は2人組でそのポルノ怪人と戦うことになった。そうして小生と共に戦う人間、つまりはバディを紹介されたのが昨日のことだったのだが、なんと小生のバディは、ポルノ怪人を追う賞金狩人なら知らぬ者はいない、あの大量殺戮ポルノ怪人『ロリコンポルノ抜刀斎』とプライベートでたまたま遭遇し殺されたと噂のあったスグルであった。なんでもスグルは体こそめちゃくちゃになっていたものの、脳みそだけは無事だったので、機械の体に脳みそを移植されたらしい。スグル本人にしちゃあ、嬉しいんだか、嬉しくないんだか。

そんな訳で小生は、見た目こそきちんとスーツを着ている10代後半の女ではあるが肌は生体ナノ繊維から作られたタイツで、中身はロボットじみた姿なやつと共に、今回ターゲットとするポルノ怪人、ラクガキマンの家の前に来ていた。やつの家からは妙にいやな気配がしたが、スグルの肉体はそういった情緒的機能がいくらか欠けているのか何も感じないと彼女は言っていた。

そんなことはとりあえず置いておき、小生らはラクガキマンの住まう家へと侵入した。小生がラクガキマンの家の床を踏んだ時、地面が少し揺れ、床板がぎしりと音を立てたような気がした。小生はこれになにかいやな予見じみたものを感じ、それをスグルに伝えようとした。ちょうどその時であった。床板がめりめりと言いながら裂け、中から三メートルに迫る大きさのニワトリが飛び出してきた。これはポルノ怪人ではない、ブックマークできない。小生の恐れを察知したのか、スグルは手のひらを変形させて銃口のようなものを生やし、ニワトリに向けて超高密度原子砲を放った。撃たれた不幸なニワトリは爆発し、たちまちあたりにニワトリの肉片が散らばった。

爆発により発生した煙が晴れてきた頃、小生の耳は拍手の音を聞いた。その方に目をやると、そこにはラクガキマンがいた。ラクガキマンは右腕を横に伸ばし、「10万使用」と言った。
ラクガキマンがそう言うと、彼の右手側には血のしたたる天使の輪が出現し、そこから不格好なレイピアのような剣が振り、逆手持ちになる形で剣の柄はラクガキマンの手の中に収まった。

そうするとラクガキマンは突如、意味のわからぬ奇声を上げ発狂しながらこちらに襲いかかってきた。こいつはポルノ怪人だ。ブックマークできる。そう思った小生は刀を抜き、腰炎流剣術を繰り出した。腰の炎のごとき刀の軌道がラクガキマンにあたり、やつは爆散した。まったく、やれやれだと思った小生はラクガキマンをブックマークし、ポルノブックマーク侍としてのステップアップは順調だなと思った。

小生らはそのあと賞金狩人協会に電話をし、それから繁華街へ出向き一杯やることにした。どちらからという訳でもなく自然とそうなったのだ。そうしてお互いが気持ちよく酔っ払った頃に店を後にし、それから変な色のネオンがぎらつく繁華街を夜鷹どもの下品な喘ぎ声を聞きながら、これまた変な色のネオンの看板が強く目に突き刺さるホテルへと入った。個室へと入ると急にスグルが服を脱ぎ出し全裸になった。普段の小生ならここで狼狽えていたのだろうが、その日は酒が入っていたためそういった感情の一切がなくなっていた。そうして気づいた時には小生らは交わり、深いオルガズムの海へと沈んでいたのであった。

小生はことの最中、脳みそが人間とはいえアンドロイドとするのはいかがなものかと思い、少し虚しくなってきていたのだが、スグルがそれを察知したのか「私が昔読んだ小説の主人公も、似たようなことで悩んでいたね、そういえば。でも気にする必要はないよ。私の人格はアンドロイドじゃなくって人間なんだから。それにこれ、結構いい身体でしょ?」と言ったので、それから迷いが吹っ切れ小生はスグルとの行為に集中できたのであった。

ちなみにこれが小生にとっての初めての女性経験だったのだが、ことを終えてから思うと、あの時から妙に自分に自信がついた気がするのだ。スグルには到底恩を返しても返しきれないなと小生は思った。

それからまた数日が経過した日のことであった。小生とスグルはあの夜からすっかり意気投合し、毎晩のように身体を交わらせていた。小生はもうすっかりスグルとの行為に夢中になっており、立派なポルノブックマーク侍になるという夢を忘れかけていたのだった。そんな時に小生とスグルの元に名指しで一つの依頼が舞い込んで来た。それはとある競馬場にいる、多数の馬との性交を試みた異常性癖者、つまりはポルノ怪人を、殺してほしいという依頼だった。

小生らはすぐに件のポルノ怪人のいる競馬場へと向かった。競馬場の中は微かに獣臭いにおいがした。だが小生は、この競馬場に違和感を感じた。ひとっこひとりいないのだ。競馬場の中を周るうちにその違和感はだんだんと現実の表層に浮かび上がってきていた。するとその時だ。通常観客は入れないはずの馬場へ通じる扉がなぜか開いていた。まるで小生らに来いと言っているようだ、とスグルに伝えると、彼女はそれよりも少し休憩しようよと言った。休憩というのは、小生らで取り決めた「行為」の隠語である。こうして小生らは多目的トイレに入り交わった。小生がスグルの中に入ると彼女は喘ぎ、小生が腰の炎を燃やすたびにそれは続いた。ある程度時間が経ったあと、小生らは共にオルガズムに達した。小生がスグルの中から出ると、スグルは小生の出した精液を処理し始めた。ひとつ言い忘れていたのだが、小生はスグルと交わるときには避妊具の一切を使用していない。機械は妊娠しないからだ。こうして戦いに備えてのウォーミング・アップを終えた小生らは、馬場へと入っていった。

そこには肉付きの良い2匹の黒い馬に戦車チャリオットを引かせている男がいた。やつが今回のターゲット、馬主だ。小生はやつの元に向かおうとしたが、「だめ、生身ではあまりにも危険すぎる」とスグルに言われたので、仕方なく小生はブックマークした力を使うことにした。「10万使用」そう言うと魔法少女モノのような装飾の着いたピストルが天使の輪から出現した。小生が馬主にピストルの狙いを定めた時、馬がヒヒンと鳴きこちらに向かってきた。それはとてつもない速さであったため、ピストルの狙いを定める所ではなくなった。
「30万使用!」そうすると天使の輪から無骨な長槍が出現した。小生が長槍を馬に投げると、それは戦車の右側の馬の右目に当たり、馬は苦悶の鳴き声を上げた。そして槍が思いのほか深く刺さったのか、馬はそのうちに鳴くことをやめた。それに怒ったのは馬主ではなく、もう1匹の馬であった。馬は怒りに身を任せ戦車を破壊し、呪詛の塊をこちらにぶつけんと襲いかかってきた。小生は言った。「100万使用!」そうするとおぞましさすら感じさせるほど巨大で美しい天使の輪が出現した。天使の輪の中にあったのは銀河であった。馬と戦車は銀河に吸い込まれ、そのあと天使の輪は消失した。その時だった。
「ふざけんじゃねぇぞ!」パンと乾いた銃声が響いた。銃弾は小生の脇腹に命中した。小生はそれから意識を失うまでのほんの少しの間に馬主をブックマークし、スグルに賞金狩人協会に電話をしろと言った。

小生が目を覚ました時には、小生は協会の医務室にいた。なんでも5日間ほど意識がなかったらしい。小生のベッドのそばに座るスグルがそう教えてくれたのだ。それから2日後に小生の具合はすっかり回復し、元の生活に戻ることになった。小生の退院を記念するのと、2人とも欲が溜まっていたのとで、その晩はいつにも増して盛りあったのであった。

そうして小生は戦いが終わったあとの余韻を数週間ばかり楽しんでいたのだが、その最中にひとつの問題が発生した。というのも、今までポルノ怪人を殺すことで得てきた賞金が、明らかにおかしい減り方をしていたのだ。詳細を述べると、今まで得た賞金の合計は537万だ。しかし、実際の小生の口座にあった金額は、397万だった。しかし記憶を辿ると、そこには思い当たる節があった。そう、ラクガキマンの能力をする際に使った金額の合計は140万。口座から消えた金額とぴったり一致するのだ。小生はこれに気づいたことで少しげんなりした。そのことをスグルに話すと、彼女は小生を優しく抱きしめ、それから小生とふたりでオルガズムの海を泳いだ。

なにはともあれその次の日、失った140万を得るべくポルノ怪人の賞金リストに目を通していると、小生の条件にぴったりのポルノ怪人がいた。そいつの名前は「提督」といい、賞金は210万だった。正直あまり見ない金額だ、強敵にはちがいない。しかし、失った140万を得るためにも、そしてポルノブックマーク侍としてのステップアップをするためにも、「提督」との戦いは小生にとって避けられない事情のように思えた。なので小生は「提督」との戦いを引き受ける旨をスグルに報告し、それから彼女とふたりで「提督」の任務を受けるための書類を協会に提出した。正直自分から任務を受けるのは初めてだったので、少しばかり緊張した。そうして小生はスグルと家に帰り、オルガズムを味わい、任務に向けての心の準備をした。

そうしてそれから5日後のことだ。小生とスグルは小型の船に乗り、この当たりの海域をうろつく艦船の元へと向かっていた。
「もしかしてあれか……?」小生がスグルに告げたその時、ドンという音がし、次の瞬間、船の近くに凄まじい高さの波ができた。あれが小生らの船に当たっていたら、今頃小生らは確実に死んでいたな。そう思いながら小生は、
「スグル、おれがやる」と言い、ポルノブックマーク刀を抜いた。「腰炎流剣術、四の舞!」小生がそう言うと、ポルノブックマーク刀から煌々とした炎が出現し、小生の腰にまとわりついた。そうして小生は海の上を走り、艦船へと飛び乗った。「提督」はどこだ?そう思った時、ふとかすかなギイという音とともに鉄製の戸が開くのを、小生の目は見過ごさなかった。小生はすぐさま扉の中に入った。細く薄暗い一本道をしばらく進むと、操舵室があった。しかし、その部屋はひとことで言うならいようであった。操舵室の中央には舵ではなく不気味な機械があり、そこに今回のターゲットである「提督」が素っ裸で座っており、自らの珍棒を通じてその不気味な機械と接続していた。小生はその光景からすぐにでも逃れたかったため、そそくさと「提督」の首を切り、協会に電話をした。

それから3日後、小生の口座には210万が振り込まれており、小生は達成感を得たのだが、それと同時に心に引っかかるものもあったのだ。そう、今回の敵は賞金のわりに弱かったことだ。おそらくやつの強みは、やつ自身ではなく、あの機械の強さなのだろう。
しかし、順当に考えると、普通の賞金狩人ならあの艦船に乗り込む前に死んでいるのが常なのだろう。つまりは小生は強くなっているのだ。

だが、小生はそれを素直には喜べなかった。
小生は本当にポルノブックマーク侍としてのステップアップを出来ているのだろうか?しかしこうして結果に出ているのなら、ある程度は出来ているのだろう。しかし、しかし……。

こうしたどうしようもない悩みが日中の小生を支配し、夜になればスグルと交わりオルガズムの海を泳ぐというのがここ最近の小生の生活だ。

小生は今、本当に幸せなのだろうか?

童貞のころに、1人でツイッターやピクシブのポルノをブックマークしていた頃の方が、よっぽど幸せだったのではないか?

しかし、今の小生の手元にある、あの時珍棒を勃起させたポルノは、もうすっかり効果をなくしていた。スグルを経験してからというもの、すっかり絵の女性に珍棒が勃起しなくなってしまったのだ。

ツイッターを開き、ブックマーク欄を眺める。ここにあるものも、小生にとっては不要なのかもしれない。そう思い、「ブックマークを全て削除」を押した。小生が数年に渡り集めた全てのポルノが消えた。

「あっ」

激しい後悔と憂鬱が小生を襲い、嗚咽が湧き出たが、もうブックマークにポルノはない。

小生がどれだけ、失われたポルノを求めても……。

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