『耳をすまして』を100枚、両手に抱えた日
こんにちは!
SPORTS MENの豊田です。
今回の豊田日記は、SPORTS MENの1st albumの発売で感じたフィジカル・リリースの「重さ」 について、書いてみたいと思います。
1st album『耳をすまして』発売!
2020年10月19日に、SPORTS MENの1st album『耳をすまして』が発売になりました。
この作品は、自分たちで勝手に作った、完全なるインディペンデント盤(自主制作盤)だったのですが、発表する前には想像だにしていなかった様々なリアクションをいただくことができ、嬉しい驚きが絶えないリリース期間でした。
例えば…
音楽ナタリーをはじめ、たくさんのWEBメディアで取り上げていただけたこと。
Lampの染谷大陽さんをはじめ、面識のなかった音楽家の方々が聴いてくださり、Twitterで評価してくださったこと。
エレキコミックのやついいちろうさんが毎週発表している「ヤツコン」で、銀杏ボーイズ、ハンバートハンバートについで第3位に挙げてくださったこと(これは本当に衝撃でした)。
そして、ご自身のラジオ番組にもゲストで呼んでくださったこと。
iTunesのデイリーランキングで邦楽ロック部門Top50(総合Top200)に入ったこと。
Spotifyの公式プレイリスト「秋の気配」に収録曲「柿の木」が選出されたこと。
『ミュージック・マガジン』他、いくつかの音楽雑誌でアルバムについてインタビューしていただけたこと。
etc...
そして何よりも、発売当日から現在に至るまで、自分たちのECサイトでCDを注文してくださる方が絶えずいてくださいました。
そんな諸々によって、本作のリリースを通して僕は初めて、このネット時代に音楽活動をすることの良い側面をたくさん感じることができた気がしています。
お店でCDを取り扱ってもらうことの特別な嬉しさ
それでも、例えば、インタビューの記載された『ミュージック・マガジン』がいざ街の本屋さんに並んだときや、実際にお店にCDが並んだときには、必ず、ネット上で起こった他の様々なことと明らかに一線を画する、特別な喜びがありました。
(こちらの鈴木慶一さんが表紙の『ミュージックマガジン 2021年2月号』にインタビューが載りました…!)
『耳をすまして』は最初、高円寺のAmleteronでのみ、発売と同時にCDを取り扱っていただいたのですが、まず発売の数日前にお店に出荷分のCDをお届けしに行って、それからいよいよ発売日を迎えた、、というそのプロセスに関して、変な言い方ですが、そのままの気持ちを書けば、
「自分はこの嬉しさを100%正面から受け止めることができる」
と感じたのです。
そもそも、10代の頃からずっとバンドをやっていた自分にとって「お店にCDが並ぶ」とか「音楽雑誌にインタビューが載る」というイベントには昔年(せきねん)の想いもあるのですが、そういうウェットな感情に浸っていたわけではなく、もっとシンプルに、
喜びが、頭ではなく、体に来る感じ…
それが何なのかと考えてみるに、おそらく、CDには重さがあるということなのではないかと思います。
まるで、梶井基次郎『檸檬』に出てくるレモンのように…ある重さを持った「もの」が街中に置かれるということには、一筋縄ではいかない重要な意味があるように感じます。
そして、こうして人間が重さのある世界に生きている限り、よく考えてみればそれは「特別な」嬉しさというよりも、どちらかと言うと、何かを世の中に向けて放つ(リリースする)ときの本来あって然るべき手応えなのだと思うのです。
「フィジカル(身体的な)」というカタカナ言葉がわざわざ頻出するのは、今や「非身体的」な、つまりバーチャルな世界が力を持っているからだと思いますが、「体験」が本質的に「体」を拠り所とするものであるならば、非身体的な体験は「非体験」であると言っても過言ではないのかもしれません。
そして、タワレコへの出荷の日
…なんていう変な持論めいたものをこねくり回しても仕方がありませんが、とにかく、発売から1ヶ月後の11月19日から、ご縁あってタワーレコード新宿店でも『耳をすまして』をフィジカルに取り扱ってもらうことが決まりました。
その、出荷作業をしていた11月10日の夕方のこと。
まずは静岡にあるというSONYの倉庫に一度在庫を送らないといけないということだったので、『耳をすまして』が100枚入った段ボールを抱えて、自宅から最寄りのコンビニまでの50mほどの道のりをゆっくり、歩いていました。
そのとき、、両手にかかった程よい重さの中に、
「作詞、作曲、アレンジ、演奏、録音、ミックス、マスタリングという工程を経たあの『音』が、ついにCDという物理的なメディアに固定され、それが、この箱の中に100枚入っていて、自分は今まさに、それを両手で運んでいるーー」
という実感が、かなり確かに感じられ、道端で雷に打たれたような気持ちになったのです。
何か、ダンボールに触れたお腹の辺りがジワリとあたたかくなるような感覚を覚えました。
プリ・プロダクションを除いた実制作だけでも1年近くかかっていたので、満を持しての完成をしみじみと喜べるタイミングは他にも何回かあったのですが、その感覚をそこまでしっかりキャッチしたのは、後にも先にもそのときが一番でした。
そんな気持ちで、コンビニまでのゆるい坂道を一歩一歩踏みしめて歩き、100枚の『耳をすまして』を静岡へと送り出しました。
今、一足先に映画がそうなっているように、音楽もやがてフィジカルなメディアを完全に失う日が来るのかも知れません。
SPORTS MENも、デジタル・リリースという選択も視野に入れながら今後の活動を考え始めています。
だからこそ、ここまで、その重さを尊く感じたのかも知れません。
おまけ:特典ステッカーについて
ちなみに、タワレコでの取り扱い開始にあたって、その仲介をしてくれた旧知の友人のアドバイスで、数量限定の特典ステッカーを作ることにしました。
そこで考案したのが、この、「貼ればどこでも『耳をすまして』ステッカー」です。
ジャケットでコムラマイさんの写真の上にレイヤードされている華奢な白線の枠とテキスト(デザイン by 平瀬謙太朗)だけを、すりガラス状の半透明な素材に印刷しています。
もともと「耳をすまして」というタイトルには、「耳をすまさなくても聴こえてくる音」の対概念としての様々な「静かな音」に、耳をすます。という意味を込めていたので、背景を塗りつぶすステッカーではなく、貼る場所によって様々な背景や模様に寄り添って、それぞれのデザインが完成する…という、そんなようなコンセプトで作りました。
今のところ、再び日の目を見る予定はないのですが、もし気になる方がいらっしゃいましたら、ぜひライブ会場などで声をかけてみてください。
ライブ自体が、ますます実現しにくくなってきてしまっている今日この頃ですが、お会いできた暁には…!!
最後までお読みくださりありがとうございました!