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デルフトブルーハウスとフェルメール

陶器が大好きです。

素敵なセラミック製の置物が店先などに並べられていると必ず立ち止まって眺めるほど。

魅力的な色の瀬戸もの、お茶碗とか箸置きとか、必要なくても欲しくなってしまう。

両親から受け継いだものなのですが、我が家には、青い屋根の外国の家の陶器の置物があります。

可愛らしい置物なので、ずっと窓辺に飾っていたのですが、先日ようやくこの置物の由来が判明しました。

いつも読んでいるDitoさんの記事を読んで分かったのです。

偶然見かけた同じ置物は、実はフェルメールの絵画でもよく知られている、オランダの街デルフトの特産品「デルフトブルーハウス」なのでした。

朝日が大好きなニャンコもカメオ出演❣

素敵な陶器の家。

わたしの家の窓辺には、ミニチュアのオランダの家が「七軒」建っているのです。六軒かと思っていたら七軒ありました。

オランダという国は16世紀、有名な画家レンブラントやフェルメールが活躍していた大航海バロック時代に、世界一の海洋国として世界にその名を轟かせた国でした。

鎖国時代の日本とも、長崎の出島に唯一出入りを許された西洋の国として、日本とは大変に馴染み深い国です。

しかしながら、オランダは正式名称 Netherlands(低い土地)が意味するように、国土の大部分が海抜以下という土地であるために、人々の暮らしは必ずしも豊かなものではありませんでした。

そういう逆境を乗り越えようと海洋進出して、16世紀17世紀の繁栄を築き上げたのでしたが、どんなに富を所有しようとも、オランダが海を埋め立てないと国民のために十分な土地を与えられない狭い土地であることには変わりありませんでした。

21世紀の今日になっても、内海を埋め立てる国家計画は続けられているほどです。

だからでしょう、国家の繁栄の恩恵を享受することができなかったオランダ人たちは、当然ながら大航海時代の頃から海の向こうへと移住する選択をすることに躊躇うことのない人たちでした。

世界中にあふれているオランダ由来の名前を持つ人たちはそうしたオランダ風の生き方のあかしです。

わたしの周りにもたくさんのオランダ人がいて、完全にこちらに帰化した人たちでも、姓を見ればすぐにオランダ系であることがわかります。

オランダ語のV

特にオランダ系の名前はアルファベットの小文字で始まることが特徴です。

  • van Gogh, van Dyke, van Pelt

  • de Jong, de Waart

  • van der Meer, van den Berg

  • ter Brugghen, ter Allen

つまりですね、安心毛布(security blanket)のライナスもオランダ系。

本名はライナス・ヴァン・ペルト(Linus van Pelt)。

オランダ系の人たちによく出会います。

オランダのゴータチーズやアーモンド入りのバターケーキ(boterkoek)やオランダソーセージなど、オランダ移民が多いニュージーランドでは、オランダ文化はとても身近なものです。

オランダ移民二世が開いた、感じの良いカフェも我が家から車で10分の場所の郊外にあり、同僚と一緒にコーヒーを何度も飲みに行きました。

移民してきた当時(1950年ごろ)を偲ばせる古い写真がたくさん飾られていて、インテリアはオランダのコーヒーショップそのものです。

今は手元に写真がありませんが、次回訪れたときに撮ってきます。

ニュージーランドでは滅多にドイツ人やフランス人には出会わないけれども、オランダ系の人たちにはたくさん出会います。

特に移民1世は英語の発音が苦手で、VをどうしてもFの発音で喋ってしまう。

Video ヴィデオ /vídiòʊ/ (二重母音!)

フィデオ

になるのです。

オランダ語のVの発音はFなので。

有名なオランダの画家ゴッホは

フィンセント・ファン・ゴッホ Vincent van Gogh

英語式ではヴィンセント・ヴァン・ゴーグ
それも Van をふくめて「ヴァン・ゴーグ」
Goghだけでは通じません

オランダ人がVを発音できないのは、日本人が発音の努力をしないと、デオ(Bideo)としか発音できないのと同じことです。

ああ英語って難しい!

下唇に前歯を軽く当てて強い呼気で音を押し出すVやFは、日本語を母語としている場合にはよほど訓練しないと発音できません。

その昔、早口言葉を数週間、毎日呪文のように呟いていました。

ちなみにドイツ人は

Wを英語のV

と発音して、Vをやはりオランダ人同様に英語のFで発音。

ドイツ人は日本人よりも英語が上手ですが、やはりドイツ語訛り、自分にはわかってしまいます。

フェルメールの名画「窓辺で手紙を読む女」

さてここから本題ですが、デルフト陶器のおうちから、フェルメールブルーを連想して、フェルメールのある絵のことを思い出しました。

この絵画に見覚えはおありでしょうか?

From Wikipedia

海洋国家オランダの全盛時代の文化的繁栄を象徴する、フェルメールが描いた、現在に伝えられている正真正銘の全作品数はたったの37点。

この絵はその37点のうちのひとつなのですが、妙な違和感を抱きました。

実は2017年以前(公開は2021年以降)には、壁面に掛かっている大きなキューピッド(クピド:ヴィーナスの息子のいたずら者の愛の天使)の絵は存在していなかったのです。

次の絵が2017年以前に知られていた名画『窓辺で手紙を読む女』でした。

From Wikipedia
こちらの絵の方が自分には馴染み深い

手紙を読んでいる女性、悲しげで悪い知らせでももらったのかな?なんて思ってしまいます。

手前の斜めに傾いているデルフト陶器の大きな平皿の上の、いかにも美味しそうに見えない果物は、「人生の空しさの寓意」であるヴァニタスのようです。

バロック絵画に楽器が描かれていると、奏でられると瞬時に虚空へと消えてゆく音楽を象徴する小道具として、やはりヴァニタスを暗示します。

もっと直接的に枯れた花や骸骨が描かれていることも。

バロック絵画はアレゴリーだらけで、絵画は寓話や教訓を伝えるための道具なのです。

フェルメールよりも少し後の時代のバロック音楽のバッハでも、数字の「3」は三位一体、ラッパは王族のためのファンファーレであると同時に黙示録の最後の審判の調べの意味もあり、バロック音楽もまた、アレゴリーだらけ。

アレゴリー(諷喩):allegoria・Allegory =ある抽象的な概念を具体的な形象によって語る技法のこと

描かれた不味そうな果物だけでも、この女性は悪い知らせをもらったのだなと思ってしまいます。

何もない大きな壁面もまた、空虚感さを思わせるに十分なものです。

しかしながら2017年に行われたCTスキャンX線検査では、壁の下には別の絵があることが発見されて、精巧に描かれた壁面は、フェルメール以外の第三者による上書きだと判明したのでした。

それ以来、数年かけて、上書きされていた壁の絵の具を巧妙に剥ぎ取り、オリジナルのフェルメールの絵画がよみがえったというわけです。

修復作業をして、くすんでいた絵画全体の色調も修復して明るくなり、2021年に再びこの名画は公開されることになりました。

弓で射抜いた相手を恋の虜にしてしまうキューピッドが描かれていることで、女性の手の中のしわくちゃの手紙がラヴレターであることは間違いありません。

画面が明るくなったことで、手紙の内容は必ずしも、悪い内容ではないであろうことも分かります。

光を浴びた果物も以前よりもずっと美味しそうです🍎🤤。

ヴァニタスらしさは薄れましたが、やはり足の速い果物は儚さの象徴。

喜びと不安の入り交じる恋の行方はいかに?

でもこのキューピッド、あまりに大きくて存在感がありすぎませんか?

存在感ありすぎのキューピッドの絵が白い背景を覆い隠してしまったことに、わたしとしてはなんだか複雑な気持ちです。

キューピッドと女性の画面内での大きさがほぼ同じなのは、明らかに意図されたものですが、カーテンが邪魔なような。

カーテンは向こう側に何かが隠されていることを暗示します。

手紙を読んでいる女性の姿が絵画を見る人の視点から覗かれているという趣向です。

これは他のフェルメール作品でも見られる定番の構図。

窓が大きく開かれていて、先には何もない方が寂寥感が醸し出されないでしょうか?

キューピッドが消されたのはフェルメールの死後、百年以上もたった18世紀頃だと上塗りされた絵の具から判明していますが、その頃の絵の所有者は自分の好みで描き変えてしまったらしいです。

わざわざプロの絵描きに頼んで。または所有者が絵筆を取る人だったのか。

泰西名画が大好きなので、昔から大抵の有名な絵には親しんでいる、わたしの記憶の中のこの絵には、キューピッドはいませんでした。

両親が購入した高価な世界美術全集を持っていたのですが、フェルメールの古い画集には、修復前の古い絵が掲載されていました。

絵画の中のある一部を隠してしまうことで、絵の印象がこれほどにも変わってしまうのは、やはり驚くべきことです。

ちょっとした小物が世界を変えてしまう。

私たちの生活もそうなのかもしれません。

部屋の中に飾られている置かれている何気ない何かがなくなってしまうことで、部屋の中から急に快活さや明るさが失われてしまう。

七軒のデルフト陶器が並ぶ我が家の窓辺も、青い屋根のデルフトの家がなくなってしまってはきっと寂しいものになることでしょう。

絵の中の青いデルフト陶器

つい最近、この絵が何か変だと気が付いた次第なのですが、皆さんはどちらがお好きでしょうか?

  • キューピッドのいる絵画:恋人からのラヴレターを不安そうに読む女性。絵画のテーマは「恋煩い」?

  • 壁に何もかけられていない空虚な壁の絵画:寂しげに窓辺で悲しい知らせをもらった女性。絵画のテーマは「思いがけない知らせ、人生の儚さ」

自分のすぐそばのオランダ文化

オランダのことを書いていると、我が家から歩いて五分のゴータチーズのお店に行って、チーズフォンデュを食べたくなりましたね。

残念ながら、今日、日曜日は定休日なので、また月曜日にでも。

マースダムチーズ(maasdam cheese)はよく溶けてよく伸びて、フォンデュには最高です。

From Wikipedia

でもチーズのお話はまだ今度。

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おまけ:我が家の箱入り娘😽

Have a great Sunday!

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