【Dr. Tのスポーツ・エクササイズ医学】ケガ予防策の考え方
こんにちはDr.Tです。今日はケガの予防についてです。
今回は運動前にウォーミングアップをしよう!という話ではなく、運動に関わる団体や組織としてどのようにケガの予防策を考えたらいいかについてお話します。
学校の体育、運動会や市民大会の運営にも役立つのではないかと思います。
理論的なケガ対策
私は大学院の授業でこれを知りました。スポーツ医学を勉強している人には有名な理論です。わかりやすくご紹介します。
ケガ予防策の考え方 TRIPP model(Finchら2006年)
予防策を考えるに値するケガなのかを考える
なぜそのケガが起きるのか(メカニズム)を分析する
そのメカニズムをもとに予防策を創り出す
理想的な環境(研究室や限定された選手のみを対象)で予防策を実施してみる想定している一般的な環境で実施してみる
実施した結果、目的としていたケガが減っているかを評価する
1.まず予防策を考えるに値するケガなのかを考える
せっかく時間とエネルギーを割くなら、役に立つ予防策を作りたいですよね。原則として頻度と重症度でそれを考えます。
擦り傷 vs 脳振盪
例えば擦り傷は頻発するけど、自然に治り、出血さえ止まれば試合や練習から離脱する必要はないですね。なので擦り傷に予防策を作る必要性はそれほど高くないと考えます。
一方で脳振盪は擦り傷ほど頻度は高くないですが、その後試合や練習から離脱しなければいけない+長期に渡る症状が続く可能性があります。重症度が高いということです。予防する必要が擦り傷よりかなり高いのがわかります。
学校の運動では、熱中症や脳振盪、骨折あたりが予防策を講じるに値するのではないでしょうか。
2.なぜそのケガが起きるのか(メカニズム)を分析する
いわゆるリスクを考えるということです。それは運動する人自身の問題であることもあるし、環境の問題であることもあります。通常一つではないですね。その中で予防策によって変えられるものを探します。
例えば、年齢がケガのリスクだとわかっていてもそれを変えることはできないので対策の打ちようがありません。年齢制限を設けるのもいいかもしれませんが、少し趣旨とは離れてしまいます。
予防策によって状況を変えられるものに注目
熱中症であれば、暑さに慣れていない、体温が上昇する不適切な気温や湿度の環境で運動するなどがリスクになります。
3.そのメカニズムをもとに予防策を創り出す
「暑さに慣れていない」→試合前数週間で徐々に外に出る時間を長くするなど少しずつ体をその気候に慣らすことができます。
「不適切な環境で運動する」→危険な時間帯は運動を避ける、運動時間を短くすることで、「環境は変えられないが、環境への暴露を変える」ことができます。
「体温が上昇する」→暴露の調整に加え、服装も変えることができます。
4.は研究での話なので省略します。
5.想定している環境で実施してみる
ここでポイントになるのは当事者たちがどれくらいこの予防策を守ってくれるかです。これがむずかしい!
なかなか守られない子供の投球制限
投球のし過ぎは肘や肩のケガに繋がることはよく知られています。そのため、投球数や投球の球種を制限すべきで、アメリカではルールになっていますし、日本の高校野球でも推奨されています。でもしっかり守られているとは言えない現実があります。
予防策が守られない理由は・・・
ひとつではありません。
当事者が危機感・重要性を感じていない
めんどくさい・煩雑である
実際に守るための人やお金がない
などです。
当事者の理解
アスリートの健康より、試合に勝つことが優先されるというのは実はよくある話です。医療者視点ではほとんどの場合「健康>勝利」ですが、そう思っていない人は多くいます。当事者が納得しないと行動してもらえないのです(涙)
実施しやすさは大切
煩雑な予防策は実行してもらえません。シンプルで簡単であることは重要です。
現実的な予防策を
投球回数を数える人がいないというのも実際に報告された理由のひとつです。
野球の投球制限とは離れますが、高性能のプロテクターを勧めてもお金がかかるので、買えないこともあるでしょう。
6.予防策を実施して目的にしていたケガが減っているかを評価する
やりっぱなしではいけません。実施にこぎつけたことはそれで素晴らしいことですが、本当に役に立ったのかは振り返る必要があります。PDCAサイクルと一緒ですね。
まとめ
ケガの予防策は理論的に考えよう
TRIPP modelが使われる
学校や市民大会などでも基本的な考えは活用できる
運動は安全第一。ケガは予防が大切です。
試合などイベントでのケガの予防策は当日の対応ばかりを考えてしまいがちですが、イベント前の準備のほうが重要なのです。ものを準備するだけでなく、「どんなケガが多くてどのように予防したらいいのか」を選手に教育しておくことは強力な予防策です。
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