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ビジネスパーソンのスタートアップへの流入についての見解

註:最初に。本投稿はスタートアップに興味はあるが、その内情についてあまり明るくない方を想定して書いています。いわゆる中の人・プロ筋の人にとっては当たり前の内容過ぎるので、読まないことをお勧めします。。

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では本題へ。。昨今、日本において、20代-30代を中心に大企業や外資系企業・金融やコンサルなどのプロフェッショナルファームにいるビジネスパーソンがスタートアップに移るケースが増加して来ています。

実際に私の周りでも、そこまで昔からスタートアップに興味を持っていなかったハイキャリア層(大企業 -> 外資コンサル、や官公庁 -> 海外MBA、等)もスタートアップに移って活躍している人が増えている印象です。

もはや感覚的には、大企業 vs スタートアップや、あっち側 vs こっち側といった二限論で語られるフェーズではなく、シームレスな一つのキャリアオプションとしてナチュラルな選択肢の一つになりつつあるのではと感じるくら、ここ数年での大きな変化を感じます。

ただ、こういった環境変化がある中で、まだまだスタートアップへ飛び込むのはリスクがある、とか成功者バイアスが掛かっているとか、そういった意見や不安が残っているのも事実でしょう。

そこで、今回のnoteでは、私自身がスタートアップへの転職を考えられている方から良く相談される3つの質問に対して、私自身の経験や業界の中で感じている肌感 + 簡単な客観的な分析、をベースに考察していきます。この記事が少しでも皆様のキャリアを考える上での参考になればと思っています(是非家族や周囲から反対された場合のロジックとしても使って頂ければ幸いです)。

尚、ここでは、スタートアップの働きやすさだとか、事業のスピード感、新しいことを作り出す面白さ、多様な人材と働ける機会、など一般的に見て明らかにスタートアップに来ることで得られるメリットはあえて取り上げていませんので、その点ご留意ください。

もしこの記事を読んだ結果、今後のことも考えて、少しでもスタートアップのことを知っておきたいなと思われた方は気軽に私までこちらのtwitterアカウントにDMを頂ければ嬉しいです!


スタートアップでは泥臭い仕事が多いイメージですが、社会的インパクトの大きい仕事できますか?

明確にアーリーなステージから社会に大きな影響を与えられる事業を展開できるチャンスが劇的に増えて来ていると感じます。

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スタートアップにはどんどん優秀な人材が流入してきていますし、リスクマネーも調達しやすくなっているので、どんどん大きなチャレンジを仕掛けやすい環境ができて来ています。更にそうした動きを大胆に加速する手段(=人の褌で相撲を取る手段)として、大企業などとのパートナーシップの増加も見逃せないトレンドかもしれません。

実際、大企業や老舗企業が将来のための変革や新規事業創出を(トラディショナルな企業自身が自前化だけで進める限界を認識し始めており)外部のスタートアップとパートナーシップを組んで進めるようなケースが増えて来ていますので、大企業やコンサルなどの中でフロンティアの事業を作るのと同等、もしくはよりそれを外圧で牽引する立場としてインパクト大きく推進することができます。

例を挙げるとキリがないですが、パッと思いつくだけでも、Layer X x 三井物産クレジットエンジン x みずほ銀行テックタッチ x 富士通、(手前味噌ですが、10X x IY, ライフ)など様々なパートナーシップ事例がシリーズA前後のスタートアップからも出て来ています。

もちろん大企業側やプロフェッショナルファームからでもこうした変革課題に取り組むことはできますが、スタートアップ側からこうした産業の変革アジェンダに取り組むことの面白さは(ある程度抽象化すると)、
「社内のプロトコルに政治的な要素がほぼないので、本質にfocusし100%フルスイングできる」、
「(VCのリスクマネーを活用し)短期的なP/Lは実質無視できるので、収益化が4-5年先かつ不確実性のある投資的なアプローチを積極的に取れる(=未来にfull betできる)」
「社内の優秀なプロダクトチームを活用しやすいので、techアプローチによる推進が可能」、
という3つが大きいかなと、個人的には感じています。


スタートアップの転職&ジョブ機会の増加は一時的なトレンドではないですか?

これはむしろ、まだ一合目かなという印象です。今スタートアップ業界に移って来ているビジネスパーソンはキャズム理論でいう、アーリーアダプターでしょう。少しデータを使って検証してみましょう。

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そもそもスタートアップは毎年どのくらいのビジネスパーソンの採用を行っているのでしょう?整理されたデータは無いかもしれないので、ザクっと推計していきます。(新卒は極めて少ないはずなので、ここはほとんどが中途の前提で議論します)

この辺りのデータによると、相当粗いですが、日本のスタートアップの数は現在2,000社程度(2020年に調達したスタートアップ1,700社+α)と推計できます。2,000社がそれぞれ毎年平均的に3-4名の事業人材の採用を行ったとすると6,000-8,000名の採用が毎年発生していることになります。

別の推計方法でも確認してみましょう。先程のデータをベースにすると、2020年の日本のスタートアップの総調達額は6,000億円です。スタートアップの場合は成長投資の大部分は人材になるので(他は広告投資など)、ざっくり50%の3,000億円のリスクマネーが人材投資に流れると推定します。(投資期間として)3年分くらいの給与を(リターンなしで)突っ込む覚悟で採用するとして、一人当たり700万円の平均給与で2,100万円/人の投資です。
つまりこの計算でいくと、3,000億円÷2,100万円で、17,000人を毎年スタートアップ が採用することになります。この中にはエンジニアやデザイナー、PdMなどのtech系の人材も含むので、ザクっと50%が事業人材とすると9,000名の事業人材の採用があることとなり、上記の想定ともほぼ一致します。

次に、スタートアップにおける、毎年8,000名の採用がどのくらいの規模感の数字かというと、ザクっとしたデータとして、5大総合商社の中途採用が毎年200名くらい、戦略コンサルMBBの中途採用が200名くらいです。この数字との比較で、スタートアップのjob opportunityがかなりの規模になりつつある感覚が掴めるでしょう。

ここまで、スタートアップの調達額がある程度今後のスタートアップのjob opportunityのサイズを規定するというロジックで上記話しました(し、実際かなり相関していると思います)。それを踏まえて、日本のスタートアップの採用は今後増えていくかを推定します。

USのスタートアップの年間調達額は40兆円規模にまで到達しており、GDPの差分を踏まえると、(超単純計算で)日本も10兆円規模のポテンシャルはあるとも想像できます。故に、今の日本の6,000億円の年間調達額と比較すると、まだまだ10倍以上のポテンシャルがあり、スタートアップの事業人材の採用は加速度的に増えていくと推定できます。つまり近い未来、転職しようとすると、求人は(大企業やコンサルよりも)スタートアップの方が圧倒的に多い、という世界線になっていく可能性は十分にあると想像できます。

こうしたマクロトレンドを加味すると、今後30-40年の職業キャリアの中で、面白いjob opportunityを勝ち取るには、早めにスタートアップ側を経験しておくことも良い選択なのでは、と(ポジショントーク抜きで)思います。


スタートアップへの転職で給与が減ってしまうのでは。。?

結論固定給与の水準は、(例えば総合商社やコンサルなどの若手で、現在額面で1,400-2,000万円もらっているとする人にとっては、)多少の減少はありますが、その幅は年々小さくなって来ており、更にSOなどのアップサイドを考慮すれば(上場できるかどうかの期待値調整を掛け目で入れても)、スタートアップの方が中長期では高い報酬性が期待できるかもしれません。

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スタートアップの給与水準の変化

4-5年前の感覚ですと、スタートアップに転職すると年収が500万円くらいになる、というのが当たり前の感覚だったのではと思います。実際にメルカリやラクスルの上場時の目論見書を見ると500-600万円くらいの平均給与だったようです。(上場時のすごく上手く行っているスタートアップでこれなので、未上場のスタートアップ なら尚更でしょう)

2017/3時点:メルカリの平均給与500万、ラクスル621万円

ただ、足元スタートアップの給与水準が劇的に高まって来ています。背景としては、以下のような2点があると考えています。つまり一過性ではないトレンドです。

✔︎ 人材獲得競争の激化によりしっかりと給与を払わないと優秀な人材が獲得できなくなりつつある
✔︎ VCマーケットの成熟によって資金調達がしやすくなっており、しっかりと優秀な人材に給与を払う環境がスタートアップ側に揃って来ている

(引き続き、CFが厳しくなりがちなPMF前のアーリーフェーズは別ですが、)感覚的にはシリーズA, Bあたりのスタートアップで、700-800万円くらいの給与はザラですし、すでに平均給与が900-1,000万円近い水準のスタートアップも多く出て来ています。(手前味噌ですが、実際に弊社は未上場ですが、すでにこれに近い水準にあります)

例:メルカリの2021年の平均給与:920万円、Plaidの平均給与:887万円

ちなみにUSの場合はスタートアップにおける平均年収が1,200万円を超えているというデータもあり、日本も(資金調達もさらに増えていくことが予想される中で人材獲得競争の激化は続く見通しで、)まだまだ上昇トレンドは続きそうです。


SOも考慮した報酬水準比較

SOの配布水準などは会社やその入社タイミングなどによって大きな差があり、極めて振れ幅の大きい領域ですが、ざっくりある程度想定される水準でシミュレーションしてみましょう。

以下前提でシミュレーションします。

- シリーズA, valuation50億円のスタートアップ。
- 0.1%*のSO付与を受ける。
- 単純計算で、SOの行使価格(=0.1%の株式に転換するための払込金額)は500万円(50億円 x 0.1%)**。
- 上場後SO売却時の時価総額が1,000億円。

*) 実際はシリーズB以降の調達で希薄化するが、ここは簡易化のために上場時の潜在株込の発行済株式総数の0.1%という前提)。
**) これも実際はSO設計でもう少し下げられるが簡便な想定。

上記の前提の場合、0.1%のSOの売却時の価値が1億円(1,000億円 x 0.1%)となります。つまり、SO行使のための払い込み500万円を差し引いて、キャピタルゲインが9,500万円となり、(噂の)キャピタルゲイン課税後でも、ざっくり7,500万円のキャッシュインです。
これは、例えば5年で上場+SO売却できたと仮定して、ならすと1年あたり1,500万円強のプラスとなり、年収換算で(給与課税を踏まえると)3,000万円程度というインパクトの大きさです。

これも踏まえて、5年間のキャッシュインの累計額で比較してみましょう。
すごく雑な計算ですが、年収2,000万円で5年間働くと、給与課税などを含めた税後の給与で、5年累計で6,000万円程度のキャッシュインくらいでしょう。スタートアップですと年収1,000万円として、給与課税後で大凡4,000万円のキャッシュイン + 上記の通り上手くいけば7,500万円近いSOからアップサイドとなります。

つまり、5年トータルのキャッシュインが、「トラディショナル企業:6,000万円」 vs  スタートアップ:4,000万円 + 7,500万円のアップサイド」、というところまで迫って来ているというのが現状のリアルかと思います。

註:最後に、念のための繰り返しですが、SOの配布水準は会社のステージや各社の状況によって全く変わってくるので、実際の検討においては個別に試算されてみることを強くお勧めします。


最後に - このトレンドは本流なのか?

ここまで、3つの質問に対しての回答を記載していましたが、実はこの3つのトレンドはお互いが密にリンクしています。

以下表のように、1. 足元優秀な人材がどんどんトラディショナル企業などから流れて来ており、2. そうすると優秀な人材がいるので更に新しく社会的意義のある事業機会やトラディショナル企業とのパートナーシップに拍車がかかり、事業成長のポテンシャルが大きくなります。その結果、よりチャンスがあると見られ 3. VCなどからの調達がしすくなります。リスクマネーが増えると、その資金は人材獲得に流れるので、また 1. 優秀な人材が更に増える、というサイクルに繋がります。

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足元、急激にスタートアップの人材採用が増えているのはこの正のサイクルが強く回り始めている背景があると思います。 

もちろん一時的に3.の調達環境の冷え込みなどにより、このサイクルの回転スピードが落ちる可能性はありますが、それは(過去の歴史を見ても)短期的なボラティリティであり、5-10-20年という長いスパンで考えれば正のトレンドであることは間違い無いのでは、という感触を持っています。

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