デザイナーである私を構成する言葉
どうも、デザイナーのつぼつぼです。今回は昔言われて今も心に残っている言葉、デザインを学んでいた時に恩師から言われた言葉など、デザイナーである私にとって大切にしている言葉を紹介します。
1、言われた言葉
「描くのが遅いから仕事には向かないですね」
これは小学生の頃、担任のM先生から三者面談の時に言われた言葉です。
小学六年生の時、図画工作の授業で「ヒガンバナを描く」という課題がありました。私は下側に大きくヒガンバナを描き、奥に小さく学校から見える街を描きました。街を細かく描いていたため時間がかかり、また描くのも早い方じゃないので、一人で放課後に残って廊下の窓から見える景色を描いていた記憶があります。
担任の先生はとても良い先生で、仲も良かったので嫌味ではないのは明白でした。「絵が好きな子どもだけど、将来仕事にすることを考えると難しいかもね」というニュアンスだと思います。この言葉があるおかげで、私の根底には「仕事にはある程度のスピードは大切なんだ」という考えが根付いています。
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「シンプルってどういう意味だ」
大学2年生の時、時計のデザインの課題がありました。先生はとても厳しいN先生。全員が席に着いていて、私は一番後ろの席に座っていました。先生が私を名指しして「坪田はどんなデザインをするつもりだ」と聞きました。そこで私が「シンプルなデザインをしたいです」と言うと、「シンプルってどう言う意味だ」と聞かれ、私は答えることができませんでした。するとN先生は「理解していない言葉を使うな」と続けました。この言葉はとても大切な言葉になっています。
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「これはデザイナーの仕事じゃない」
こちらも時計の課題の時のN先生の言葉です。まだデザインのデの字も理解できていない私は「どんな時計にしよう」と悩んでおり、先生に「こんな時計を作りたい」とスケッチを見せる中間報告がありました。
今思うと恥ずかしいのですが、戦国武将にハマっていた当時、真田幸村の六文銭を配置した時計はどうだ!と見せた説明した時に「これはデザイナーの仕事じゃない」と言われました。続けて「使う人、見る人に何を伝えたいんだ。どう感じて欲しいんだ?」と言われた気がします。別の暖簾をイメージした布張りの時計のスケッチを見せて「見た人がほっこりできるような時計はどうですか?」と言うと、「暖簾ならこんな感じだろ」と空いたスペースに描かれました。
そこから暖簾の時計を進めて行きました。コンセプトをガチガチに固めて、暖簾の雰囲気に合うように、クラスにいた書道師範代の友人に筆で線を描いてもらい、それを時計の針にしたり、ロゴも筆で書いてもらいました。母親からミシンの使い方を教わって、暖簾の部分を作りました。
針やロゴを他の人にお願いして良かったのかとビクビクしてプレゼンを行い、N先生からの講評の時、「暖簾で時計を作るって聞いた時はどんなキワモノになるかと思っていたけど、よくまとめました。良いデザインだと思います。ロゴを人にお願いしたりディレクションとしても良かった。ほっこりさせてもらいました。」という言葉をいただきました。今思うとフォルムとしてはまだまだですが、キワモノにならないようにコンセプトをまとめ、デザインに真摯に取り組んだおかげで評価してもらえたのだと思います。
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「原寸だとどんな感じ?」
社会人になり、デザイナーになって最初の仕事は印刷物に使うアイコンのデザインでした。本当に小さなアイコンで、グラフィックの一部に使われるような仕事としても小さなものでした。
気合が入っていた私は数十種類のアイコンを作成し、それぞれにバリエーションを10個ほどデザイン。合計数百のアイコンを作成しました。そのアイコンを見せた時に先輩から言われた言葉がこれです。正確なサイズを把握せずにデザインしていたため、原寸に直すと印刷上では潰れてしまいほとんどのアイコンは使用することができませんでした。結局大半のアイコンは作成し直すことに。
最初から完成サイズを意識してデザインすること、表示するデバイスを意識することの大切さを学びました。
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2、デザインを教えてくれた言葉
「意匠以上に構造を重視してデザイン」
あらゆる事象を総合的に見て、10年後のために何をするべきかが分かる力、それがデザインマインドです。もちろん、美意識みたいなものも含まれます。10年たってもびくともしない美意識を持ちあわせていて、明快に判断できる能力です。
びくともしないということは、いわば骨格がしっかりしている、ということです。建築を事例にすると、建築には構造と意匠がありますよね。大雑把に言えば、建築物の躯体を担っているのが構造で、それを覆っているのが意匠になります。デザインは構造の部分も意匠の部分も包括しているわけです。
デザインは、構造と意匠の両方を請け負うものです。そして構造には、10年たってもびくともしない強度が求められますが、意匠は、時代の変化に合わせて微妙に調整しても構わない。どちらもデザインの仕事です。あらゆる製品や企業を「構造と意匠」という考え方で因数分解して、それぞれのデザインを考える。僕が必ず意識していることで
いま挙げた3社は、「構造」のデザインがしっかりあって、絶対に変えない。BMWの場合、中央のラインで左右2つのパーツに分かれているフロントグリルのデザインは、確か創業以来変えていないはずです。つまり「意匠」以上に「構造」を重視してデザインしているわけです。
日本のクルマメーカーの多くは、「構造」をデザインするのが苦手なんですね。モデルチェンジで車種の名前まであっさり変えてしまったりする。だから、どのメーカーのどのクルマなのか、ぱっと見てもなかなか認識できないわけです。
一般的なデザインへの認識は「意匠」です。ですが、それ以上に「構造」の作り込みが大切なのです。色々なものを見ていると、流行=意匠が強め、売れ続ける=構造が強め、のように感じます。
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「デザインに民主主義はありえない」
こちらも佐藤卓さんの言葉です。デザイナーの中にはデザインの提案時に捨て案を出す人もいます。以前は私もそうでした。ですが、世界的なデザイナーであるマーク・ニューソンが「クライアントは間違えた方を選ぶ」と話していたように、クライアントが良い方を選ぶとは限りません。佐藤卓さんも「良いものを選ぶのは先見の明を持つデザイナーの仕事だと話しています。捨て案を作るのではなく良いものだけに絞って提案することが大切になってきます。
他にもアンケートを取って決定する場合もありますが、その場合は提案したものの尖った部分がなくなってしまうことを考慮する必要があります。
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「日本のデザインは“新しさのための新しさ”ばかりを追い求めている」
デザイナーになって5年目くらいに知り、ハッとさせられた言葉です。この言葉はアウディでデザイナーをされていた和田智さんの言葉です。日経ビジネスでの対談「ダサい社長が日本を潰す」というシリーズでお話しされていました(この記事は一部書籍化されています)。
僕が、アウディの経営者や先輩デザイナーから学んだのは、クルマに限らず「美しいモノを創る」とは「文化を創る」ことである、ということ。だからこそ、デザインに自分たちの思いや哲学を練り込まなければならないだろう。クルマのデザイナーが、カーデザインだけ考えていればいいという時代は、とっくに終わっているんです。人々の暮らしをどうとらえるかという起点から、クルマをデザインしなければならない。それを、アウディは当たり前のように実践していました。
新しいことが正しいことでもないし、一番求められていることでもないのです。思いや哲学がまずあって、暮らしを起点に、思いや哲学を表現することこそが大事なのです。もっとざっくりいうと、町並みの風景や人々の生活とクルマのデザインが調和していなければならないということですね。そもそもヨーロッパには、ヘリテージ(=過去からの遺産)という恩恵があって、それを尊重して、次のデザインを考えている。ヘリテージの上に、今があり未来があるという考え方です。
残念ながら「短期的に売れるデザイン」を目指したものが、洪水のようにあふれているのが日本だと思います。やたらに大きくて主張の強いクルマのヘッドランプのデザインが典型ですね。ただ、単に目新しさを狙ったものは、古くなるのも早い。あとから見れば誰もが気づくことです。でも、プロである作り手が、そんな当たり前のことに気づいていないのです。日本のデザインは「新しさのための新しさ」ばかりを追い求めている。だから「美しいデザイン」「ずっと愛せるデザイン」が出てこない。
デザインしていると「新しいデザイン」や「登場感のあるデザイン」、「売り場で目立つデザイン」を求めてくる人が非常に多いと感じます。しかもそれがユーザーのためならまだしも、「新しさを出すため」や「売り場でどう目立つか」しか考えていません。ユーザーのシーンなんて一切考えていない。純粋に新しい技術や製品をデザインして自然と新しいフォルムや色になるなら健全ですがそうではないのです。
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「ノイズが本質的な役割を果たしている」
株式会社竹尾、織咲誠、原研哉+日本デザインセンター原デザイン研究所『FILING: 混沌のマネージメント』で茂木健一郎さんがお話しされていた言葉です。
これについては面白い話があります。いまこうしてコンピュータが動いているわけですが、そこに0.1%でもノイズが入ったらおシャカです。ところが脳は、あるシグナルの処理をしていると解釈できる活動は全体の30%で、あとの70%は普通の意味でのノイズなんです。コンピュータという人工機械の設計原理と、脳のそれとでは全く違う。むしろ脳はノイズが当たり前というか、勝手に何かをやっている状態が前提のマシンで、そのことと人間が創造的であるということには、恐らく深い関係があるんです。膨大なデータの中からあるキーワードを間違いなく検索してくるような作業では、脳はITに全く敵いません。反対に脳がITに絶対に勝てるのは、新しい意味のあるものを作り出すということで、ノイズが本質的な役割を果たしているんですね。
デザイン視点での片付けや整理の本なのですが、私はデザインの本質をこの本に見た気がします。ノイズの話を聞いてから、積極的に無関係な知識や情報を仕入れ、スケッチは整理せずに雑多に描くようにしています。最初は何も起きませんでしたが、数年経過してから「思考実験」がロゴデザインの役に立ったり、知識が説明の比喩で役に立ったりするようになりました。
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3、デザインのポリシーの話
「SPOT DESIGN」という名前
私はSPOT DESIGNという屋号で活動しています。この名前の由来は小林賢太郎さんのひとり舞台Potsunen「The SPOT」から来ています。この舞台は一坪で独立国家を築こうとした王様のお話が軸となっています。この舞台の中にこんなセリフがあります。
181.818 × 181.818cmの正方形、ちょうど「一坪」です。一坪でできること……仮眠、反省、脱皮。色々ありますけど、中でもとりわけ大きなこと、「独立国家を築こうとした王様」のお話をひとつ。
(中略)
続いて通貨単位。あの国の通貨単位は「円」だそうだ。我が国の通貨単位は何にしよう。んー……ひとつぼ……壺。あ、ポット。1ポット、100ポット、1000ポット、おぉ語呂が良い。我が国の通貨単位はポットでいこう
私は計算されたカッチリとしたフォルムやレイアウトをベースにデザインをしているのですが、冷たくなりすぎないように注意しています。冷たくなりがちな計算と、温かさの融合。これが、坪、壺、スポット、ポット……というような言葉遊びの面白さと近く、良いなと思いました。
演劇作品『The SPOT』の舞台が「ひと坪」の中なので「坪田」から名前を「SPOT DESIGN」としました。
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「Minimal Makeup, Maximum Impact.」
この言葉は海外にいる友人Kが考えてくれた言葉です。私はシンプルなデザインを得意とし、アイデンティティとしています。しかし、シンプルなものをつくるデザイナーは山ほどいます。そこで考えたのが「シンプルを磨いて磨いて衝撃を与えたい」、「本質を見抜いて、他の人には作れない文脈や哲学でデザインを行う」ということでした。ハードルは高いしツラいことも多いですが、面白いです。
いかがでしたか。漠然と考えていても言語化したら分かりやすくなったり、伝わりやすくなることも多いです。モヤモヤしている時は取り敢えず誰かに話してみたりしてみると明確になるかもしれません。ではー。
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SPOT DESIGN 坪田将知
●web:https://spotdesign.jp/
●blog:https://spotdesign.jp/blog/
●X:spot_tsubota
●Instagram:spotdesign_tsubota/
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