どうして英語ってこんなに難しいの?: (21) 世界中の言語は三種類に分類される
英語は難しい、日本語を母語とする人には。
英語の難しさはつまり「条件的」。
問題は英語と日本語が違いすぎること。
誰にでも難しいわけではないけれども、日本語しか話せない人には格別難しい。英語を深く知れば知るほどそう思うのです。
英語と同類の言語体系に属する母語を喋る人には、英語は日本人が苦労するほどには難しくはない。
ああ不公平ですね。彼らにも彼らなりの難しさを感じても、たかが知れたもの。
例えば、知り合いにオランダ人がいるのだけれども、Vの音をいつでもFの音で代用して喋る。
Videoは彼の発音ではFideoになるのです。何年英語の国に住んでいても変わらない。発音矯正を専門的に学習したことがないからです。
でも彼の英語は長年英語を喋ってきた人の英語よりも実用性において優れていて、相手に通じます。どんなになまっていても。
英語のリズムとオランダ語のリズムは似通っているからです。
英語もオランダ語もジャーマニック(ゲルマニック)言語の仲間なので、お互いの言葉は遠い方言のようなもの。
日本人が本格的な発音矯正を受けないで英語を喋ると、英語話者はアクセントが強すぎて理解に苦しみます。日本語訛りの英語は平板すぎるので、強いアクセントと弱いアクセントの音のうねりの交代によってできている英語のようには聞こえないのです。
でもオランダ人の英語は英語のリズムに似たリズムを母国語が持っているので、英語特有のリズムを生まれながらに体得しているといえるでしょう。
例えば、次のような早口言葉を話すとすると
オランダ人はきっとこう発音してしまう
おかしな英語。でも全ての単語に強弱のアクセントがきちんとつけられているならば、通じるのです。
Fの発音の呼気もほとんど英語と同じなので発音的にはおかしくても、リズムが正しいので、日本人のアクセントが平板なカタカナ英語よりも通じてしまうのです。
日本人ならば平べったくVをBにして発音してしまう。VをBにしても通じないことはない。
でも英語の強弱アクセントが曖昧だと、まず通じない。
というわけで、今回は言語学の話です。
世界言語を三種類に分けてみる
英語の音は日本語の音とは全く違う。同じ音のようでも発声が対分違う。RやLが発音できない。Thもできないなんてよく知られていますが、そういう個々の音の発生以前に大問題となるのはリズムの違い。
日本語にもリズムはあり、イントネーションを工夫して真似すれば、だれでも英語っぽくしゃべれます。
でもリズム以前に英語と日本語は爬虫類と哺乳類くらいに違う。
そこで何が英語と日本語をそれほどに隔てるかという分析に役立つ考え方が、Isochronyという考え方。
日本語では「等時性」と訳されるそうです。
等時性よりも無理やりカタカナで書いて「アイソクロニー」として語ります。
Chro-の間に母音を入れないで一気にChとRをつないで発音する子音連結ができると英語発音上級者。Rは引き舌でも巻き舌でもどちらでもいいですね。
アイソクロニーは音の均等感とも訳せますね。
つまり音素がどんな風にお互いの音と隣り合っているかという点に着目して世界の言語を比較してみるのです。問題となるのは、音素の長さ。
世界の言語はそれぞれにユニーク。RやThの発音の難しさの問題は言語の色合いの問題といえますが(オランダ語と英語の違い)、音の長さに目を向けると、オランダ語、ドイツ語、デンマーク語、スウェーデン語などは英語と全く種類の言葉。
さらにはあの難解そうなアラビア語も同じ種類。
三種類のアイソクロニー
世界言語を分類すると、次の三種類に分けることができます。一つずつ見てゆきましょう。
Syllable-timed(シラブル型)
このタイプは発音される音の長さがすべて均一なタイプです。
北京語(標準中国語)は4つの声調があり、音が上がったり下がったり平べったく高めや低めに音が伸びたりしますが、どんな声調であっても、それぞれの音素、音の長さはいつでも同じです。
こういう音素が均一なタイプの言語には韓国語やトルコ語、フランス語やスペイン語イタリア語を含めたラテン言語はみなこのシラブルタイミングに含まれます。
早口で喋るとマシンガンのように響きます。ガガガガガガと全て均等な音の長さ。
イタリア語は母音が豊かで美しい言葉ですが、早口のイタリア語は全然音楽的ではなく、もうマシンガンそのものといった音でした。上がり下がりのない均等な音がラテン系の特徴。でも音の長さは全て均等均一。
マカローニ、スパゲッティ、ピッツァのようにイタリア語は最後の音節の前が伸びたり撥ねたりしますが、マカ・ロ・ニやスパ・ゲ・ティが基本形です。伸びる音の含まれるイタリア語は次にあげるモーラ型の要素が入っていますね。
あいうえおの母音と子音で出来ている日本語はシラブルタイプなようでいて、実は違いますが、日本人はスペイン語を喋ると英語相手よりも上手に喋れることが多かったりする。それはこのシラブルタイプには日本人が最も苦手とする強い弱いのストレスがないからです。
Mora-timed(モーラ型)
さて次はモーラタイプ。
モーラとは拍と訳されます。
音楽の音符に似ていますね。音楽では四分音符と二分音符では長さ(音素の幅)は違いますが、このタイプの言語では、二分音符は本来は四分音符二個の長さを持ちますが、音素として一つずつととらえます。
音楽の比喩は分かりにくいので、やはり日本語を使いましょう。そうなのです。日本語は世界的に珍しい、このモーラタイプの言語。
音楽・おんがく=On/gakuと言う言葉は、平仮名では四音、つまり音素は4つ、でもモーラ(拍=この場合は漢字の長さ)は2つなのです。
音という字は漢字としては一文字。でも中にある音=ひらがなは二文字。
つまり漢字平仮名を併用する日本語は、大変に特殊な発音体系を持つのです。我々には当たり前すぎて気づいていませんが、日本語は大変にユニークな言語なのです。
島国で独自に発達したガラパゴスな言語でしょうか。
「同姓同名」という四文字熟語は、4つのモーラ(拍)、でも音素としては「どう・せい・どう・めい」で8つ。「どう」で一音節。でも中には二つの音素「ど」と「う」があるのです。上のシラブル型ではこうはなりません。
最初のシラブルタイプはレゴで表現するとこんな感じ
音の長さにおいてはみんな同じなので、みんな同じレゴのブロックピースといえますね。色違いでも構いません。突起部分の数が同じである限り。
この場合は2x2の突起4つのピースならばみんな仲間です。
日本語のモーラタイプはサイズの違うレゴが混じっている
でもここに7つのレゴがあり、音節は実際は9つだとしても、緑の長いレゴは黄色いレゴに二つに分けることはできないのです。これをモーラというのです。2x2も一つ、2x4も一つ。含まれる音素はそれぞれ違ってもブロックとしては一つでそれが音節。
母音と子音が組み合わさって最小単位の音節ができていることが特徴の日本語。音節は漢字のまとまりをもつことで拍が作られるのです。「きっと」などの小さな「つ」も「き」と引っ付いて一拍となり1モーラ。
子音だけの場合は「ん」だけですね。これも1モーラ。
母音のない子音だけの音が連なることで知られるスラヴ系モラヴィアの言葉もこの種類なのだとか。
でもスラヴ語は子音+子音+子音なんて音がほとんどで、子音+母音が基本の日本語とはだいぶん響きが違いますが、アイソクロニー的には同じ言語の仲間だそうです。
日本語の音は
という49音なのですが、この音の羅列を意味ある言葉として発声すると
となります。七字と五字の音でもモーラ的には5x8=40となります。
日本語は音節が均一の長さを持たない、でもシラブル型と同じく、アクセントは存在しないと覚えておきましょう。
Stress-timed(ストレス型)
さてようやく英語のストレス型です。
英語はフランス語の平べったさとも日本語の平べったさとも全く異なる言語です。
英語話者がフランス語を喋るとなかなかアクセントを付けずには喋れないのは、このアクセントという曲者のためです。
英語ラップはカッコいいけど、日本語ラップはダサいとしばしば指摘されますが、それも当然です(日本語ラップファンの皆様、ごめんなさい)。
ラップはアクセントをつけた口語を音楽のリズムに乗せた音楽で、英語には自然なビート音楽的アクセントが存在しますが、日本語にはそんなアクセントは備わっていないので、日本語ではまともな英語的なラップは歌えないのです。
日本語ラップ歌手は日本語を英語的になまらせて歌うのが普通。日本語のリズムは57577が最も美しく、1,2,3,4,とか1an'2an'3an'4an'みたいに裏拍を取ったりするのは難しい。
日本語ラップでも時には良いものもありますが、日本語には限界があり、英語には及ばないと思わざるを得ない、でもこのトヨタドラえもんCM好きですね(笑)。自然な日本語でしょうか。
さてストレスタイプの英語の特徴は次のようなレゴで表現できます。
こんな単語があるとします。
という勝手に作った言葉。シラブル型やモーラ型の発声方法では全ての音が均等にラ・タ・タと平べったくなります。全ての音が均一でアクセントは付けません。
でも英語式だと、全ての単語の音節のどこかに強いアクセントを付けないといけません。この場合は音が三つなので、レゴで表現するとこんな感じになります。
アクセントが最初の音にあると
真ん中にアクセントがあると
アクセントが最後の音にあると
このように、大きなピースと小さなピースが組み合わさって一語になるのです。アクセントがどこに来るか、英語の場合は規則性がほとんどないのが難しい。ドイツ語ならば大抵最初の部分なのだけれども。
英語の不規則性はよく言われることですが、歴史的にいろんな言語がまじりあって出来上がったために、統一感がないのです。
よくEnglish is a bastard languageなどといわれます。
Bastardは私生児という意味。古いノルマン語とヴァイキングのディーン人の言葉とゲルマン語とフランス語がまじりあってできたので、もう法則性が皆無。
でも強烈なアクセント=強勢をある音節に与えて他の音節を弱めることで(弱拍の母音はほとんどなくなってしまう)、どんな言葉にも英語らしさを持たせることができるのです。
子音は消えない、でもアクセントのない母音は消えてしまう。子音優先の言語。日本語の真逆なわけです。
ある音節にアクセントを持たせる言語には、英語をはじめとするゲルマン語系の言葉以外にも(アクセントの位置はそれぞれに違うようです)、アラビア語、タイ語やロシア語も含まれます。
Japaneseという英単語
それでは具体的に実際の三音節の英単語でアクセントがどれほどに言葉を変えてしまうか見てみましょう。
音節が三つの英単語なんていくらでもありますが、ここでは日本人にとってもっとも馴染み深い単語である Japanese を取り上げてみましょう。
ジャパニーズはJap+a+nese
まずですね。Japaneseは二音節ではありません。
ではなく、
なのです。
ですので、上記のレゴブロックのように表現してみると、どれが正しいでしょうか。アクセントの位置を変えることで、微妙に発音も変化します。これが英語の秘密。シラブルタイミング型やモーラタイミング型ではこうしたことは起こり得ない。
(1) Japanese
最初の音節にアクセントがあるとすると、国際発音記号で表記すると、きっと
のように発音されるのでは?
カタカナで無理やり書くとジャパニーズみたいな感じ。太字が大きなレゴブロックです。ここを強調して発声してみて下さい。
(2) Japanese
真ん中にアクセントがあると、おそらく最初のジャの部分の母音がなくなってしまいます。
となると思います。
(3) Japanese
最期の音節にアクセントがあるならば、
アクセントの前の母音はやはり曖昧母音になります。そしてこれが本来の英単語のジャパニーズ。もしこの言葉を間違った位置にアクセントをつけて発音していると、こんなふうに英単語は別の言葉として聞こえてしまう。
だから英語は難しい。
外国人の英語に対してネイティブはあなたのアクセントが分からないというわけです。
アクセントの位置が全て。そしてアクセントさえあっていればRやLやVやFが入れ替わっていても相手には理解される所以です。
ThがSになっても、Thank youは通じますよね、アクセントが最初に置かれている限りは。
マウスMouseとMouthみたいに子音の発音がおかしいと絶対に通じない言葉もたくさんあります。でも文脈から理解してくれることでしょう。アクセントさえあっていれば、ですが。
英語的特徴
こうしたアイソクロニーによる言語の分類はあくまで学術的なことなので、例外もあれば、全てが完全に当てはまらない例もあると思われますが、大事なことは英語は徹底的に言語のメロディが凸凹なストレスタイプであり、日本のメロディは平板で音の長さが変容することが特徴的な言葉ということ。
印度人が英語を喋ると、確かにイギリス英語的だけれども、母語のシンハリ語の影響を受けた人は平べったくしゃべるし、WとVを区別できない。
ヘブライ語を喋るイスラエル人が英語を喋ると、日本語のように母音が語尾に含まれてしまう。
世界的ベストセラー作家のヘブライ大学のハラリ教授の動画を見て、訛りの強さに驚きましたが、彼の英語は世界中の人たちに通じるのです。
ヘブライ語はかつて死語になった言葉でしたが、第二次大戦後に復活した人工的な言葉なので、国際語の英語やアラビア語の影響か、アクセントがある言葉。でも母音の使い方が違うので、わたしには彼の英語の余剰な母音が気になります。でもアクセントが正しいので通じます。
いまハラリ教授の「Sapiens」を英語で読んでいますが、非常に刺激的な読書です。邦訳はサピエンスとされていますが、英語的には「セイピエンス」です。
教授の英語、馴れないとネイティブには聞きづらいですが、母音が余計で日本語っぽくて日本人には理解しやすいはずです。是非動画をご覧になってください。
また、この間、台湾人の高校の物理の先生とお話しすると、彼の英語は中国語的で音節がやたら均等でした。
でも中国語は声調言語のためか、それでも英語っぽく聞こえるのです。上がり下がりがなんとなく日本語よりも英語的です。
Thの子音も舌をかまないで発音していてなまっていました。This は日本人のようにJisなのです。
まあ訛りは仕方がありませんが、英語は強勢次第。母語と英語の特徴の近さが英語習得の困難さを決定づけます。
「あなたのアクセントはわからない」とネイティブは非英語ネイティブによく言うけど、日本語の場合は言葉にアクセントがないのが致命的。
アクセントがないのが、日本語のアクセント。アクセントが存在しないこともアクセントの一種。
RやLよりも、英語のリズムをもっと考えてみましょう。
というわけで、英語のリズムを学ぶには、英語の子供のためのラップがお勧めですよ。
大人のためのラップはFワードばかりの汚いものが多いですが、Clean Wrapで検索すると、Fワードの出てこないものがたくさん見つかります。
中には有名なラップソングのFワードを取り除いた特別版も作られていたりします。
さて、まとめ。アイソクロニーという考え方、なかなか面白いですね。
「日本語の特徴とは」を改めて理解した上で英語を学習されると、英語理解が格段に進みますよ。
英語の音を習得するのには長年の修行が必要ですが、英語は徹頭徹尾アクセントの言葉であると理解されると英語が通じるようになります。
Englishという言葉も、Eng+lishではなく、En+glish。
そしてGLという子音連結がなかなか慣れないと難しい。
日本人的にEngudishuのように母音入りで発音しても、En+Gudishuならば通じます。Engu+Lishだったら通じない。
英語ってこんな言葉だとIsochrony から復習できましたね。
Good Luck to your Journey with English!