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どうして英語ってこんなに難しいの?: (1) Heteronym編

Heteronymって言葉をご存知ですか?

Hetero- は異なるという意味の接頭語。-nymは言葉や名前に関する単語作る接尾語。

似た言葉にSynonymやAntonymがあります。Syn-は同じ、Anto-は反対を意味する接頭語。Synonymは同義語で、Antonymは反意語。

他にもHomo-は同質という意味なので、Homonymは同音異義語(鉛のLeadと導くのLeadや、弓のBowとお辞儀するのBowなど)。

Acronymは、Acro-が「頂上、始まり、終わり」を意味する接頭語。省略語という意味。横文字世界はAcronymだらけです。例えばNGO(Non-Government Organization)。

この投稿の主題のHeteronymは「同綴り同音異義語」。英語ではこれがすこぶる難しい。

相関関係の重なり合うオイラー図で、以上のNymの仲間を示すとこうな具合になります。Phoneは音という意味。Graphは書き言葉。

同じ綴りだけど、違う音と意味というものがHeteronym。
全く同じ発音の場合はHomonym。

同綴り異音異義語 Heteronyms

もしかしたら日本語話者は日常的に漢字というヘテロニム(より正確に書こうとすればトゥロゥニム)を使用しているので、それほど難しいものとは感じないのかもしれませんが、英語という独特の強弱アクセントで作られている言葉は、しばしば同じ言葉が違う品詞に変化することで、別の意味合いを持つのです。

強弱アクセントの位置が変わると、強い母音も曖昧母音Schwaに変化することも。辞書でも「名詞」として「動詞」としてなど、同じ項目に載せられていても、品詞の違いから違う単語のようなものと理解されるべきです。

ある英語雑誌の切り抜きから。

このミームを初めて見た時、なかなか面白いと思ったので、少し解説してみます。これから紹介する英文をざっと読んで、さっと意味を理解できた方は超英語上級者ですね。

有名なので、音読してくれている方もいます。是非聴いてみて下さい。


1.The bandage was wound around the wound

Wind(巻く、巻き付ける)の過去分詞形と「傷口」という意味の名詞。
傷口という名詞の発音は/wu:nd/。

包帯は傷の周りに巻かれていた

例文の過去分詞は/wάʊnd/。

Windというスペルの動詞には二種類あり、風に関する「息をつく、げっぷをさせる」規則変化動詞と、「巻く、巻き付ける」という不規則変化(Wind -Wound-Wound) する動詞の場合があります。

子育てされる方ならば、Wind-Windedという規則変化動詞で

The baby is not winded properly.

なんて表現を頻繁に使われるかもしれません。この場合の発音は、/wíndid/です。


2. The farm was cultivated to produce the produce.

農場は農産物を生産するために耕されていた

Produceという単語は、動詞としてはともかく、名詞としては余り出会わないかもしれません。「生み出す、生産する」の名詞形なので、名詞の意味が「産物」なのは文意からすぐにわかりますよね。

動詞のProduceは後半の音節にアクセント、名詞の場合はProduceで前音節にアクセント。

このビデオが素晴らしいです。上に引用した例文では to Produceは動詞。アクセントは後半に。無理やりカタカナで書けばプロジュース。
そしてObject の部分のThe Produceは名詞でプロジュース。

よく知っている単語なようで、Produceは非常に難しい。


3. The dump was so full that the workers had to refuse the refuse.

ゴミ捨て場はいっぱいなので、ごみ処理場職員たちは廃棄物を受け取らなかった。

動詞のRefuse/rɪfjúːz/は、拒否する、拒絶する、断る。

名詞の場合は/réfjuːs/で、意味は拒否されたものなので「ゴミ、廃棄物」。

名詞はアクセントが前半の音節に、動詞は後半の音節に付くのが規則です。


4. We must polish the Polish furniture shown at the store.

自分たちはお店に展示されているポーランド製の家具を磨かないといけない。

Polishは動詞としては磨くですが、Poland(ポーランド)という国の形容詞はPolish。でも音は違います。

磨く/pˈɔlɪʃ/pάlɪʃ/とポーランドの/póʊlɪʃ/。ポリッシュとポウリッシュ。

フィンランドFinlandの場合、Finnishという形容詞は、英語同士のFinish(終える)とまるきり同じ音です。


5.He could lead if he would get the lead out.

導くという動詞は/líːd/で、実は名詞は先頭を走るなどのリードとしても使われますが、別の意味の言葉がなぜか同じ綴りのLeadもあり、If節以下の名詞は/léd/。

Get the lead out は 米語で急ぐという慣用句。

急げばトップに(先頭に)なるだろう


6. The soldier decided to dessert his tasty dessert in the desert.

兵士は砂漠に美味しいデザートを捨ててゆくことに決めた

Desertも、名詞はアクセントが前半の音節に、動詞は後半の音節に、の法則に従います。

ィザート=砂漠と、ディザート=見捨てる。

さてややこしいのは動詞 Desertは「ディザート」で、甘くて美味しいデザートDessert は「ディザート」。カタカタでは書き表せませんが、微妙に違います。

この甘いデザートは名詞ですが、アクセントが後ろ。法則に反していますね。でも間違っても文脈から理解できますね。


7. Since there is no time like the present, he thought it was time to present the present to his girlfriend.

presentという単語が三度も出てきていますが、日本語訳では

「現在のような好機はない、ガールフレンドにプレゼントを渡すのは今しかないと彼は思った」

という風に訳せます。

二度目の to present はもちろん動詞。プリゼントという感じ。アクセントは後ろの音節に。次のpresentは名詞でアクセントは前に。無理矢理カタカナにするとプレゼント。最初のpresentはやはり名詞なのでアクセントは前の音節に付きます。


8. A bass was painted on the head of the bass drum.

Bassは同じ綴りで二通りの読み方があるややこしい言葉。

最初のA Bassは魚のバス。日本では外来魚のブラックバスでよく知られていますね。発音は/bˈæs/

ロックバンドなどで使用されるBass Drumは、カタカタで書くとベース/beɪs/で、Baseと発音はまるきり同じ。Bass Guitarはベースギターですね。

魚のバスの絵がバスドラムに描かれていた

1920年代から1930年代のベースドラムには、いろんな絵が描かれているものがたくさんありました。芸術品ですね。

9. When shot at, the dove dove into the bushes.

「撃たれたとき、鳩は草むらに飛び込んだ」

名詞のハトはDove/dˈʌv/。

ややこしいのはDiveの過去形。一般的にDivedでいいのですが、米語ではDive/dάɪv/-Dove/dóʊv/と変化するようです。

カタカタでダヴとドウヴ。ややこしい。


10. I did not object to the object which he showed me.

「わたしは彼が見せたものに反対しなかった」

Objectは名詞として、物体や対象物と意味ですが、この一文からではなんであるのか分かりません。「もの」としておきました。

Objectは動詞としても名詞としてもどちらもよく使われますが、やはりアクセントの位置が変わり、別の言葉のようです。

ここまで見たように、規則正しく、名詞 /ˈɔbdʒɪkt/ は前半にアクセントが、動詞 /əbʒékt/ は後半にアクセントが付きます。

外国映画の結婚式で、よく I object! と乱入してくるシーンがありますよね。これはもちろん動詞。アクセントはジェの部分に。


11. The insurance was invalid for the invalid in his hospital bed.

「保険は病院のベッドにいる病人には無効だった=入院に保険は支払われません」

Invalid/ínvəlɪd/という言葉は本来はDisableと同じ意味の言葉で「病人」や「病弱な」。アクセントは最初に来ます。

ですが、「病弱な」から飛躍して「説得力のない、無駄な、無効な」という意味として使われる場合は/ìnvˈælɪd/。アクセントは後半に。形容詞です。

つまり、例文のアクセントは、Invalid for the invalid。

名詞はアクセントが前半に来るのが決まりですが、この場合は形容詞Invalid は動詞のように後ろの音節へ。副詞化するときはやはり動詞に準じるので、Invalidly /'ɪnvǽlɪdli/です。「無駄に」という意味。

動詞を用いた He was invalided out (怪我のために除隊させられた)だと、アクセントはやはり後半に。名詞以外は「アクセントは後ろに」が決まりですね。


12. There was a row among the oarsmen about who would row.

「誰が漕ぐか、漕ぎ手の間で争いになった」

Row もなかなか複雑な言葉。わたしは仕事柄、Rowと言えばエクセルプログラムの「列」を真っ先に思い浮かべますが、「ボートを漕ぐ」という動詞も一般的。

しかし名詞で/rάʊ/と発音されるときには(カタカナでラウと聞こえます)、「口論、論争、大騒ぎ」にもなります。この例文は「漕ぎ手間で列ができた」ではありませんよね。

Make a row は「並べる、列を作る」ですが、時には並べることで喧嘩になり(並びたくないから?)騒々しくなるという意味でしょうか。

Rowは一音節なので、アクセントは変化しようがありません。でも母音に変化がみられるのは興味深いですね。典型的なHeteronymです。


13. They were too close to the door to close it.

「扉を閉めるには彼らは扉に近付き過ぎていた」

これは日本の英語学習者の方にもよく知られているのでは。形容詞のCloseは距離が近すぎる。動詞は閉じるという意味。

でもこの場合は形容詞のCloseのSeは濁らず、動詞のCloseのSeは濁ります。クロースとクローズ。


14. The buck does funny things when the does (females) are present.

英語は牧畜文化圏で発達したので、動物の雌雄の名前には大抵別々の呼び方があります。

Cow/Bull/OxとかHen/RoosterとかRam/Eweなど。

例文のBuckは牡鹿で(大人の立派な角のある牡鹿はStag)、Doeが雌鹿。Doeは「ドレミの歌」で広く知られているかもしれません。

Doeの複数形はDoesとなり、Do動詞の三人称単数形は-esを付けて、Does。綴りは全く同じですが、発音は違います。

牡鹿は雌鹿たちの前だとおかしな振る舞いをする


15. A seamstress and a sewer fell down into a sewer line

A seamstress はお針子や裁縫師や女性仕立て屋さんという意味。古い言葉。男性形はTailorですが、このように性別で言い換える言葉は現代ではポリコレ的に正しくないので、Dressmaker がいいですね。

問題はa sewer。下水/súːə/という意味と、やはりSew/sóʊ/(縫う)する人という意味のSewer/sóʊɚ/

お針子や仕立て屋たちが下水管の中に落ち込んだ

和訳はこれでいいでしょうか? おかしな意味の英文ですが、文法的には正しいです。


16. To help with planting, the farmer taught his sow to sow

とても不可解な英文で、his sowという名詞を理解できずに辞書を調べると、sowは雌豚という意味。発音は/sάʊ/。種をまく場合は/sóʊ/

植え付けを手伝わせるために、農夫は雌豚に種をまくことを教えました。

種を蒔くことでたくさんのものを生み出すという意味から多産の雌豚がsowになったのでしょうか。英語の畜産文化の深さを思わせる単語です。でもこの英文は意味を成すのでしょうか?

雌豚は撒いた種を食べてしまいますが。ちなみに雄豚はHogだそうです。


17. The wind was too strong to wind sail around the mast

この文は1で出てきたwoundと関連があるWind。

ここでの「巻く」という動詞はTo不定詞につながる現在形で/wάɪnd/

風のWindとは発音がもちろん違います。

風が強すぎて、マストの周りに帆を巻くことができなかった


18. Upon seeing the tear in her painting she shed a tear

tearは涙/tɪə/という意味と裂け目/tɛː/という意味があります。動詞にもなりますが、音節は一つなのでアクセントは変わりません。

自分の絵が裂けている(破かれている)のを見て、彼女は涙を流した。

tearは最もよく知られたhetronym

19. I had to subject the subject to a series of tests

subjectもアクセントの位置が変わることで、名詞化したり、形容詞化したり、動詞化したりする単語。

名詞や形容詞は/sʌˈbdʒekt/。アクセントは前の音節に。
動詞は/səbdʒékt/。アクセントは後ろの音節に。決まり通りですね。

subjectは、sub (下に) ject (投げる) という言葉。

動詞としては「従わせる、受けさせる」という意味。従う者という意味で、名詞は「家来、(対象とされた)主題」。

例文のthe subjectは、この場合は次に続くテストという言葉から、テストや実験を受けるものという意味で、被験者や実験動物でしょうね。

一連のテストを被験者に受けさせないといけなかった


20. How can I intimate this to my most intimate friend?

形容詞のIntimateは、日常会話ではしばしば性的なニュアンスが含まれるので使い方に要注意です。名詞の場合は「親友」ですね。

発音はこれまで見てきたように、最初の節にアクセントがついて、/ínəmət/ となりますが、動詞の場合は /ínəmèɪt/。

「ほのめかす、それとなく伝える、暗示する」という意味になります。


動詞化と名詞化の法則

以上が "Language Matters: Why English is so hard to learn"という雑誌切り抜きをスキャンしたミームの英語の解説でした。

Heteronymは、他にも探せばまだまだあることでしょう。

会話の中でこれらの言葉が話されると、キチンと発音されているのならば混乱は生じません。誰でも理解できるものですが、書き出してみると、音は違うのに同じ綴りになるので、なんだかわかりにくいのです。

一音節以上の単語が、

名詞化すると、アクセントは前の音節に、
動詞化すると、アクセントは後の音節に、

が基本です。

あなたの英語学習の少しばかりの刺激にでもなれば幸いです。Hetronymはなかなか面白いですね。

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Logophile
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