運び屋とイーストウッドと老害
※ネタバレ注意
何か面白い映画はやってないかとググッたら、イーストウッドの新作が公開されてるじゃないですか!と歓喜して、まずはストーリーを読んでみました。
〜貧乏な田舎の爺さんが車の運転さえしてくれれば良いという簡単な仕事を受けたが、実はその仕事は違法薬物の運び屋だった〜
概ねこんな内容だったが、これを読んで「あ〜、これは善良な爺さんが悪い奴に騙されてトラブルに巻き込まれて悲惨な目に合うバイオレンス映画なんだなぁ」と思った訳です。
長年映画を見てると、そんなストーリー展開が読めた訳です。
でも、全然違ったんですね。そんな型にハマった映画ではなかったんです。百戦錬磨のイーストウッドから見れば俺なんか青二才もいいとこだった訳です。
まず、このイーストウッド演じる田舎の爺さんが序盤から「インターネットはクソだ」と吐き捨てたり、とにかく口汚い爺さんなんです。
で、物語が進み、割と早い段階で自分が運んでいたモノが違法薬物だと気付いてしまうんです。さあどうする?さあどうなる?と思ったら、この爺さん、予想外の行動に出て、そこから物語は(俺にとって)思わぬ方向に動き出して行くのです。
このイーストウッド演じる爺さんは、今の時代では〝老害〟と呼ばれてしまうタイプ。
インターネットを頑なに否定し、ドライブ中に車が故障してスマホで解決しようとしてアタフタするカップルを「しょーもな」という目で見たりする。
この辺りでイーストウッドのファンなら彼が伝えたいことが分かるんですね。
それは、モノや他人に頼るな、自分で勝負しろ!根性見せろ!お前なら出来る!と。
まさに今で言う老害を地で行くキャラです。
そんな爺さん、物語の序盤で自分が実は違法薬物の運び屋をやらされていたことに気づく。
さてどうなる?と思ったら、なんとこの爺さん、そのまま運び屋をやり続けることにするのです。「え?そうなの?」となるわけです。
確かに、インターネット通販に潰された自分の植物販売業を復活させるためには金が必要だったのですが、そんなことよりもこれは天職とばかりに、運び屋業を楽しみ、得た報酬で高級車を買ったりします。
そして、更に凄いことに運び屋業で成果をあげ、組織のボスに気に入られて組織の中で上り詰めたりします。今の若い悪党より年寄りの一般人の方が気合い入ってるぜ!と言わんばかりです。
扱ってる題材は麻薬だし、そこでのし上がっていく主人公は決して褒められたものではないでしょう。
でも、そこは人間を単純な勧善懲悪で描かないイーストウッド。運び屋という題材を通して現代が見失っていることを浮かび上がらせており、何よりこの映画は様々な愛で溢れています。
そして、これが実話を基にしているって言うのだから驚きです。
パワフルで繊細な作品を発表し続けるイーストウッド。いつ遺作になるのかとハラハラしながら、次の作品を待ちたいと思います。
あ、娼婦と寝れるからまだまだ大丈夫か(作品内の話です笑)