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アルペンスキーという運動の全体像②

今週は先週の続きです。見てない方はこちら

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重心は身体の代表点のようなもの

最初に重心のイメージについて説明しておきます。身体運動で言われる重心(質量中心)とは、力学で定義される重心です。細かい説明はここでは避けますが、重要な点をいくつかまとめると、

・ヒトを頭部、胴体、下腿などに分けたセグメントごとにかかる重力を合成したものが働く位置(セグメントの質量と重力のかかる位置が分かれば算出可能)
・身体内部にあるものではなく、概念的存在

重心は身体の代表点(身体姿勢を一点に集中させたもの)で、運動を考える上で力と重心位置を考えることが最も基本的となります。

ここでは、滑走中の姿勢で重心がどこら辺に位置するのかを見てみたいと思います。スキーヤーの重心は身にまとったすべての衣服、すべての道具を考慮したものになっています。(この理由はスキーヤーとともに動くもの全てを一体としてみなすからです。)(下図)

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上の図は私が滑走中のスキーヤーを測定して得たデータを元に、計算した重心を赤丸で示したものになります。

前から見ると骨盤付近にあり、若干ターンの外側に位置していることが分かります。また横から見ると骨盤の少し前の位置にあります。(ここでも身体内部にないことが分かると思います。)

重心位置は姿勢が変わると変化します。

例えば、図の状態から上半身を倒すと重心は前方下側に移動します。

これは僕の勝手な印象ですが、よく現場で用いられる「ポジション」と呼ばれるものは重心にかなり近いものだと感じています。高いポジションをキープするであるとか、ポジションが下がらないようにとか言われますよね。実際にはもう少し広い意味合いで用いられているような気もします。

さて、重心のイメージが分かったところで図の説明に戻りたいと思います。

滑走者とスキー板(図の左側)

滑走者は自身の姿勢を変化させることで、スキー板に働きかけます。つまり、滑走者の運動はスキー板の運動に集約されます。そして、雪面に直接触れるスキー板がスキーヤーを運んでくれるのです。

スキー板の運動を意のままにコントロールするためには、特定の姿勢をとったり、力をかけたりしなければなりません。

力のかけ方となると身体内部で起きていることで複雑になるので、まず姿勢のみを考えます。

また人は多数の関節を持ち、多様な姿勢をとることができますが、とりあえず初めに姿勢情報を集約した重心のみを考えます。

重心のスキー板に対する動きを考えると、左右・上下・前後の三要素が考えられます。これらの運動とスキー板の動きがどのように関係しているかをおおまかに考えます。(今から述べる関係がすべてではないです。)

まず左右の運動を見てみます。左右の運動は一般的に内傾、外傾などと呼ばれます。ターンをするためには重心がターンの内側に傾き、それに付随してスキー板が傾くことが必要になります。つまり、左右の運動はスキー板の角付けに関係します。さらに角付けと深く関係するのがスキー板のたわみとねじれです。たわみは基本的にスキー板を傾けることで、カービングスキーのくびれ部分がスキーヤーの重さによって雪面につくことで生まれます。また、重心の左右位置によってねじれが変化することが予想されます。

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(赤丸:重心、青線:人、緑:スキー板、黄色:たわみ、ねじれ、前から見た図)

次に上下の運動です。上下の運動はスキー板にを伝えるのに関係しそうです。体重計に乗って上下に動くと瞬間的に針が振れます。これと同じでスキー板により力を伝えるのに役立ちそうです。「より」と書いたのは、上下動が無くても内傾をとるだけでも、ターンするときに発生する遠心力とつり合うようにスキー板にかかる力は大きくなるからです。

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(赤丸:重心、青線:人、緑:スキー板、オレンジ:雪面抗力、黒:運動方向、前から見た図)

最後に前後の運動を見てみましょう。直滑降しながら前後に動くと、スキー板に最も力がかかる場所が変化することを感じ取れると思います。ターン中も同じことが考えられ、スキー板にかかる力の分布を変えることができそうです。

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(赤丸:重心、青線:人、緑:スキー板、
オレンジ:雪面抗力、黒:運動方向、横から見た図)

これまでは身体を点として扱うことで、スキー板に対する身体移動を単純化して考えました。しかし、実際にはもう一つ動ける余地があります。それはスキー板の上下軸周りに回旋することです。イメージしやすいのは、上半身の外向・内向やプロペラターンのように腰の向きを真下方向に向けたまま股関節の内旋や外旋によってスキー板の向きの変更などがあると思います。ターン中の運動では、例えばターン前半にスキー板をずらしたいとき、外側の股関節を内旋することでスキー板の向きを変えることなどがこれに当たります。こうすることで迎え角が大きくなり、ズレが生じます。

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(青:股関節を結んだ線、緑:スキー板、上から見た図)

以上が動きとスキー板の状態変化の関係を大きくとらえて考えたものです。もちろんこれがすべてではなく、もっと複雑な関係性が存在していると考えられます。

さらに今回は重心の位置のみを考えましたが、実際には同じ重心位置をとる場合で、姿勢が異なる場合も想定されます。姿勢が異なれば、発揮できる筋力や力が伝わる効率が変わることが想像されます。

まとめ

今回はアルペンスキーの運動の全体像を要素に分解し、それらがどう関係するのかについての枠組みを紹介してみました。

個々の要素がどう関係するかについてはより詳細な検討が必要となるものの、自分が今どの要素について考えており、どのような位置づけなのかを把握することは、競技者としても大切になると思います。

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Reid, R. C. (2010). A kinematic and kinetic study of alpine skiing technique in slalom.


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