ボストン8位サブテンと世間をザワつかせたあの男の狙いとは〜北海道マラソン2024
8月25日に行われる北海道マラソン2024にこの春、話題を呼んだ京都の異色ランナーが参戦する。森井勇磨(34歳、京都陸協)だ。
ちょっと変わっている。山梨学院大を卒業後、実業団の佐川急便やひらまつ病院に所属していた時期はあるが、失礼ながら大した実績は残していなかった。今は京都府内のスポーツ施設の職員。勤務時間に合わせて柔軟に走る時間を決める。1部練習になることも多く、体や時間の使い方を一層、工夫するようになったという。主に「原谷」の起伏をつかった変化走・ヒルトレーニングと公務員時代の川内優輝ばりの試合が練習、練習が試合、ときどき高校生を引っ張るトレーニングコーチがトラック練習という独自の方法で自己記録を更新、世界と戦うところまできた。
キャリアプランはプロとしてやっていくことか、と問えば「スポンサーは1つもありません」という。
今年4月15日のことだった。世界6大大会の1つ〝伝統の〟ボストンマラソンで8位。スタート直後の飛び出しや自らレースを動かす姿は関係者を驚かせた。タイムも日本勢では瀬古利彦さん以来のこの大会でのサブテン(2時間10分切り)となる2時間9分59秒をマーク。パリ五輪男子マラソン日本代表、大迫傑に先着したのもあいまって〝時の人〟となった。さらに、この秋にはやはり世界6大大会の1つニューヨークシティマラソンから出場枠を用意され招待選手に名を連ねるというのだ。
成績や記録が向上した理由は「メンタル(気持ち)」の面が大きいと説明するが、メンタルに変化を与えた理由までは「秘密でお願いします」と明かさなかった。さらにアンバサダーに就任した低酸素トレーニングの効果を体感するのも楽しみの1つに加わった。
森井がマラソンを始めた動機は「世界で活躍」するためだった。
五輪や世界選手権の代表、「日の丸」をつけることもそうだが、マラソンには別の方法があることにも気づいていた。そのための戦略を練ったのが今年のボストンだった。友好都市枠で出場権をつかみ五輪を控えたビッグネームや成功を渇望する、あるいは高額賞金を狙う多士済々の強者たちをも撹乱。してやったりだった。
そんな森井が北海道を走る理由は「オリンピックや世界選手権のことを考えると暑い時期に勝負する」ことが必要ととらえているからだが、これまで5度出場した北海道マラソンでは2018年に3時間オーバーの3時間2分38秒、去年(2023)は山本憲二とケニア勢の乱ペースに巻き込まれ、異例の暑熱下のダメージも考え16キロで途中棄権の憂き目にあうなどしてきた。「北海道マラソンは1回もまともに走れたことがないのできっちり勝負した上で走り切りたい」と思いを込める。
今年の北海道マラソンの目標は「ARE(アレ)」、優勝を目指している。
ペースメーカーがいない大会、自分自身の力が試される大会の経験は豊富にある。自分で最後まで押し切って勝ってきているし、ボストンもそうして8位をもぎ取った。「自分でレースをつくるレースはいけるという手応えがある」。それが強みだと言う森井。パリ五輪後、初の主要マラソンでまた世間をざわつかせる予感を漂わせている。
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