AIデジタルリマスター版フィッシャー&フルトヴェングラーのエンペラー

2020年代に入って画像生成AIや大規模言語モデルがあっという間に普及して、その進化の速さに我々の誰もがついてゆけないほどなのですが、AIによる過去の音楽録音の音質改善においても目を見張るものがあります。

わたしがクラシック音楽を好きになり始めたばかりの頃に出会った伝説のピアニスト・ディヌ・リパッティの最後の演奏会の録音がAIリマスターされて蘇ったように(2023年のリマスター)クラシック音楽の20世紀の巨匠たちの古い録音が少しずつリマスターされて、全く新しい音楽であるかのように、蘇っているのです。

先日、黒澤明監督の名作「七人の侍」の4Kデジタルリマスター版を劇場で見てきたのですが、かつては聞き取りにくかったセリフも完璧に音質改善されて、画像もまた、白黒なのですが限りなく肉眼で見たものに近い高画質。画面の隅々までくっきり。特に百姓の娘志乃が男のなりをして隠れている小屋の周りは白い花が咲き乱れているのですが、その白さが白黒映像の中であまりにも鮮明で、カラー映像よりも美しいのではと感動しました。

昔見た黒澤明は古すぎていまいちだった、分からなかった、なんて言われる方はぜひ4Kデジタルリマスター版をご鑑賞ください。全く新しい映画として蘇っています。世界の黒澤の凄さに納得ですよ。

それと同じことがクラシック音楽の録音の世界でも起こっていて、2023年のリマスター、エドウィン・フィッシャーのフルトヴェングラーと共演した皇帝協奏曲(1951年録音)を聴いて、わたしが持っている2002年復刻のフルトヴェングラー全集CDを捨ててしまいたくなるほどの鮮明な音なのでした。フィッシャーの有名なバッハもしかり。

われわれはすごい時代に生きているのです。過去の遺産がまるで今日作り出されたかのように新たな命を得て蘇っているのです。映画も録音も。

短い音楽だけを毎日投稿することにしていますので、ここでは一番短い第二楽章をどうぞ。この音を聞くと、自分自身の目の前で遠い昔のフィッシャーという偉大なピアニストの謦咳に触れているような錯覚を覚えます。ちなみに録音時にフィッシャーは77歳。凄い人なのです。

お気に召されたならばぜひ全曲聴いてください。個性的なアクセントがつけられたフィナーレ主題の大迫力は大変なものです。

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Logophile
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