どうして英語ってこんなに難しいの?: (2)シラブルの話
英語よりも日本語の方がずっと難しいと、多くの言語学者さんは言われます。
世界言語と比較してみると、確かに日本語は非常に複雑です。
前回 Heteronymのお話をしましたが、日本語の漢字は同綴り異音異議語だらけ(訓読み+音読み=漢音、呉音など)。敬語や言い回しの言い換えも数限りなくあります。英語などホントに単純なものです。
中国語は基本的に一つの漢字に定型の一音だけを発音するので、Heteronymはほとんど存在しませんが、同じ音が違う意味を意味することは無数にあります。Homonymですね。
でも書き言葉を見る限りでは、単語一つで一音節なので、中国語はわかりやすい。英語は逆に書き言葉はややこしいけど、音で聞いて間違えることはあまりないようです。
読みに関しては、中国語よりも日本語の方が圧倒的に難しい(発音の場合は中国が圧倒的に難しい)。
英語の場合は名詞化したものと動詞化したものに大きな違いがみられます。音は全然違っても同じ綴りなわけです。書かれた単語が同じに思えても、例えば、Researchという言葉
の二字は全く別の言葉。音素には共通項はありますが、英語的には全然違うというべきです。
何が違うかというと、使用方法が変わって品詞が変化することで、アクセントの位置が移動するのです。
上の画像では Present。
動詞と名詞ではアクセントの位置が移動することで、アクセントの前後の母音も変化します。
アクセントがあるからこそ、名詞なのか動詞なのかを明確に聴き分けることができるのです。アクセントが変な位置にあると、ネイティブの方は混乱します。だから下手な英語話者の英語は、アクセントが可笑しいと言われるのです。
以下に例示した、こういう言葉たち、ややこしいと思います。
名詞化動詞化により、アクセントの移動する単語
Increase (増加)Increase(増える)
Research(リサーチ)Research(調べる・リサーチする)
Desert(砂漠)Desert(見捨てる)
Produce(製品)Produce(造り出す)
Intimate (親友・非常に親しい)Intimate(暗示する・ほのめかす)
Invalid(病人・病弱な)Invalid (無効な)
Refuse(廃棄物)Refuse(拒絶する)
Present(現代・贈り物)Present(差し出す)
Object(対象) Object(反対する)
Subject(主題、家来)Subject(従う)
Project(プロジェクト・企画)Project(企画する・投影する)
などなど。
基本的に、名詞は第一音節にアクセント、動詞化すると第二音節になります。
もちろん、このルール通りに変化しない不規則な単語もかなりあるのです。Interest(名詞:利子・興味)は動詞化しても(受身形で)Be interested in(興味がある)でアクセントは第一音節のまま。
アメリカ英語ではInterestinglyと副詞ではアクセントは規則通り移動します。
しかしながら、イギリス英語では名詞や動詞同様に第一音節のまま。
アクセントが変わることで、母音がストレスのない音(シュワ Schwa)となったりします。
英語には12個の母音が存在して、7つの長母音(二つの母音が一音として発声されるもの)があるのです。長母音は日本人にはそれほど難しくなさそうですが、基本の12の母音は難しい。
日本人は訓練しないと(幼児の頃に英語耳と英語舌を育てていない限り)絶対に発音できません。
でも日本人でも、当然ながら、最低5つは母音を発音できます。
日本語のアは、Fatherの A。
日本語のイは、長いIやYの音。Skiの I。いわゆるLong I。ちなみに日本人はこのイの音を少し口をすぼめて弱く発音するだけでShort Iを発声することで、カタカナ英語を画期的にネイティブっぽくしゃべることができます。ぜひ試してみてください。It is を「イティイズ」ではなく、無理やりカタカナにすれば、「ィティィズ」という感じです。Ifもイフではなく、「ィフ」にするだけでもだいぶん違って聞こえます。
日本語のウは、短い「ウ」は同じでしょうか。Good のooは弱い音。延びる音「ウー」だと少し唇を前に突き出して口をすぼめるMoonのooでしょうか。が似ています。
日本語のエと英語のエもだいぶん違いますね。Egg の E も日本語よりも口がすぼんでいるでしょうか。Essay という言葉もエッセイと和製英語になっていますが、冒頭のエの音を弱めると、よりネイティブっぽい英語になります。ストレスのない母音 Schwa は、エとアとイの中間のような感じ。イギリス英語のEnableの頭のEの音は「エ」ですが、やはり日本語よりも弱めの「エ」。「ア」に近い音にすると、Unable と間違われてしまいます。もう慣れるしかないですね。
日本語のオは、Open のOなど、ストレスが落ちる部分の音では日本語そのままでもカタカナには聞こえないですね。でもやはりストレスのない母音Schwaはオにも聞こえなくもない。Old のOは二重母音でオウですね。
大雑把な解説ですが、ストレスとアクセントに応じて、弱い母音と強い母音があると理解するだけでも、ネイティブのように英語を喋りたいと言われる方には、カタカナ英語からの脱却の糸口になります。
また弱音化することで完全に母音がなくなっていまい、子音だけの音に聞こえることもよくあります。
英語とは、アクセントのある音節とアクセントのない音節の組み合わせ
さて、ようやく本題です。
英語を今現在勉強されている方には「釈迦に説法」かもしれませんが、英語をカタカナ表記するのが無理なのは、英語発音の音の長さがどれも異なるからですね。
日本語は基本的に次のようにできています。
ですが、英語は母音だけの音節や子音+母音の音節もありますが、基本は、
という形。
英単語は強い音節(強勢・アクセント)と弱い音節から成るので、母音も強勢(アクセント)を帯びるか帯びないかで、長さが変わります。
これがわかるだけで、英語の発音はものすごく上達します。
英語とは、徹頭徹尾、音節=シラブル Syllable の言葉なのです。
音節の切り方、どの部分で切るかを理解できれば英語の自然なリズムをつかみやすくなります。
音節を理解するのに、これは「目から鱗」だと思ったサイトはこちら。
このサイトで、チョコレートChocolateという言葉、日本語ならば
チョコ+レート
としてしまいますが、実は無理やりカタカナにすれば、チョク・オ・レートゥ。Chocoは、Choc+O。子音+母音+子音なのです。
この読み方を全ての英単語に使ってみると、今までなかなか通じなかった英単語が通じやすくなります。
チョク(母音なしで)と発声して、微妙に発音に抵抗を持たせてオを発してレートの最期の部分のオを切ってしまう。英語のチョコレートは二音節ではなく、三音節。これだけで英語発音の日本語的発音脱却も夢じゃない(とわたしは思います)。
日本人らしい英語になりがちな、「ボランティア」という日本語にもなっている Volunteer。この英単語は「Vol + un + teer」となります。voLとUnを別々の音節の音として発することで、あなたの言葉は非常に英語的になります。Uは弱音化して、はっきり言って聞こえないですね。
VもLも訓練しないと日本人には発声できない音ですが、チョコレート同様に、こういう音節の理解がないと絶対に通じない音です。
Voluntarilyという言葉も、Vol+un+tar+i+lyと分解できます。Lにはアクセントを付けないのがネイティブらしい音。
でも
という素朴な疑問が湧いてきますよね。
もちろん初心者は、辞書を一字一字丁寧に調べることも大切。
いや上級者だって、英語が外国語ならば、死ぬまで辞書は引き続けるべき。
でも割と音節を簡単に理解できる、わたしのお勧めの方法は、語彙を増やすテクニックである、接頭語や接尾語や語幹を理解することです。
英語語彙の増やし方
英語の接頭語や接尾語や語幹は、たいていの場合、ラテン語やギリシア語由来。
ですので、もともとの意味が理解できると、英語は格段に面白くもなります。英語は接頭語などを知ると、簡単にバラバラに分解できてしまうし、また分解したつなぎの部分でリズムが変わります。
Reは「もう一度」という意味。
そして、Reはこの意味で使われるときには必ず一音節。
上で少し見たPresentも、Pre+sent と Pre+sent。Preはもちろん「前に」という意味。Sentは送ると同義なので、前に出すから差し出すで、相手に差し出されたものはプレゼント。
Researchは、Re+Searchという言葉。名詞ならば Re+Search、動詞ならば Re+Search となるのです。
Refuseも、Re-fuse。-fuseはPresentの-sentとは違い、相手に無理やり返すという感じ (pour=吹き出すという英語と同じ)。
なので別の接頭語を繋ぐと、
という言葉も作れます。接頭語の意味が分かれば、大体どんな単語なのかを類推できます。どの単語も音節は -fuseの前で切れます。この音節の切れ目に従って発音すると、英語が本当に英語らしく聞こえるのです。
中学生でもよく知っている「Re」は、Return, Rehabilitation, Reunion, Record, Reward, Resurrection などがありますね。
最初のReで音節が切れます。アクセントがそこに乗るか乗らないかで、Reの母音eの発音もシュワという曖昧母音になるか、どうかも決まります。
でも、Reason(理由)は Rea+Son、Rectangle(四角形)はRec+tan+gle。意味もそれなりに理解していないと音節分解は難しい。
そもそも英語という言語には例外が多すぎるのが問題ですね。
英語は、強勢と弱勢の音素のつながりでできているゲルマン語の仲間なのですが、グリムの法則と呼ばれる、「アクセントは第一音節に」というドイツ語やデンマーク語などで適応されるルールがうまく通用しない不思議な言葉。
歴史的にフランス語の影響などもあったからですが、その意味でも英語は難しいですね。歴史の話はまた次回。接頭語や接尾語、語幹の話も長くなるので、またその次に。
でも、それでも、接頭語や接尾語を知っていると、圧倒的に音節分解は容易になります。
映画「メリーポピンズ」から
さて、以上のように、音節をバラバラにすると、学ぶ前には絶対に発音できないとしか思えなかった凄い言葉も発音できるようになります。
次の単語、ご存知でしょうか?
ジュリー・アンドリュース主演のアメリカ映画「Mary Poppins」に1964年に登場して以来、大人気で、現在では大きな英語辞書には載っているほど。
この長い言葉も、音節で区切ると発音できてしまいます。
でもこれでも、まだ難しい。英語は非常にリズミカルで音楽的な言語。
だから楽譜にするとわかりやすい(楽譜の音符が読めなくても、リズムは理解できますよね)
という具合に分解して、劇中のメリーポピンズに扮したジュリー・アンドリュースは歌っています。
これが英語の喋り方の秘密。英語のリズムとは何かと問われると、わたしは必ずこの歌を例に出すことにしています。
さて字幕付きの動画。いかがでしょうか?
歌の中では逆さま読み(Backwords)も出てきます。
これも分解すると、どうなるでしょう?
これでいいでしょうか?(笑)
造語ですので、別に発音できなくても、生活には困りもしませんが、英語の言葉遊びとしては最高ですね。英語は音節でできているの最高例の一つだと思います。
A supercalifragilisticexpialidocious day!
シラブルのお話でした。あまり語幹(接頭語、接尾語など)とシラブル
を同じ文脈で語る人はいないと思うので、お役に立てれば幸いです。
語幹で単語をバラバラにして、ストレスとアクセントをつけて英語を話すと、きっとわかりやすい英語になるはずですよ。
意識しているか、していないか。
それだけで言葉というものは理解されやすくなりますよ。
supercalifragilisticexpialidocious の意味は、素晴らしいとか、凄いとかそういう意味。ですので、英会話のお別れの場面で Have a good day! というフレーズをしばしば用いるのですが、
Have a nice day!
Have a great day!
Have a fabulous day!
Have a fab day!
なんて言い方の最上級な言い方として、
なんて洒落ていますよね。
今日は金曜日です。
ですので、こういうのはいかがでしょうか?
スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス(?) な週末をお過ごしください!