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どうして英語ってこんなに難しいの?: (15) Xの不思議

前回のQに続いて、今回の文字はXエクス

アルファベットの最後から二つ目の文字で、数学の代数学の未知数の記号に用いられることもあり、xとは未知の価値を言い表す、謎を仄めかす文字。

紙製の英語の辞書を開くと、Xの項目は極めて薄い。

Xを最初の文字として始まる英単語は、大抵の辞書でほとんど一ページに収まってしまう。アルファベットの中で最も数が少ない。日常語として使用されるXで始まる単語は次の二つくらい。

英語圏の子供がアルファベットを覚えるための教材には、それぞれのアルファベットを代表する単語が一字ずつ選ばれるけれども、Xは間違いなく、レントゲン写真の放射線であるX-ray であるか、子供が人生最初の楽器として接することが多いおもちゃの鉄琴のXylophone

でもこのXという文字、なかなか発音が難しい。日本語のローマ字には、この子音は必要とされないので、我々には馴染みが薄い。

Xを発音記号表記すると éks。アクセントのおかれた母音に子音二つが連結するという音。

Xの発音

さて、ここから例を挙げて解説してみましょう。文体を「ですます」調に改めます。

発音の法則としては、Xに続く母音にアクセントが置かれると、本来の[ks]の音が[gz]に変化するのです。

Xのエクスがエグスになると言えばわかりやすいでしょうか?

アクセントが続く母音につかない場合は、エクスのまま。

エクスの母音のエは連結すると、欠落します。アクセントがないとなくなってしまうのが、英語の母音の特徴。アクセントがないと、Shwaシュワという無声母音になり、聞こえなくなるか極めて弱くなるのです。

だからエがどうしても必要な時にはEの文字を足して、ExとしてXを使うのが通例です。

Xという文字で始まる英単語は極めて少ないのですが、「否定」や「外へ出る」という意味を言い表す接頭辞 Exの一部として、Xという文字は英語において頻出します。

Exで始まる言葉は数えきれないくらいにありますよね。

XにEがつかなくても、例えば、Experienceという単語は、「Xprience」としても発声に不備をもたらさないようなのですが、Xで始まる言葉を多用するという選択肢を英語という言語が選ばなかったことには深い意味があるのかもしれません。

Xは、しばしばChristの省略形として用いられます。Xmasは「Christmas」。やはり、キリスト教の影響なのでしょうか。

濁る?濁らない?

例えば、子音が濁るか濁らないかは、次の言葉が理解しやすい。

exhibit (Xの子音が濁る) vs. exhibition (Xの子音は濁らない)

無音のHを伴う場合、Exhaustでは長母音のAuにアクセントが来るので、音が濁ります。

Exhibitでは、続くiにアクセント、イグビットかエクビットみたいな音になります。でも名詞化すると(Exhibition、カタカナのエクシビション)、アクセントの位置が後ろに移行して、最初のiにはアクセントがなくなり、エクサションのように、Xは無声化するのです。

これがXの発音の基本形です。

Xで始まる単語の場合は、木琴のXylophoneの音をカタカナ表記すると、ザイロフォンという具合にアクセントの有無に関わらず、音が濁ります。zの音として読まれるのです。

Xと母音

X+A

先日亡くなられたオリヴィア・ニュートン=ジョンの代表曲「Xanadu」 は、ザナドゥと発音されます。

Xで始まる数少ない言葉の一つ。

Xanaduとは桃源郷という意味で、エデンの園のような楽園のこと。

わたしはこの言葉を、1980年代にゲーム会社の日本ファルコムのPCコンピューターゲームから学びました。ドット絵の古い時代のゲームです。

わたしは遊んだことはありませんでしたが、こうした難しい言葉に出会わせてくれたことに感謝です。

Kubla Khanという英詩人サミュエル・コールリッジの有名な詩(1797)に、この言葉が使われていることを後年学びましたが、この難しい言葉を最初から知っていたことはとてもよかったです。

ザナドゥにクーブラ・カーンは
壮麗な歓楽宮の造営を命じた。

そこから聖なる河アルフが、いくつもの
人間には測り知れぬ洞窟をくぐって

日の当たらぬ海まで流れていた。

そういうわけで五マイル四方の肥沃な土地に
城壁や小塔が帯のようにめぐらされた。

あちらにはきらきらと小川のうねる庭園があり、

たくさんの香わしい木々が花を咲かせていた。

こちらには千古の丘とともに年を経た森が続き、

そこかしこに日の当たる緑の空地を囲んでいた。
http://dac.gijodai.ac.jp/studioM/deapa/poem_cole01.htm

これはモンゴル帝国のフビライハンの栄華を謳った詩です。力強いリズムと英語らしさに溢れる音の饗宴といった趣のコールリッジの傑作ですね。

A vision in a Dream という副題がつけられているように、非現実な夢の世界の情景。伝説のモンゴルの世界覇者の住んでいる世界を夢で見たという詩。類まれなる想像力から生まれた世界です。

こういう世界がザナドゥ。Xという文字が非現実で非日常な感じを醸しだすのです。

英語初心者だった中学生のわたしは、Xanadu/ˈzɑ:nʌˌdu:/が「クサナドゥ」または「イクサナドゥ」と発音されないのが非論理的であると、その昔、英語発音の複雑さに対して憤慨した覚えがあります。

戦国時代の日本にカソリックのキリスト教をもたらした、イエズス会のフランシスコ・ザビエル(スペイン人)の名前は、Xavierと綴られますが、発音は極めて複雑です。

スペイン圏で多い名前なので、スペイン式やフランス式だとカタカナで書くとシャビエルやシャビエ、シャリエという感じ。でも英語だとザヴィエールZavierですね。Xで始まる単語は音が濁るがルール。

モーツァルト二世の本名はフランツク・サーヴァー Franz Xaverといいますが、英語読みだと、クサーヴァーはゼイヴァーですね。

X+I

X+Iでよく使われる言葉には、次のような言葉があります。

Exit、Exist、 Existence、Existentialism

Exitのアクセントは冒頭なので、Xiにはアクセントがないのに、音が濁ります。例外でしょうか。

また、ToxicやAnxiousなどもあります。形容詞のxiousという語尾を作るのにしばしば使われますが、xに続く部分にはアクセントはないので、音は濁らないのです。

Anxious以外では、ObnoxiousやNoxiousくらいしか頻繁には使いませんが。

X+U

Xuは発音がなかなかややこしい。

わたしの好きな言葉であるExuberantは、カタカナではイグズーブラントみたいに書けますが、Exultの場合はイグザルト(酷いカタカナ表記、お許しください)。わたしはいつでもExuberantでいたいです。

これらの場合は、Xが難しいというよりも、母音のUの発音が難しいのですが。

Exultは派生語のexultantやexultationという言葉と共に、聖書によく出てくる言葉。

十六歳のモーツァルトの書いた大傑作アリア、Exsultate, Jubilate K.165は、英語ではRejoice, Be joyful などと訳されますが、わたしはこのラテン語 Exsultateは、Exultという直訳の方が音が通じ合うので、こちらを好みます。RejoiceとExultは同義語です。

XUで発音要注意なのは、luxuous。ノルマン人の移住と共にイギリスにもたらされた、古フランス語起源の言葉。

luxury にはラグジュアリーなんてカタカナ語が日本語にはあるので、音が濁ることが理解できますが、アクセントは前の音節にあり、Xの後にはなく、本来は濁らないのに、この語だけは濁るのです。

なぜ?と考えるとますますわからなくなりますか、じつはこれはアメリカ式で、イギリス式では法則そのままに濁りません。

わたしはラクシュアリー (酷いカタカナ笑)と濁らせずに発音しています。

Flexure (たわみ、屈折)では、アメリカ語でもXは濁りません。

Luxusというラテン語がExcess(余剰)という意味で、そこから贅沢やたわみという言葉が生まれたのです。

X+E

xeric (毒性のある)という言葉や、xenophobia (外国嫌い)という言葉が、XEとしてはよく知られています。

ルール通りに「ゼ」という音に濁ります。

exでは、executeやexemptなど、たくさんありますね。

X+O

XOは数は多くなくとも、Exodusは聖書のモーゼによる「出エジプト記」を始めとする民族大移動などといった表現を通じてよく使われます。

Exotic(カタカナでエギゾチック)な表現ですね。

この山椒魚をご存知でしょうか?

https://www.nationalgeographic.com/animals/amphibians/facts/axolotl

Axolotlと書いて、日本語のカタカナではアホロートル、またはウーパールーパーとも知られるメキシコ山椒魚。

原産地のスペイン語(メキシコ)由来の名前ですが、英語だと全く違います。

アクセントがないので濁らずに、無理矢理カタカナで書くとアクサロトー(ル)。

難しい単語で、発音できない人も英語ネイティブにも多いのでは。

Xという文字は、セルバンテスの小説「ドン・キホーテ」のQuixoteなどで知られるように、スペイン語により多く使われる印象があります。

スペイン語のXは、英語には存在しない喉の奥から出すHに似た音です。

Quixotic という単語がありますが、セルバンテスの騎士ドンキホーテように空想的という意味の英単語。

You are quixotic って言われるようならば、残念ながら誉め言葉ではないですね(笑)。

カタカナで無理矢理書くと、クウィサティックという感じで、XoはSoの音におきかえられるのです。アクセントがここにあるので、クイザティックとなるべきところなのですが、オリジナルのキホーテというスペイン語の音を引きずり、このように変化したのでしょう。

X+子音

ここまで見たように、母音と結びつくと、Xの音は様々な音に変化しますが、exchangeのように、Xが子音に連結する場合は、そのままエクスの音素を変化させずに濁らないのです。大抵はEx+のパターンなのでわかりやすい。イクスというカタカナ表記がより英語の音に近いですね。

接頭辞のExもまた調べると面白いですが、英語ではよくExという独立した単語で使われることが最近は多いのです。

My ex once said that blah blah blah... 

Exで元妻や元カレという意味。Ex-wife, Ex-husband, Ex-boyfriend, Ex-girlfriendなど、どれもイクスと呼ばれます。日常語です。

Textと言う言葉は、語尾や接頭辞以外で単語中にxが使用される数少ない例かも。ラテン語起源ですね。

語尾のX

xは単語の語尾にもよく見かけます。Six, Sex, Sax, Fax, Ox, Ax, Box, Fox, Fix, Index, Appendixなど。

この場合も音は濁らない。

他にもありそうですが、とりあえずここまで。

わたしには、QとXの二文字がもっとも興味深いアルファベットなのです。

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